デート
ベシュテットの街から無事に王都へと戻り、美味しい米を五感の全てで堪能して疲れた体をベッドで癒やした翌日。
今日も今日とて快晴の空に眩いばかりの太陽から燦々と光が降り注ぐ。それを窓際に立って一身に受けながら伸びをする。
こうして今日も一日が始まりを告げた矢先、不意に部屋の扉が叩かれる。
「はいはい」
こんな早くに一体誰だろうと扉を開けると、そこには既に自身の仕事着と言うか正装と言うか、見慣れた緑色系統の衣服に身を包んだレオーネが立っていた。
「おはようございますっす」
「どうしたんだ、こんな早く?」
「ちょっとヘンラインさんの所に行ってくるっす。矢の補充がてらこの間の俺の武勇伝を話してくるっすよ!」
昨日の夕食時、今日は丸一日休みとする事を決めていた為、各々自由に行動するのは全く構わない。
にしても何だろう。そんな事を自慢する暇があったらもっとパーティーの役に立つ為に時間を使え、とヘンラインさんに怒られているレオーネの未来が容易に想像できるのだが。
だが、自分が注意をする暇も無く気が付くと報告を終えたレオーネは既に視界から消えていた。
「……ま、いっか」
多分、自分が注意したところでレオーネが武勇伝を話すのを止めるとも思えないし。それに、ミノタウロスを仕留めた事を誰かに自慢したいと言う気持ちも分からなくもない。
と言っても、流石に誰彼構わず言いふらすのは頂けないと思う。ま、少し口が軽いとは言えレオーネもそこまではしないと思うが。
「さて、着替えよ」
今日は丸一日休みとは言え、何時までも寝やすい服装でいる訳にもいかず、仕事着たる黒の鎧一式に着替えるべく部屋の中へと戻る。
もはや慣れた手際で着替え終えると、最後に大剣を収めた鞘を背負い冒険者鞄をかけると、部屋の戸締りを後に一階へと赴く。
「おはようございます、マスター」
「おはようございます」
昨晩の賑やかさが嘘のように、嵐の過ぎ去った後の如く静けさに包まれた一階の酒場。
マスターへの挨拶もそこそこに定位置となったカウンター席に腰掛け、朝食である料理を頼む。程なくして頼んだ料理が運ばれてきたので料理に手を付ける。
と、朝食を進めている最中、誰かが降りてくる。見れば、それはレナさんであった。自分と同じく、レナさんも既に仕事着、見慣れた黒い鎧をその身に纏っている。
「おはようございます、ショウイチさん。マスターも、おはようございます」
「おはようございます」
レナさんも自分同様挨拶もそこそこに隣の席へと腰を下ろすと、朝食である料理を頼んでいく。
程なくしてレナさんの頼んだ料理が運ばれ、二人で朝食を進める。と、今日はどのように過ごそうか、食事を進めながらそんな話で盛り上がる。
こうして話が盛り上がる中朝食を食べ終える。と、そこに見計らったかのようにマスターから食後の一杯が提供される。
こうなると、食後の一杯を堪能しながらまだまだ話は続く。
やがて、食後の一杯を堪能し終えると共に話も終わりを迎える。
「はい、マスター。今日も美味しかったですよ、ご馳走様」
「お粗末様です」
自分とレナさんの朝食のお勘定を済ませると、一旦階段を上り自分達の部屋がある階へと戻る。と、ある部屋の前で足を止める。
部屋の扉を叩いて部屋の主が起きているかどうかを確かめる。と、不意に部屋の扉が開いた。
「おや、ショウイチさんにレナさん」
半開きとなった扉から姿を現したのは、フェルの背に乗ったリッチ4世さんであった。
フェルもリッチ4世さんも省エネモードの為、扉の高さの半分度しかなく自然と目線が下がる。なお、フェルも対外的にはカルルの使い魔という位置づけの為同じ部屋にいるという訳だ。
「カルルは起きてるか?」
「カルルさんならまだ眠っています。何でしたら起こしますが」
「いや、いいんだ。……カルルが起きたら伝えておいてくれるか、レナさんと出かけてくるって」
刹那、表情に変化は無い筈なのだが、リッチ4世さんの表情が何か言いたげなものへと変わった気がした。
「ん? 何か」
「いえいえ、ほほ……了解しました。ではでは、カルルさんにお伝えしておきます。お二人の愛の時間を邪魔しないようにと」
「ちょ!」
即座に反論しようとしたのだが、既に部屋の扉は閉められてしまった。その速さ、開けた時は比べ物にならないほどだ。
幾らフェルの背に乗っているとは言えどうすればあれ程素早く閉められるのかと思えるほど、その動作は素早かった。
とは言え、リッチ4世さんの言いたかったであろう事を全て否定するつもりはない。何故なら、少なからずその意図する事は含まれているからだ。
そう、仲のいい男女が二人っきりで出かける。傍から見れば『デート』と思われて当然だ。そして自分自身も、これは『デート』であると思っている。
とりあえず用件は伝え終えたし、折角気持ちよく眠っているであろうカルルを起こすのも気が引けるので、部屋の前を後にしボルスの酒場を後にする。
その時ふと、ボルスの酒場の店先の隅に置いてある荷車に目がいく。
昨日、辻馬車から離し空になった荷車を押してボルスの酒場へと足を運んでいたのだ。流石に店内には入れられず、とりあえずと暫定的にあの場所に置いていた。
所が昨日の食後、マスターとの話の流れで荷車の置き場をどうするのかとなり、マスターの許可を得て暫定的だった筈が本格的な置き場となってしまったのだ。
とは言え、自分達だけがボルスの酒場を利用している訳でもなく、マスターのご厚意に何時までも甘んじている訳にもいかず。出来れば一日でも早く新しい置き場を見つけたいと思っている。
そして、出来れば今回のデート、いやお出かけ中に新たな置き場を見つけたい考えだ。
とは言え、その前にまずは一路道具屋通りに在る馴染みの店へと向かう。理由は、前回手に入れた戦利品の数々を売りに行く為だ。
「すいませーん、戦利品を売りに来たんだけど」
朝でも昼でも、そして夕方でもあまり関係なく相変わらず繁盛しているとは言い難い店内に足を踏み入れ、慣れた手つきでカウンターに戦利品の数々を置いていく。
因みに、ワイバーンの死体から回収した素材の数々も売れるかどうか尋ねた所、下級は兎も角上級の害獣の素材に関しては専門に扱っている店で売った方が旨味が良いと助言を受けた。と同時に、害獣等の素材を専門に扱っている知り合いの店も紹介してもらった。
ただ、自分としてはありがたいのだが、商売人としてその助言は如何なものかと内心少し心配してしまったのはここだけの話だ。
こうして、ゴブリン系達から回収したもののみ売り。店主にお礼を述べると店を後に、一路教えていただいた知り合いの店へと足を向ける。
道具屋通りを後に、とある大通りにある一軒の店の前で足を止める。店先の看板には『素材屋』の文字が刻み込まれており、その周囲には謳い文句であろうか『ドラゴンの鱗あります!』や『爪高価買取中』等といった文字が並んでいる。
「いらっしゃいませ」
教えていただいた店の店内へと足を踏み入れると、店と同じく店内に置かれている木製の商品棚には様々な害獣や動物等の皮や爪等が並べられている。
中には、立派なミノタウロスの角やドラゴンの爪と言ったものまで用意されている。
「本日はどの様なご用件で?」
カウンターに赴き、どの部族かは分からないが店の店員であろうエルフの男性に用件を伝える。
その際、道具屋通りに在る馴染みの店に紹介してもらい訪れた事を伝える。と、どうやらエルフの男性店員はあの店の店主の事を知っているらしく反応する。
その反応から、これはもしや、初入店ではあるがあの店の店主からの紹介と言う事で何らかのおまけがあるのでは、と内心期待してしまう。
たが、思えばワイバーンの皮や爪等今まで売ったことがないので、提示された額がおまけしてもらったのかどうなのかは分からなかった。
なので、こっそりある程度の相場と言うものを知っていそうなレナさんに尋ねてみたのだが。どうやら、セイバーブリゲイド在籍時などは専門の人間がこの手の作業を行っていたのでレナさん自身もあまり詳しくないのだとか。
とは言え、流石は上級害獣の素材、スライムの核等とは比べ物にならない額が懐に入った。
「ありがとうございました」
こうして前回手に入れた戦利品の数々を売り払い、とりあえず最初の用件は片付いた。




