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最初の第一歩 その5

 こうして身も心も満身創痍になりながらもギルドの扉を潜った先で待っていたのは、正にとどめを刺すに等しい事実であった。


「では、こちらが成功報酬となります」


 カウンターに依頼達成の証明たる、後に名称が分かった下級スライム種の死骸から採取した『スライムの核』と呼ばれるビー玉のようなものを三つ差し出すと、慣れた手つきで職員が必要な手続きを済ませていく。

 そして最後に職員から差し出されたのが、今回の依頼の達成報酬であった。のだが、その額を確認して言葉を失った。


 今回は最低ラインであった為討伐数を稼げば額が変動する事は確かであろうが。それにしても、もはやこれでは子供のお使いと言ってもよい程だ。

 あれだけ苦労してその見返りがたったこれっぽっち。一言で言って割に合わない。まさに骨折り損のくたびれもうけ。


「……はぁ」


 手持ちはまだ十分あるのでお先真っ暗という訳ではないが、今後も支出が収入を上回り続ければその未来は、考えるだけで恐ろしい。


「鍛えないと駄目だよな」


 今回の依頼で嫌と言うほど痛感した自分自身の非力さにため息を出しつつも、今後もギルドのメンバーとして生活していこうと考えると、基礎体力の向上や剣の扱いを覚えるなど改善策としてやる事が山積だ。


「あ、……その前に飯だ」


 しかし、腹が減ってはなんとやら。気づけば身も心も満身創痍になった筈なのに、腹の虫は元気百倍に行動していた。


 時間帯的にも夕食の頃。一体何処で食べようかと考えた挙句、まだ飲食できる店をそれほど知らないが為に自然とボルスの酒場へと足を運ぶ事に。


 昼間とは打って変わって、店内は王都の住民や旅人等様々な職種の人間や亜人等様々な者達で賑わい溢れかえっていた。

 そんな賑やかな店内ではあったが、運よく空いていたカウンター席を見つけると滑り込むように席に着く。

 そしてマスターと軽く言葉を交わすと、料理の注文を頼む。


「こんな事を言っては商売人として失格かも知れませんが、ギルドで夕食をとる方がリーズナブルだと思いますが」


「あっ……と。ここの料理の味の虜になっちゃったんで」


 待つこと数分。注文した料理が運ばれてくると、周囲に気を使ってかマスターから思いがけない言葉が飛び出す。

 そこでギルド内にも飲食できるスペースがある事を思い出したが、料理を頼んでいる手前ど忘れしていましたなどと正直に言うに言えず。嘘ではないが誤魔化せるような言葉を零す。


「それはそれは、嬉しい限りです」


 なんとかうまく切り抜けたらしく、マスターは感謝の言葉と共に他の客の接客へと向かう。


「飯代も考えていかないとな……」


 丸一日という訳ではないがエルガルドに来てから数時間、このエルガルドで今後生きていくには考え知っていかなければならない事が沢山ある。その事を改めて認識させられた。

 そんな事を頭の中で考えながらも、自身の手は出来たての料理を次々と自身の口へと運んでいた。



 程なく夕食を終えて他のお客たちの談笑をBGM替わりにしつつも、食後の一杯を堪能しながら考えに耽っていた。それは、今夜の寝床の事だ。


 前世とは異なりこのエルガルドには自分が帰るべき家というものがない。となると、このボロボロの体を休めるには何処かの宿に泊まるか野宿と言う事になる。

 当然ながら野宿なんて選択肢は王都にいるのだから考えられる筈もなく、となると宿でとなるのだが。今のところ知っている宿屋となるとここ(ボルスの酒場)しかない。


 しかしながらもし先客で一杯ですと言われ泊まれないとなると、面倒だが他の宿屋を探さなければならなくなる。このボロボロの体を引きずって。


「そういえばショウイチさん。ショウイチさんは本日の宿は既にお決まりですか?」


「え?」


 マスターからの思いがけない質問とその後に続けられた言葉で、頭の中で抱いていた不安は一気に吹き飛ぶ事となる。

 部屋にはまだ空きがあり宿泊が可能である事、そして一泊できる事がとんとん拍子でその後決まり。気づくと、部屋の鍵を持って本日泊まる部屋の前に立っていた。


「どんな部屋だろ……」


 鍵を使い扉を開けると、そこには木製で統一された家具やベッド等が置かれており。豪華絢爛とは言えないが、一定の質を持っている事は間違いなかった。

 流石に室内にテレビや水回りは無かったが、木製ならではのぬくもりやランプの神秘さなどから前世のホテルとは異なる良さが感じられる。


「……はぁ」


 そんな部屋を堪能するのもそこそこに、満腹感も相まって襲い掛かる眠気に身を任せるべくベッドに腰を下ろす。


 熟睡の不用になるであろう皮製の胸当てや鞘等を外すと、ベッド脇の鍵の付いた木箱に放り込んでいく。

 のだが。その最中、自分でも今まで気が付かなかった皮製のポーチの存在に気づく事になる。


 さほど大きくはない小物程度を入れる為であろうそのポーチ、一体なにが中に入っているのか。気にはなる。

 しかし、今はそれ以上に、襲い掛かる眠気にその身を委ねたい思いが勝っており。結局、少し気になるながらもそのポーチを木箱に放り込むと、まるで力尽き倒れ込むかのようにベッドに寝転がった。

 そして程なくすると、意識は夢の世界の彼方へと引き込まれていく。

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