魚・フィッシュ・ペーシェ その2
程なくして食事を終えると、まだ食事を続けている皆よりも一足早く食後の一杯を堪能し始める。
そして食後の一杯を時間をかけて堪能し終える頃には、皆も食事を終えてそれぞれ食後の休憩時間を過ごしていた。
こうして全員食事も終わり食後の休憩も終えた所で、午後から仕事を求めボルスの酒場を後に一路ギルドへと足を進める。
「どれにするかな……」
ギルドへとやって来た自分達は依頼掲示板の前へと足を運ぶと、本日はどの依頼を受けるかを皆で相談しながら決めていく。
害獣の討伐に行商人の護衛、それに店番から子供のお守りまで。今日も多種多様な依頼が掲示板には張り出されている。
「……お」
そんな中で、自分はある依頼が書かれている紙に目が留まった。依頼の内容はスライムの核を依頼主が指定した数集めて依頼主に手渡すと言うものであった。
一見すると採取系の依頼なのだが、それが理由で目に留まった訳ではない。
その依頼に目が留まった理由、それはこの依頼の報酬にあった。ギルドから受け取る通常の報酬と共に、特別報酬として『魚の干物』の文字が書かれていたからだ。
王都では毎日手軽に食べられるようなものではない魚の干物が報酬としてタダで、しかも複数枚貰える。干物だから長期間保存も期待できるし、毎日食べられるのだって夢ではない。
これはもう、この依頼を受けるしかない。
「皆、この依頼なんてどうかな」
とは言え、喰い気味にこの依頼を受けようなんて提案すれば間違いなく特別報酬が目当てであると感付かれる。なので、ここはそれとなく良い依頼を見つけた体で提案してみる。
「ショウイチさんって、魚の干物、本当に好きなんですね」
が、レナさんによってすぐさま特別報酬に書かれてある魚の干物の事について感付かれ、自分がそれに惹かれてこの依頼を提案した事が露見されてしまう。
ま、改めて思えばどのみち全員目を通すわけだし、隠そうとするだけ無駄な話だ。
こうして内心素直に提案するよりも恥ずかしい思いをしつつ、他の皆の意見を聞いていく。
特に反対意見が出る事も無く今回はこの依頼を受ける事が決定すると、カウンターに赴き依頼の手続きを始める。
程なくして手続きを終えると、一路依頼主のもとを訪ねるべくギルドを後にする。
「あ、ここって」
紙に書かれた依頼主のいる場所へと赴くと、そこはつい数時間ほど前に立ち寄り、自分が魚の干物を買った商店であった。
「おや、お客さん。また買い物かい?」
向こうからすればつい数時間前まで店先で悩んでいた客だ、当然顔も覚えていたのだろう。自分の姿を見るや、店主が声を掛けてくる。
そんな店主に、今回は客ではなくギルドのメンバーとして仕事で来たことを告げる。
と、店主は自らが依頼主である事を明かし依頼の詳細に関して説明すべく自分達を店の奥へと案内する。
「いやはや、まさかこんな依頼を受けてくださる方が現れるなんて、驚きです」
店主の男性は自身の身の上話も含め、今回の依頼の詳細を話し始めた。店主の男性は幼い頃からスライム種が好きで、特にスライムの核は自称王都一の収集家を自負するほど愛してやまないのだとか。
所が、最近妻がそれまで収集していたスライムの核を店の経営不振の補填と言う大義名分で売り払ってしまったのだとか。
しかし、妻の目もある上に現在の懐事情では一度売られたものを買い戻す事も出来ず。かと言ってスライムの核の収集を諦める事も出来ず、だが店を経営している以上スライムの核を集めている暇などある筈もない。
そこで、ギルドに依頼を出して自分自身の代わりにスライムの核を集めてくれる人を募っていたのだとか。
「ですが、報酬として出せる額が雀の涙では誰も見向きもせず。そこで店で扱っている魚の干物を現物報酬としてと考えたんですが、やはり魚の干物では結果は同じで」
もはや諦めかけていたそんな所に、自分達が依頼を受けにやって来て。それはもう感謝してもしきれないのだとか。
こうして感謝の言葉を述べられた後に、今回の依頼で集めてきて欲しいスライムの核の数を確認すると、いよいよスライムの核を集める為に出発する運びとなった。
「あ、先に行っててくれる」
のだが、他の皆を先に店の外へと行かせると、自分は依頼主である店主の男性にある相談を持ちかけた。
「あの、今回お求めになる数以上に持ってきた場合、何か報酬の上乗せなどを考えてたりしますか?」
「え、上乗せですか。……ですが、先ほども言ったようにうちの経営は火の車で上乗せできる程のお金は」
「いえ、お金でなくとも現物でも構いません。例えば、魚の干物を更に何枚か上乗せしていただけるとか」
これは正にまたとないチャンス、この機を活かせずしてどうしようか。
自分の提案に最初は渋っていた依頼主ではあったが、現物でもいいと聞いてその態度に変化が訪れた。あと一押し、あと一押しでいける。
「で、では。現物でもいいのなら幾つかの数を持ってくるにつき魚の干物を一枚上乗せします」
こうして、魚の干物を上乗せしてくださる事を取り付けると、先に出て行った皆を追って自分も店を後にする。
なお、皆に追い付いた際に何故か上機嫌で嬉しそうだなと指摘され、自分でも気づかぬ内にその嬉しさが表情などに出ていたことに気が付く事になる。
「さ、頑張って集めるぞ!」
「ショウイチさん、張り切ってますね」
「そんなに張り切る程っすかね、魚の干物欲しさに」
また、どうやら今回の依頼にかける思いにも自分と他の皆とでは温度差があるらしく。レオーネなんかは自分のやる気の凄さに若干引いているが、自分の好きなものが報酬として出るなら誰だってやる気に満ち満ちているだろう。
やる気を抑えきれない自分を先頭に、自分達は一路スライムの核を集めるべく最近足を運んでいない懐かしの森。王都の近くの森へ向け足を進める。




