救援
パーティーの名が知れ渡り、指名される事が増えてきたので指名される依頼の度合いも多くなるかとも思ってはいたが、やはりそう直ぐには増えるものではない様だ。
数日経過したが、特に指名の依頼が来たとの報告は無く。未だに自分達から依頼を探して受けている割合の方が圧倒的に多い。
とは言え、急に引く手数多な状況になっても困りものではあるのだが。
そして今もまた、ギルドで探し受けた害獣討伐の依頼をこなしている最中である。
今やすっかり馴染みの場所となった森で、ゴブリン系と狼を討伐している。今し方も、ゴブリン系の一体が自分の持つ大剣の錆と化した。
更に周辺を見渡せば、数体のゴブリン系の死体が横たわっている。これら全て、自分の大剣の錆と化したもの達だ。
さて、どうやらこれ以上の害獣の姿は無く、カルルもフェルも特に反応を示さない所を見ると、これにて終了のようだ。
「終了っすね。大分数も狩れましたし」
自らの弓を収めたレオーネが回収した戦利品の数々を手に近づいてくる。今回も、レオーネの弓の腕前は遺憾なく発揮された事は周知の事実であった。
「こちらも終わりました」
そして、自らの大剣を背に報告を行うレナさんもまた安定した力を発揮し、幾多もの害獣を葬ってきた。
自分にレナさん、それにレオーネの活躍により、今日も多くの害獣を討伐する事が出来た。無論、カルルやフェルの活躍も忘れてはならない。
「いやはや、今回も皆さま大活躍でしたね」
ただ、相変わらずと言うべきか。仕方がない所があるとは言え、リッチ4世さんは相変わらずカルルの腕の中に収まっている。
その後、回収した戦利品を冒険者鞄に入れて、森を後に王都への帰路につく。
通り慣れた街道を歩き、通り慣れた門を潜り、通り慣れた王都の通りを歩く。
こうして王都のギルドへと到着すると、カウンターで手続きを済ませて報酬を受け取る。そして分配を終えると戦利品を売るべく馴染みの店へと足を運ぶ。
馴染みの店で戦利品を売り終えると、昼食を食べるべく再びギルドへと足を運んだ。
再びギルドに到着し、飲食スペースで楽しく昼食を食べていると、何やらギルド内が慌ただしさを増してきた。
先ほどから、ギルド職員が足早にギルド内を往来している。こんな光景は頻繁に見られるものではないので、何らかの事態が起こっている事が容易に想像できる。
とは言え、まだ何の発表も無い為、一体どんな事が起こっているかの詳細までは分からないが。
もしかして、またドラゴンの目撃情報でも伝えられてきたのだろうか。
「あ、ショウイチさん。こちらにいらっしゃったんですか」
只ならぬ雰囲気がギルド内に蔓延し始めた中、とりあえず昼食を食べ続けていると、不意に聞きなれた声で名を呼ばれる。
声の方へと振り返ると、そこには見慣れた顔のギルド職員の男性、オルファーさんの姿が。ただ、その表情には何処か焦りの色が見られる。
「どうかしたんですか?」
「えぇ、少し困った事になりまして……。今は申し上げられないんですが、あの。暫くギルドで待機していてもらえませんか」
「え?」
突然の事に、一瞬頭が混乱しそうになる。が、直ぐに状況を整理すべくオルファーさんに質問を飛ばす。
しかし、後に発表があり今はまだ申し上げられないと言うだけで、何故待機しておかなければならないのかの理由は分からず終いであった。
しかも、どうやら待機命令は強制力の伴うもののようで、言葉遣いこそ丁寧であったが従わなければならないようだ。
その後、これ以上追及しても無駄と判断したのでオルファーさんとの話を切り上げると、残っていた昼食に再び手を付け何らかの発表がされるのを待つ。
程なくして昼食を食べ終えゆっくりと過ごしていると、ギルド内の慌ただしさが一段と増した。それは職員のみならずギルド内に居た同業者達にも待機命令が広く伝わった為だろう。
時間が経つにつれギルド内は人で埋まっていく。自分達と同じく先にギルド内にいた者に加え、ギルド内の状況を知らずギルドに入ってきた者も加わって、ギルド内は見た事も無い程に人で溢れていた。これも待機命令が出ている為に他ならない。
そんな中で自分達は座っていた場所から動けずにいた。もっとも、それは周囲の席に座っていた同業者達も同様だ。
中には待つことが嫌いなのか、手持ち無沙汰に嫌気が差したのか、近くの同業者に半ば八つ当たりしている同業者の姿も見られる。
本当に一体いつまでこの状況は続くのかと思っていると、何やらギルド内に声が響き渡る。
耳を澄ませてよく聞けば、イシュダン王国王都支店の副支店長から何やら発表があるとの事だ。
程なくして、副支店長であろう初老の男性が人込みの中台に乗りその姿を現した。
一体どんな発表があるのかとギルド内が副支店長に視線を集中し静まり返る中、静かに副支店長が発表を始めた。
「皆様、緊急事態が発生いたしました。王国北部に在るポルトの街に害獣の大群が押し寄せているとの事です」
副支店長の言葉に、ギルド内にどよめきが沸き起こる。それもそうだろう、事前に何の兆候も情報も無く突然そんな発表を聞かされては。
ギルド職員達がどよめきを抑え再び静まり返ると、副支店長は説明を続ける。
どうやら、ポルトの街に押し寄せている害獣はその多くが下級に区別されるもののようであるが。それでもその数が通常では考えられない程である為か、ポルトの街に居るギルドのメンバーや王国軍の守備隊は苦戦を強いられているようだ。
一応王国軍側は救援の為に準備している様だが、高度な政治的判断があるのかそれとも単にお役所仕事の為か時間がかかるらしい。そこで、ポルトの街から比較的近い位置にあるギルドからメンバーを早急に救援として派遣する事が決定されたそうだ。
ただ、事は急を要する為とりあえず集まったメンバーを現地に送る事を最優先にする為、質や連携等については二の次とか。
もっとも、選別してその間にポルトの街が滅びてしまっては元も子もないが。
烏合の衆を送って大丈夫なのかと少し送り出す側の立場を考えてしまったが。向う側の立場に戻ってみると、提示された今回の成功報酬は一人頭かなり高額であった。街の存亡がかかっているので当然と言えば当然だが。
ただ、他のギルドも合わせて相当数が送られる様なので、やはり中には途中で放棄する者も出てくるのだろうな。等と、思わざるを得ない。
何故なら、所詮自分達は国に命を捧げる覚悟でこの職に就いたわけではないのだから。自らの命が危うくなったら国家の存亡だろうが街の消滅だろうが、他の事なんて二の次になるだろう。
ま、それを考慮して数撃てば当たるよろしく、ギルド側も数を送る魂胆なんだと思うが。




