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米の為ならえんやこら その2

 ベシュテットの街のさらに東に在る街で立ち往生しているらしいのだが、ワイバーンの目撃情報が出回った為安全が確保されるまでその街で待機となったらしい。

 一応迂回ルートも存在する様だが、そのルートは幾つかの山を迂回する関係から大幅な遅れが生じるとの事で、おそらく二つのルートを比較した上での決定だろうと。

 つまり、唯一の近道であるルートがワイバーンによって脅かされ続けている限り、米が届く事はないと言う事だ。


 まさか、こんな形でこんな身近な所で既に間接的な被害が出ているとは。


「一日でも早く退治されるか、何処かへ去って行ってくれればいいんですけどね」


 注文した料理を提供しながら、マスターは愚痴を零す。

 目の前に差し出された炊き立ての米を眺めながら、何時安全が確保されるか分からない、と言う事はこのままで米が食えなくなる。そんな方程式を頭の中で浮かべていた

 これが仮に下級の害獣だったならば一日と待たずして安全は確保されるだろう。もしかしたら、業者も然程脅威ではないと判断したかも知れない。

 しかし残念な事に今回目撃されたのはワイバーンだ。何時討伐されるか分かったものではない。


「マスター!」


 考え込んでいた為殆ど味など覚えておらず、それでもいつの間にか食べ終えていた矢先、食器の手入れをしているマスターに声を掛ける。


「安心して下さい。自分達がワイバーンを退治してきます!」


 自分の突然の発表に、マスターのみならず当然ながらそんな予定など聞かされていないパーティーの面々も驚きを隠せない。


「ちょ、さっきワイバーン狩りには行かないって言ったじゃないっすか!」


「ショウイチ、急にどうしたんだ?」


 レオーネとカルルは自分の突然の方針転換に混乱の色を隠せない。


「レオーネ、カルル。男には、時に狩らなきゃいけない時があるんだ!」


「意味わかんないっすよ!」


「でも、マスターも困ってますし。日頃の恩返しと言う意味では、ワイバーンを狩る事は一種の恩返しとも言えなくもありませんよ?」


「そう言われれば、分からなくもないっすけど……」


 自分の熱い言葉に更に混乱の色を深めるレオーネとカルルだったが、自分の気持ちを察したレナさんのフォローによって何となくは理解してくれた様だ。



 こうして米の為、もといマスターの為にワイバーンを退治する事が決まり。ボルスの酒場を後に、一路ベシュテットの街を目指すべく辻馬車を探す。

 ベシュテットの街には駅馬車も通ってはいるが、出発の時間設定があったり途中の街や村にも停車する為、辻馬車と比べると同じ距離でもかかる時間に差が出る。

 急いでいないのなら問題ないが、今回は急を要す為辻馬車で行く事に。


「え、ベシュテットの街までだって? ……悪いが、今はちょっと無理だな」


 だが、ここで思わぬ事態が発生する。

 と言うのも、これもワイバーン目撃の影響だろう、行き場を告げるとどの御者の方々も途端に歯切れが悪くなり行くのは無理だと言い出す始末。

 おそらく情報が出回って危機回避の為の措置だとは思うが、自分達としては今はそれでは困る。

 何とか粘り強くベシュテットの街に行ってくれる辻馬車がないかと探し、やっとその可能性がある辻馬車を見つけ出す。


「行ってもいいですけどね。知ってるでしょ、今あの街の近くでワイバーンが目撃されたって。仮にも襲われちゃったらね、こっちも商売だし……」


「倍払えばいいのか」


「ちょっとちょっと、何もそんな事言ってないでしょ」


 そう言いながらも、御者の男性の表情は話が分かっているじゃないかと言わんばかりだ。


「ま、でも。倍払ってくれるって言うんなら、行っても……」


「悪いが急いでるんだ。即決してくれるか」


 何とかもっといい条件を引き出そうと話を引き延ばそうとする魂胆であろう御者の男性に、少し威圧的な口調で言葉を投げかける。

 すると、これ以上の条件を引き出すのは無理と悟ったのか、御者の男性は焦るように承諾する。

 こうして辻馬車も見つかり、一路王都を後にベシュテットの街を目指す。



 ベシュテットの街には王都から馬車で移動しても最低三日程度はかかる。

 急いでの出発の為あまり準備が万全とも言終えず、途中立ち寄った街や村等で必要な品物を買い揃えつつ、ベシュテットの街を目指す。


 道中何度か下級の害獣との遭遇もあったが、特に苦戦する事も無く全て払いのけつつ順調に進む。

 そして王都出発から三日後、天高く太陽がその姿を見せつけている中、自分達を乗せた辻馬車は無事にベシュテットの街へと到着した。


 王都程ではないにしろ、要所としての役割からか立派な城壁に囲まれたベシュテットの街。そんなベシュテットの街の一角に在る広場へと降り立った自分達。


「ありがとう、助かった」


「……ったく、もうこんなのは御免だからね!」


 ベシュテットの街に近づくにつれ顔色が優れなくなった御者の男性に、約束通り通常よりも幾分増した額を支払う。

 こうして支払いを終えると、早速ワイバーン退治の為の行動に移る。


「やっぱり同業者の方々が多いですね」


「やっぱ皆ワイバーン目当てっすかね」


 とりあえずワイバーンに関する情報収集、目撃された詳細な場所や既に他に先を越されていないかなどを聞き込むためにベシュテットの街を歩く。

 すると、理由は違えど自分達と獲物は同じであろう同業者の姿が数多く見られる。近隣から駆けつけてきたのか、それとも遠方から遥々やって来たのか。何れにせよかなりの数と見られる。

 そんな同業者達に後れを取るまいと自分達も聞き込みを開始する。


 生憎とこのベシュテットの街には、街の規模からして在ってもよさそうなギルドが無い。なので、必然的に必要な情報は自分達の足で稼がなければならない。


 街を歩き、商店の者から酒場にいる者、地元民と思しき者に至るまで声を掛け情報を集めていく。

 こうして集めた情報を整理し、ある程度ワイバーンが今いそうな場所を絞り込むと、いよいよワイバーン退治の為にその近辺へと赴く。


「ん~。駄目、分かんない」


 のだが、やはり地に足を付けて移動する訳ではないワイバーンをカルルの嗅覚で探し出すのは難しく。

 現在いそうな場所たる森に足を踏み入れてからと言うもの、特にワイバーンらしき臭いを感じる事は出来ていない。


 そもそも今現在この森にいる可能性だって高いわけではないので、無駄足を踏んでいる感も拭いきれていない。

 とは言え、これ以上効率的で的確な捜索方法があるかと言われれば、思いつかない。


 一応、ベシュテットの街に集っている同業者達と一致団結すれば数の力で効率的で効果的な捜索が出来るだろう。ただし、全員が組織的に動ければの話ではあるが。

 残念ながら、数だけ集めた所で我々はセイバーブリゲイドの様な集団にはなれないのだ。


「なんか、もっと簡単にワイバーンの居所が分かる方法とかないっすかね」


 無い物強請りと分かっていても、それを望まずにはいられない。とは言え、今の自分達にはこれ以上の手立てが無いのが実情だ。


「……ありますぞ、一応」


 と思っていたら、意外な所から助け舟が現れる。

 その出所は、カルルの腕に抱かれたリッチ4世さんからに他ならない。


「ワイバーンの居所が分かる魔法とか?」


 日頃から紳士の風上にも置けない煩悩丸出しの骨格野郎と思ってはいたが、流石は魔界屈指の魔法使い。こんな時に役に立つ魔法を使えるのか。

 と思っていたら、どうやらそんな魔法を使える訳ではないらしい。では一体先ほどの言葉はどういう意味かと聞き返すと、意外な言葉が返ってきた。


「なに、カルルさんよりも更に素晴らしい嗅覚を持つものをここに呼ぶのです」


「オイラより凄い?」


「それってどういう事です?」


 リッチ4世さんの言葉の意味が理解しきれず、カルルやレナさんも頭に疑問符を浮かべている。当然、自分もだ。


「つまり、魔法で召喚するんです。空を飛び移動するワイバーンの居所さえも臭いで辿れるほどの素晴らしい能力を持つ、所謂使い魔のようなものを」


 使い魔が使い魔を召喚する。いや、厳密に言えばリッチ4世さんは使い魔ではないのだが、少し頭が混乱しそうだ。

 それにしても、流石は魔界屈指の魔法使いと言った所か。魔法のみならず使い魔も使う事が出来るとは。


「では、早速召喚したいと思いますので」


 カルルの腕から離れ本来の姿に戻ったリッチ4世さんは、手にした禍々しい杖で召喚に必要なのであろう魔方陣を地面に描き始める。

 程なくして魔方陣を描き終えると、次いで自分達に少し離れているように指示すると、詠唱のようなものを唱え始める。

 刹那、地面に描かれた魔方陣から光が発せられると、魔方陣の中央に変化が起こり始めた。


「っ!」


 一体何が起こっているのか最後まで見届けたかったのだが、結局変化が進むにつれ比例してその眩しさを増す魔方陣から発せられる光がそれを許さず。

 結局、再び目を開けた時には全てが終わった後であった。

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