日常 その4
挨拶代わりにレオーネの放った矢が兜も被らぬ一体の頭を射抜く。
すると、いつもと異なる状況に一瞬困惑した様子を見せたゴブリン系だったが、直ぐに敵意を露にすると各々手にした武器を掲げて自分達に向かってくる。
が、結局その武器が自分達に傷をつける事はなかった。何故なら、レオーネの放つ矢の前に全員が倒れたからである。
結局数が少ない事もあり、自分やレナさんが応戦する事もなく、レオーネだけで討伐出来てしまった。
「呆気なかったっすね」
「あれでもまだまだ一部だろうから、気は抜けないぞ」
レオーネに声を掛けつつ周囲に気を配る。まだ始まったばかりだ、気を緩めるわけにはいかない。
それからも、一定の間隔を置くかのように次から次へと害獣はその姿を現した。
兜を被ったスライム種に猪のような外見の害獣、更にはゴブリン系の中でも変わり種の石のような肌質と四足でその角ばった容姿から、ストーンゴブリンと言う名が付けられたものも中にはいた。
それらの害獣達はやはりどれも数はそれほど多くなく、時に鉢合わせして害獣同志争う場面もあったりとして、自分達は特に苦戦を強いられる事も無く順調に討伐を続けた。
こうして農園と森林との境界一帯に害獣の死体が点在する中、合間の戦利品回収を終え自分達は一息ついていた。
「これっていつまで続くんっすかね」
「かなり数も倒したし、そう長くはないんじゃないかな」
一つ一つは大したことがなくても、それが積み重なれば影響も出てくる。疲労困憊ではないが、徐々に疲れの色は出始めていた。
確かこの辺りは害獣が大量に生息している地域ではない、なので終わりが見えない訳ではないだろう。ただ、あとどれ位で終わりを迎えるかは自分も分からないが。
そして、出来る事ならもう少し一休みさせて欲しいものだ。
気が付けば、新たな害獣の集団が森林からその姿を現していた。
「ヒャッハー!」
まさに悪の権化、凶悪な面構えに相応しいモヒカンが更にその凶悪さを引き立たせている。先ほど討伐したモヒカンの無いゴブリン系と比べると、その凶悪具合の倍増さに驚くだろう。
モヒカンゴブリン、まさに見た目通りの名前こそ奴らに付けられた名前だ。
残念ながら火炎放射器なんてものは手にしていないが、短剣や短斧など、殺傷能力のある物がその手には握られている。
そしてその切先は、今や間違いなく自分達に向けられていた。
「また新手っすか!」
手にした短剣や短斧等で自分達を切り刻もうと駆け出すモヒカンゴブリン達。自分達もそれを迎え撃つべく構えるが、そこで自分達の前に一歩出る人物が。
それは誰であろう、リッチ4世さんであった。
「皆さん、ここはこの私に任せてはくれませんか?」
「え、でも」
「ほほ、ご安心ください。あの程度の数、問題ありません。それよりも、皆さんはその間にご休憩を」
珍しくやる気を見せているリッチ4世さん、そんな気持ちを無駄にする訳にもいかず、モヒカンゴブリン達の相手を託す。
しかし、数が少ないとは言え万が一に備えていつでも助太刀できる体勢は維持しておく。
「ヒャッハー!」
その凶悪な姿に似合う声を張り上げながら、モヒカンゴブリン達は一直線に立ちはだかるリッチ4世さんへと近づく。
「農業の大切さも分からぬ愚か者の皆様方には、この私が成り代わって成敗して差し上げましょう!」
すると、リッチ4世さんは不意に手に持っている禍々しい杖を迫りくるモヒカンゴブリン達へと向けた。
「くらえ、悪を成敗する紳士の華麗なる魔法! 汚物は消毒ファイヤー!」
刹那、色々とツッコみ所のある言葉と共に禍々しい杖の先端から複数の火の玉がその姿を現す。そしてそれは、まるでそれ自らが意思を持っているかのように迫りくるモヒカンゴブリン達目掛けて飛来した。
「アヒャ、ハー!」
飛来した火の玉を受けたモヒカンゴブリン達は、皆瞬く間にその姿を灼熱の炎に変えた。
必死に炎を振り払おうと或いは消そうともがいてはいたが、結局全身を燃やす炎は振り払えず、またその勢いは衰える事も無く。僅かな断末魔と共に、モヒカンゴブリン達は黒く焼け焦げたその体を大地に横たわらせた。
まさにそれは勝つべくして勝ったと言うべきか。圧倒的な光景であった。
「ほほほ、どうですか、これぞ食を愛する紳士たる私の実力ですよ」
胸を張り満足げな声を挙げるリッチ4世さん。いつもはだらしのない煩悩の塊だが、やはりやる時はやるのだ。
ツッコみたい箇所もあるにはあったが、今はただあっぱれと言葉を掛けておこう。
その後、あのモヒカンゴブリン達が最後であったのか、結局新手が姿を現す事はなく。あまり実感のないまま、農園を害獣の脅威から守る依頼は終わりを告げた。
依頼主のいる家へと戻ると、無事に害獣達を討伐し農園を守り抜いた旨を伝える。
すると、涙を流しながら自分の手を取り感謝の言葉を述べていた。依頼主のそんな姿を見て、今回の依頼を無事にやりきれて良かったという気持ちが湧き上がってくる。
「おぉ、そうだ。では、こちらが特別報酬のリンゴです」
程なくして証明書を貰うと、同時に依頼主の男性が紙袋を手渡してくる。紙袋の中には、農園で大事に栽培されたリンゴが入っていた。
「ありがとうございます」
お礼を述べると、頂いた紙袋を手に家を後にする。待ってもらっていた辻馬車に乗り込むと、自分達を乗せた辻馬車は農園を後に王都へと向けて進み始めた。
王都へと向かい進め揺れる辻馬車の中、早速全員で頂いたばかりのリンゴを食べる事に。
「はい、カルル」
嬉しそうな笑顔を見せるカルルに紙袋から取り出したリンゴを一つ手渡し、全員にリンゴが行き渡ったのを確認すると早速食すことに。
手にした真っ赤に熟したリンゴを一口かじる。程よい甘みと酸味が口に広がり、丁寧に大事に育てられたんだなと依頼主の愛情が伝わる味がした。
「美味しいね!」
「あぁ、そうだな」
「これは格別っすね」
「美味しいですね」
皆が舌鼓を打ちながら、その美味しさから笑顔が溢れる。こうしてリンゴを堪能した後雑談しながら辻馬車に揺られ続ける事約三時間、夜の闇がその姿を現し始めた頃、無事に王都へと戻ってきた。
支払いを済ませて辻馬車を降りると、一路ギルドへと向かう。程なくしてギルドに到着すると、カウンターで手続きを済ませる。
受け取った報酬を分配して、本日の依頼は終了する。ギルドを後に馴染みの店で戦利品を売却すれば、後は楽しい夕食の時間だ。本日は、ボルスの酒場で夕食を食べる。
こうして今日もまた一日が終わり、太陽が地平線からその顔を見せる事には新たな一日が幕を開ける。
新たな一日には、一体どんな出来事が待っているのか。それは、誰にも分からない。しかし、だからこそ面白いでもある。
読んでいただき、ありがとうございます。
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