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米の為ならえんやこら

 お喋りだけども弓の腕前は折り紙つきなレオーネが、パーティーの新たな一員として加わってから一週間程が経過した。

 加入翌日からの依頼でレオーネはその弓の腕前を遺憾なく発揮し、特にカルル自慢の嗅覚との組み合わせは予想以上の相乗効果をもたらした。

 その影響で、若干自分とレナさんの活躍の機会が減ってはいたが。それでもパーティーとしては今まで以上に害獣を狩る事が出来ていた。


 そして今日もまた、レオーネと出会い新たな馴染みの場所となりつつある森から王都のギルドへと戻ってきた、そんな時の事だ。


 いつも同業者や依頼主等で賑わっているギルドではあったが、今日は一段とその賑わいが増している気がする。特に同業者達のだ。

 一体何が原因なのかと、丁度カウンターにいたオルファーさんに手続きを済ませる序にその原因を尋ねてみる。


「今日は一段と人が多いですけど、何かあったんですか?」


「えぇ、何でも、王国東部に在るベシュテットの街の近くでワイバーンが目撃されたとかで」


「ワイバーン?」


 ワイバーン、害獣の中でも上級に区別されている代表格の一つで、ドラゴンとは異なり前脚がない代わりに翼が発達しているのが特徴だ。そして、個体差はあれどその実力はスライム種やゴブリン系の比ではない。

 そもそも、空を飛べると言う時点でその優位性は計り知れず。戦闘が平面から立体に変われば当然対抗手段も限られる。また、種によっては炎を吐いたり毒を持っていたりもする。

 相手にすれば厄介極まりない害獣だが、それを討ち取ったとなると自身の実績に箔がつく事は間違いない。


 成程、それで同業者達はあんなにそわそわとしている訳か。


「ワイバーンは行動範囲が広いですから、この王都にも警戒するようにとの旨が通達されているんですよ」


こっち(王都)に来る可能性も?」


「どうでしょうか」


 空を飛べると言う事は山も川も関係ない、何の障害も無く自由に何処でも行き来できる。となると、必然的に行動範囲は広域なものとなり、当然ながら我々の生活圏とも重なる可能性だって高い。

 そう言えば、前世では国内外問わず野生動物が人間の生活圏に度々出没してニュースになっていた事もあったな。生活圏を確保する為に無闇な開拓を行っていないであろうイシュダン王国だが、やはり生態系が前世とは根本的に違うが故に予測は難しいか。


 そもそも、害獣に対する観測や研究がどの程度進んでいるのかによってもその対応は違ってくる。一応、少なくともギルドではそれらの情報は共有されているとは思うが。

 いや、あまり考え込むのは止そう。自分は一介のギルドのメンバーでしかないのだから。


「では、こちらが成功報酬となります」


 考え込んでいた内に手続きが終わり、差し出された報酬を受け取るとカウンターを後にしようとする。


「一応、王都の外に出る際は気を付けておいてくださいね」


「分かりました」


 オルファーさんの注意喚起を背に、カウンターを後に離れて待っていた皆のもとへと歩み寄る。

 そして報酬を分配し終えると、今後の予定について話を始める。


「幾つかのパーティーはワイバーンの首を討ち取る気満々みたいですよ」


 レナさんが自分が手続きをしている間に仕入れた情報を伝えてくる。やはり討ち取って実績に箔を付けようと考える者は少なくない様だ。


「やっぱり俺達もワイバーン狩りに行くんっすか?」


「いや、何時までもベシュテットの街の近くに目当てのワイバーンがいるとは限らないからな……」


 自分達が王都を出発してベシュテットの街の近くに到着するまでの間に移動していないという保証はない。そもそも相手は空を飛べるのだから、入れ違いにでもなったら無駄足以外の何物でもない。

 かと言って、王都の近くにやって来るという保証もない。

 それに、カルルの嗅覚をしても流石に空を飛んでいる相手の臭いを追えと言うのは無理な話だ。


「それに、今の実力で討ち取れるかどうかも分からないし。レオーネはワイバーンと対峙した事ってあるか?」


「いや、ワイバーンと対峙した事なんてないっす」


 今回目撃された個体がどれ程の実力を有しているかは分からないが、少なくとも上級と区別されるに相応しいかそれに近い程のものはあるだろう。

 となると、討ち取れる確率も測れないし、逆に返り討ちにされては目も当てられない。

 後々の為にと討ち取りに行くのも悪くないかも知れないが、今はまだ焦らずゆっくりいこう。

 と言う事で、ワイバーン退治は今回は諦める事となった。



 その後、とりあえず昼食を取ってから新たな依頼を探す事となり、ギルドを後に一路ボルスの酒場に向かう。

 食事ならギルドでも取れるが最近はボルスの酒場で食べる事が多くなっている。別にギルドで提供される料理の味が変わった訳でも、価格が上がった訳でもない。単にボルスの酒場にはあってギルドには無いものが出来たからだ。

 ボルスの酒場のメニューに何品か新メニューが加わっただけなのだが、その内容が、特に自分やレナさんにとっては懐かしく欲していたと言っても過言ではない。


 その新メニューとは『米』、紛れも無い米だ。白米とも、ライスとも、米穀とも呼ばれるそれだ。あの白く光り輝く粒達、前世では当たり前のように食べていたあの米だ。


 思えばその出会いは突然だった。ベルベスク王国から王都へと戻り数日が経過した頃、ふいにあの味が懐かしくなって王都内で流通していないかと朝市や商店を見て回ったが結局置いている店は見つからず。

 その後も細々と探してはいたが、結局何の成果も出ないまま時間だけが経過していった。


 所が、つい数日ほど前の事だ。ボルスの酒場で定位置となったカウンター席で夕食を食べていた時の事、マスターが新しい食材を仕入れたと話を振ってきたのだ。興味津々でどんな食材かと尋ねてマスターが現物と共に答えたのが出会いだった。

 麻袋と共に自分達の前に姿を現したのは、紛れも無く米であった。

 まさかこんな所で出会う事が出来るだなんて夢にも思わず、興奮を抑えきれずに今すぐ食べたいとマスターに訴えたのは今でも鮮明に覚えている。


 因みに、どうやらこの米の出所はベルベスク王国の東、ルザリア大陸の東の端に在る国だそうで。その国では随分と流通しているそうだが、比較的歴史の浅い食材なんだとか。

 なので、当然ながらまだルザリア大陸全土に流通しておらず、マスターが仕入れたのも所謂お試しで仕入れたとの事。

 試しに出して評判が良ければ今後も仕入れを継続する事を検討したとの事で。それで言えば、自分の反応はどうやら良かった様だ。




 そう言えば、生産者に関してはマスターも人づてに聞いたので詳細は分からなかったが。その国でこの米を広めた人物は、自分と似た様な名前をしていたのだとか。

 自分やレナさん、あの時バスに乗った全員だけがこっち(エルガルド)に来て前後は別の世界へ、なんて事はないだろう。

 当然ながら自分達よりも前にこっち(エルガルド)に来た人々もいれば、自分達の後にやって来る人々もいるだろう。となると、どれ位前かは分からないが自分達よりも前にこっち(エルガルド)に来た人々が何らかの革命や革新をもたらしていたとしても不思議ではない。


 ま、自分は異世界から来ました。なんて堂々と名乗れる訳ないので、そう簡単に見分ける事は出来ないだろうが。


「いらっしゃいませ。と、皆さんですか」


 そんな米との出会いを誰に向けた訳でもなく脳内で語っている内に、ボルスの酒場へと到着する。

 やはり夕方から夜にかけての書き入れ時に比べると静かな店内に足を踏み入れると、定位置となったカウンター席に腰を掛ける。

 そして各々が料理を注文していくのだが、自分は当然米を注文する。その味を一番味わえる炊いた米を盛り付けただけのシンプルなものだが、不用な味付けなどない素材そのままの味を生かしたこれこそが一番だ。


 が、自分が米を注文した時、何故かマスターが申し訳なさそうに表情を崩す。


「どうしたんですかマスター? もしかして、品切れですか」


 そう言えば出会ってからというもの、自分は必ずと言っていいほど米を注文していた。レナさんも食べていたし、新メニューと言う事で他の客も頼んでいただろう。お試しなので正規の量と比べると仕入れた量は少ないだろうし、仕入れた分が既に底をついていても不思議ではない。


「いえ、まだ仕入れた分は残っているのですが。実はですね……」


 しかし、どうやらまだお試しで仕入れた分はまだ残っている様だ。では何故あんな表情をしたのだろうか。そう思っていると、マスターはその理由を語った。

 何でも、米の評判が良かったので本格的に仕入れる事にしたのだとか。所が、本格的な仕入れ第一号を持ってくる筈の業者の馬車が輸送ルート上の街で立ち往生しているとの事。

 しかもその理由が、何とあのベシュテットの街の近くで目撃されたワイバーンだと言うのだ。

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