救援 その6
二つ目の城壁の門を潜り広がった光景は、まさに戦地とも言うべき光景であった。
城壁の内側、事が起こらなければ素敵な街並みが広がっていたであろう建物の数々が、無傷なものを探す方が大変なほど壊され果てていた。
見るも無残に壊されたものから、一部のみが壊されたものまで様々。その証拠として、道の脇などには建物の一部と見られる石や木等が散乱している。
中には、黒煙も上がっていたのか。黒く焼け焦げた跡も見られる。
そんな光景を目にしながらも、自分達は大通りを進む。とは言え、全員が並んで進むほどの広さも無い為、パーティーごとに並んで進む。
これなら脇道から不意に害獣が現れたとしても、即座に対応し易いだろう。
なお、先頭を務めるのはボルドーさんのパーティーだ。やはりお抱えの方々が戦闘を任せられるのは当然の流れだろう。
そして自分達三人であるが、何と最後尾を任される事になった。何気にこの位置って責任重大ですよ。
しかし、任されたからにはきっちりと役割をこなさないと。と順調に進んでいた矢先、突然動きが停滞した。どうやら、先頭で害獣との戦闘が発生したらしい。
ボルドーさんの実力や補佐する後続パーティーの実力からして手間取る事はないだろうが、それでも対峙する害獣を逆に半包囲するべく後続の一部が脇を抜けて前進し始める。
さて、そんな前方集団とは対照的に自分達最後尾を含めた後方集団はと言えば、前方集団が害獣を片付け終わるまで待機する。
出来れば足を止めたくはないのだが、街の地理に明るくない分下手に脇道や裏路地なんかに足を踏み入れて袋叩きにされるのはよろしくない。
加えて、害獣達は建物の屋根の上からでも襲ってくるので、下手に分散すると確固撃破される確率が高くなる。
なんて思っている傍から、レオーネの声が響く。どうやら後方から屋根伝いに害獣が接近してきたらしい。
鞘から大剣を抜き構えると、既に牽制とばかりに矢を放つレオーネに並びレナさんと共に迎撃態勢を築く。
と、近くの建物の屋根から複数の影が自分達目掛けて降ってくる。それは、鋭利な短剣を逆手に持ったゴブリン系だった。
その切先を一直線に自分達に突き刺そうと降下を続けるゴブリン系達。だが、そう易々と突き刺さってやる訳にはいかない。
幸い自由落下の為軌道は予想し易く、大剣で降り注ぐその切先を受け止めると、着地と同時に姿勢を崩したゴブリン系目掛けて大剣を一閃する。刹那、物言わぬ死体が複数出来上がりだ。
自分に向けられた脅威を取り除いたのでレナさんの支援でもと思ったが、それは余計な考えだった。レナさんの方も既に、降り注いだ脅威は排除済みであったからだ。
「一先ずは振り払えたっすかね」
矢の残数を確認しながら、レオーネは周囲を見渡し一応の安全を確かめる。
とは言え、これで全てが終わった訳ではない。まだまだ、見えない所では害獣達が今か今かと自分達を殺そうとその機会をうかがっているのだから。
その後も何度か害獣達の襲撃を追い払い、遂に街の中心付近にまで先頭集団が到着しようとしていた。
程なくして、先頭集団が到着したのを合図に後続が次々と到着を果たす。かつては街の中心にほど近いと言う立地から栄えていたのだろう、豪華な建物が所々に見られる。
が、それも今となっては事が起こり害獣達に無残に破壊され、その残骸が無情にもその姿を曝け出していた。
また、中心付近へと近づくにつれて目につくようになった害獣以外の死体。即ち、街の住民や行商人、或いはギルドのメンバー達だ。
中でも最後まで諦めずに戦い抜いたであろう同業者達の無残な姿は、見ていてあまりいいものではない。
今回の一件が片付けば、丁重に葬られる事を願うばかりだ。
「よし、交代制で少し休憩する! 休憩が終わればグループに分かれて害獣共の駆逐だ」
ボルドーさんの声と共に、見張り役と休憩する者に分かれての休憩が開始された。事が起こらなければ難なく到着できたであろうこの場所までの移動で、死者こそ出ていないが負傷者は数名ほど出てきている。
軽度なら自力で手当てする者や重度の者には率先して手当てに当たる者等。負傷の程度によって対応は様々だ。
そんな者達のすぐ脇で、干し肉等を食べている者の姿も見られる。
周囲からはあまり食事時には適さない臭いや光景が広がってはいるが、そんな事など気にする素振りも無く淡々と手にした干し肉等を口の中へと放り込んでいる。
「食べないんっすか?」
「え、あぁ。少し考え事をしてただけだ」
とは言え、かく言う自分もそんな一人ではあった。手にしたビスケットを口の中に放り込み、そのしっとりのしの字も無い程堅い食感を味わう。
血生臭い所で食事するなんて、前世では当然考えられなかった。が、ここ(エルガルド)ではそれが当たり前なのだ。
また一つ、気づけばここ(エルガルド)の色に染まった証拠を見出す事になった。
「よし、休憩終了! これよりそれぞれの地区を担当するグループに分かれる」
そんな自身の変化に改めて気づいている内に、貴重な休憩時間は終わりを告げた。




