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救援 その5

 さて、こうして本格的に計画が始動した訳だが、自分の隣にはレナさんが、そして後ろにはレオーネの姿がある。が、カルルやリッチ4世さん、それにフェルの姿は無い。

 何故か、それはカルル達が簡易の陣で待機しているからだ。無論、それには理由がある。


 それは、リッチ4世さんとフェルが対外的に使い魔の立ち位置にある為だ。

 と言うのも、一応使い魔には野生の害獣と区別する為に害獣使い側が各々印をつけていることが多い。だが、乱戦が予想される今回の戦闘で、興奮状態であろう中で倒すべき害獣と使い魔との区別をそんな印を確認しながら戦うなんて事は出来ない。なので、リッチ4世さんとフェルだけではなく、他の使い魔についても陣で待機する事が決められた。

 そしてカルルだが、乱戦となった場合カルルの身を守ってあげられる余裕がないであろうとの考えから、陣で待機しておくように頼んだからだ。本人としては一緒に行きたいと言ったが、何とか説得して待機してもらう事に。

 なお、その際に絶対に帰ってくるとの約束を交わされたのはここだけの話だ。


 所謂魚鱗の陣を形成しながら一歩一歩ポルトの街の南門へと近づいていく。陣の中心には数台の荷車を押すお抱えのパーティーがいる。

 荷車には中間補給地点を形成する為の物資を運ぶ役割と共に、荷を降ろした後は応急の防壁として活用する役割も担っている。

 自分達三人は比較的陣の中心付近にて進んでいる。その近くには、ボルドーさんが率いるパーティーの姿も見られる。


 鎧の擦れる音や足音、更には荒い息遣いなども混じった大人数の人々が発する音を纏いながら、ポルトの街の南門へと近づく。

 流石に視界に鮮明に捉える範囲にまで近づくと、害獣達も反応を見せ始めた。大きく開けっぱなしの南門から、まるで湧き出るように害獣達がその姿を現す。

 現れたのは、蟲系やゴブリン系の害獣だ。


「来るぞ! 構えろ!」


 先頭辺りから声が聞こえ、各々が自身の武器を構え始める。その瞬間が刻一刻と近づく。

 刹那、陣の中から甲高い悲鳴が幾つか聞こえた。声からして、悲鳴を上げたのはどうやら女性の同業者達のようだ。

 何故かと一瞬疑問が過ったが、答えは直ぐに分かった。蟲系の害獣だろう。


 女性と言えどギルドのメンバーなのだからどんな害獣でも臆する事無く、と言う者もいるだろうが。やはり誰だって苦手なものは存在する。生理的に無理と思うものもある。

 そう言えばと、横にいるレナさんに視線を向けると、臆するどころか全て大剣の錆にすると言わんばかりの殺気が漏れてます。そうだ、トンドの森で蟲系達の大群を見ても特になんともなかったので心配は無用でした。


 程なくして、先陣を切って次々に矢が放たれる。それを合図に、近接戦を仕掛けるべく同業者達が突撃を開始した。

 それに遅れまいと自分とレナさんも足を速める。後方はレオーネに任せる。

 手にした盾で降り注ぐ矢を防ぐゴブリン系や、矢を受けてもなお止まる事無く突撃する蟲系等。時が経つにつれ、戦闘音はその凄さを増していく。


「く、こいつまだ倒れないっすか!」


 一体のアーマーウードが複数の矢をその体に受けながらも突っ込んでくる。矢を受けた個所から血を流そうとも、その怒りを自分達にぶつけるべく足を止めない。

 しかしその動きは直線で読みやすい、手にした大剣を振り上げると間髪入れずに振り下ろす。頭から胴体半分まで綺麗に真っ二つとなったアーマーウードだが、出来ればその断面は直視したくない。

 だが、所詮一体倒したところで南門からはまだまだ後続が湧きだし続けている。

 様々な声や音が入り混じった攻防は、まだまだ始まったばかりだ。



 その後も蟲系やゴブリン系を大剣の錆にしていると、先頭集団が南門へと辿り着いた。一部が辿り着けば、後は流れるように全体が南門へと張り付く。

 とは言え、確保するのもそう簡単な事ではない。害獣は前後のみならず、上からもやって来る。ドラゴンフライ等の飛行能力を有した害獣がいるからだ。

 前から後ろから、横から上から害獣の脅威が襲い掛かるそれらを何とか迎撃していく。

 自分も視界に捉えた害獣達を片っ端から大剣で切るが、正直言って一体いつになったら終わるのかと思わざるを得なかった。


 早朝から始まった計画の第一段階たる南門の確保、それは昼近くまで続き、太陽がその分厚い雲に隠れて隙間から時折光が漏れる頃。周辺から飛来したり襲い掛かって来る害獣の姿が消えた。その代り、害獣の死体の山は至る所に見られるようになったが。



 さて、確保も出来た所で荷車から物資が降ろされ、空になった荷車が応急の防壁として次々に設置される。何とか第一段階完了と言った所か。

 同業者達が安堵したように次々に一息つき始める。中には、新米が中心なのか、害獣の死体から戦利品回収とばかりに素材や持ち物の回収作業に勤しんでいる者達姿も見られる。抜け目ないと言うかなんというか。


「ふぅ……」


「お疲れ様」


 自分も一息つくべく地面に腰を下ろす、当然害獣達の血が付着していない場所にだ。

 そんな自分に、レナさんが労いの言葉を掛けてくれる。その声を聴くだけで疲労が吹き飛びます。

 と、ある事に気が付く。害獣の返り血だろうか、頬に血が付いている。素早く小物入れ用のポーチから布切れを取り出すと、立ち上がり、優しくレナさんの頬の血を拭き取る。


「あ」


「はい、綺麗になった」


 刹那、頬の血は拭き取ったがそれ以上に、いやレナさんの顔全体が真っ赤に染まっていた。


「いいっすね、いいっすね。羨ましいっすね」


 後ろから、先ほどの戦闘で消費し過ぎたのか物資の中から矢を補充していたレオーネの声が聞こえたが、とりあえず聞き流す事にした。


 さて、レナさんと触れ合って英気を養った所で、自身に付着した返り血などを拭き取りながらもこの後の予定を耳を立てて伺う。

 無事に南門を確保した次は、ポルトの街に居座る害獣を駆逐しつつの街中の安全の確保だ。


 各門から街を横断するように設けられた大通りを進み、街の中心部付近までの現状確認。その後害獣の駆逐に移行するのだとか。

 少し急ぎ足過ぎる気もするが、どうやら南門の確保で予想を上回る程時間を喰ったしわ寄せが来ているらしい。


 街に進入するのは半数程度。

 本当はもっと人数を出したいのだろうが、先ほどまでの戦闘で負傷した者もいる為、その者達は後方の陣へと送られる事に。

 更にこの場を維持し防衛する為にも人数が必要なので、結果として街に進入するのは半数程度となっている。


 ま、侵入するのは自分達だけではなく他の門からも他のギルドの一団が進入するので集中攻撃を浴びる事はないとは思うが。それでも、今までよりも戦闘の厳しさが増すのは必須だろうな。

 その後軽い食事と水分補給の時間が設けられ、全体的にそれらが終わる頃には、お抱えメンバーから指示が飛び、街への進入が開始される。

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