表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/140

お喋りな出会い その3

 日が傾いたとは言えまだ王都が暁に染まるにはまだ早いそんな時間。更に親睦を深める意味も込めた夕食会をするには少しばかり早い。

 なので何処かで時間調整でもと王都内を見て回っていると、とある大通りの一角にとある商店を見つける。掲げられている看板には『アーチェリー射的』の文字が大きく彫られていた。

 アーチェリーと書かれている事から、弓を使っての射的であると容易に想像できる。


「お、そこのエルフのお兄さん! うちでちょっと遊んでいってよ!」


 そんな店の前で客引きをしていたのであろう男性店員の一人が、レオーネの姿を確認するや声を掛けてくる。


「腕に自慢があるなら是非、今なら弓持参でなんと十ガームで遊べるよ!」


 足を止めた自分達を何とか店内に引き入れようと営業トークを繰り広げる店員。そんな店員の言葉を聞いているレオーネ。

 一体どんな判断を下すのかと見守っていると、レオーネは何かを思いついたかのように自分達の方へと顔を向けた。


「そうだ、ショウイチ。ちょっとここで俺の腕前を披露するっすよ」


 遊びとは言え自身の弓の腕前を披露するには最適と思ったのだろう、そう言うとレオーネは店員に歓迎されながら店の中へと足を踏み入れる。

 そんなレオーネの後に続いて自分達も店内へと足を踏み入れる。

 木製の大きな店構え同様に広い店内は、当然の事ながら奥行きがありそこにはお馴染みと言うべき円形でしましま模様の的が等間隔で並んでいる。


「いらっしゃいませ! お遊びになるのは一名様ですか? それとも全員で? 弓のレンタル込ならニ十ガームですが」


「あ、遊ぶのは俺一人っす」


 そんな店内に足を踏み入れると同時に、カウンターから店主らしき男性が声を掛けてくる。そんな店主にレオーネが対応すると料金を支払い、早速射的の準備を始める。

 一方の自分達はと言えば、レオーネの腕前を拝見すべく脇で見守る。


「使える矢は全部で十本、十本全て放ち終えた時点で終了です。的に当たった箇所によってポイントが加算され、的に当たらなければポイントはありません……」


 支給された矢と専用の弓を手にしたレオーネに、店主が説明を行っていく。

 獲得したポイントに応じて景品が貰えるようで、果物から日用品まで様々な物が用意されている。そして、何と一番の目玉として冒険者鞄までもが用意されていた。


 最低十ガームもしくは二十ガームで冒険者鞄が手に入る。それはまさに夢のような事だろう。

 ただ、誰でも簡単に手が届かれては店側の利益などどう考えても出る筈がない。なので、最低的のど真ん中を七本は射抜かなければならないポイントが必要なポイントとして設定されている。


「四本目までは固定されますが、五本目以降は的が動きます。ご理解いただけましたか?」


「了解っす」


 それに加えて、どうやら的は固定ではなく途中から動くようになっている様だ。これでは七本どころか的のど真ん中を射抜く事すら至難の業になる。

 無論、固定されていても簡単かと言えば素人の自分ではそうとは言い切れないが、少なくとも動いているよりは簡単だろう。


「それでは、スタート!」


 そんな考えを巡らせている間にも店主の説明が終わり、いよいよ射的が開始される。

 刹那、レオーネの顔つきが変わった。それは先ほどまで知っていた少しお喋りでお調子者なそれではない、まさに獲物を狩る狩人のそれだ。

 定位置に立ち構えた弓から少しの間を置いて最初の一本が放たれる。その軌道は、まるで吸い寄せられるかの如く的のど真ん中へと向かった。そして、見事に的のど真ん中を射抜く。


「お、一発目から真ん中を当てるとは、なかなかですね」


 自分やカルルなどは一本目からど真ん中を射抜いた事に感服していたが、店主の男性は然程感服する事も無く。むしろあの程度なら驚くほどではないと言わんばかりの感想を漏らしている。

 そんな外野の声など気にする素振りも見せず、レオーネは二本目の矢を放つ。まるで誰かが操っているかのように、二本目の矢は一本目の矢の横を射抜く。即ち、二本続けての最高ポイント獲得だ。


「ほ、ほぉ。続けてとは、大したものだ」


 一本目と異なり明らかに焦りの色が見え始めた店主の口ぶり。それはその後、三本目、四本目と誘導されているかのように最高ポイントの半径の中を射抜いていく事により、更にその濃さを増していく。

 だがそれも束の間、店内に歯車の動く音が響き渡ると共に、店主の男性の口ぶりも焦りの色合いを薄める。


「さぁ、ここからは的が動きますよ! 先ほどまでと同じようにいきますかぁ?」


 的の方に視線を移すと、店主の男性の言う通り、的が高速ではないがある程度の速さで左右に動いていた。



 事前に説明されて分かっていたとは言え、これには流石にレオーネも少なからず動揺しているのでは。

 と視線を再びレオーネの方へと戻すと、レオーネは特に動揺する様子も無く、先ほどと同じく自分自身のペースで弓を構えた。

 刹那、放たれた五本目の矢は、外れる事無く的を射抜いた。しかも、まるで動いている事など関係ないかの如く最高ポイントの半径の中をだ。


「な、なぁ!」


 これには店主の男性も驚きの表情を隠せず、幻ではないかと目を見開いている。

 その後も六本目、七本目と続き。最後の十本目を放ち終えた時点では、既に店主の男性は目を見開いているのみならず空いた口が塞がっていなかった。

 二本ほど最高ポイントの半径の中を射抜けなかったとは言え、結果として八本は最高ポイントを獲得したので冒険者鞄を得る事の出来る必要なポイントは超えている。


「……ふぅ。ま、こんな所っすかね」


 射的を終え狩人の顔つきから少しお喋りでお調子者な元通りの顔つきとなるレオーネ。そんなレオーネに自分達は称賛の声と共に歩み寄った。


「凄い凄い、レオーネの腕前って本当に凄いんだな!」


「いや~それ程でも、あるっすよ」


 特にカルルは興奮冷めやまぬと言った感じで、レオーネも満更でもないと言った言葉を漏らす。

 それから一頻り盛り上がった後に、そんな自分達の盛り上がりとは対照的にまるで魂が抜けたかの如く生気がない店主の男性にレオーネが景品を貰いに行く。貰うのは勿論、冒険者鞄だ。


「……はぁ。ぅく、はい、どうぞ」


 未だ信じられないと言った足取りで店主の男性カウンター奥の景品棚から景品である冒険者鞄を取って来ると、冒険者鞄をレオーネに手渡す。

 クロネル製かどうかは分からないが、とりあえずパーティー二つ目となる冒険者鞄を獲得した。


「そうだ。これって正規品っすよね? 偽物は御免っすよ」


「ちゃんと証明書も入ってる……。本物だよ」


 商人ならばお客は歓迎されるべきものであろうが、今の自分達、特にレオーネは店側からすれば神様どころか悪魔にすら見えるのであろう。



 さて、景品の冒険者鞄も貰ったし程よく時間潰しも出来たので店を後にしようとした。そんな時だった。

 自分がふと口走った事が、まさかその後とんでもない事に発展するとはその時は夢にも思わなかった。


「やっぱり、エルフの種族の血を引く者は皆弓の扱いが上手いんだな」


 前世でのイメージもあり、弓の扱いに関しては手練れが多いのかと勝手な感想を口走る。


「全員がそうって訳じゃないっすよ。部族によっては剣はよくても弓は駄目なんてのもあるっすから」


 だが、前世とは異なり彼らも今は自分と同じ次元に存在する者達だ。やはりそうではないらしい。


「それじゃレオーネの部族は弓の扱いに関しては手練れ揃いとか?」


「そうっすね。俺の部族、『テルダール』と呼ばれてるんっすけど。部族の中でも手練れの者は多かったっすかね」


 刹那、それまで早く出て行ってくれと言わんばかりだった店主の男性の態度が一変。まるで店から出さぬと言わんばかりに出入口の前に立ちはだかると、レオーネに詰め寄り始めた。


「お前! テルダールの者だったのか!」


「そ、そうっすけど……」


「ならこの冒険者鞄は返してもらおうか!」


 そう言うと、無理やりレオーネの手から冒険者鞄を奪い取った店主の男性。幾ら何でも横暴だと訴えると、店主の男性は理由を説明し始めた。


「知らねぇとは言わせねぇよ。テルダールと言えばエルフの中でも一二を争う程弓の名手を輩出してる部族だ、その証拠に各国の軍が弓兵の教官役にはとこぞって取り合うほどだ。それに、荒れ狂う海に浮かんだ船からクラーケンの目を射抜いたとか、天高く飛んでいるワイバーンを矢一本で仕留めたなんて逸話を残してる奴だっているって話だ。そんな部族の者ならあれ位の射的、朝飯前だろうが!」


「でも、それはそれだろう。こちらはちゃんとお金を払ってルールに従って遊んだ訳だし、不正をしたならまだしも適切に遊んだのなら……」


「存在自体が不正みたいなもんだろうが!」


 ああ言えばこう言うとはこの事か、自分達に落ち度はないと言っても店主の男性は聞く耳を持たず頑として今回の射的は無効だと言って聞かない。




 その後不毛な言い争いが続き、結局最後は店主の男性の手によって半ば強引に射的の代金を返金されられ、そのまま自分達は店を追い出される形となってしまった。

 追い出されてもなお追及しようかとも思ったが、店主の男性があの態度ではどう頑張っても状況は変わりそうにない。

 仕方なく、得るものも無く失うものも時間だけと言う状況の中で大通りを歩く事に。


「すいませんっす。俺が余計な事言ったばっかりに……」


「気にするなよ。自分も少し口走ったのも悪かったし」


「はぁ……。ヘンラインさんに考えて行動しろって言われてたのに、早速やらかしてしまったっす」


 先ほどの件でレオーネには非がないのだが、本人としては自身の一言が決定打になったと思っている様だ。

 肩を落としているレオーネを励ます為に言葉を掛けるも、最初に返ってくるのは溜息ばかりだ。


「私もレオーネ君は悪くないと思う。それ所か、レオーネ君はもっと胸を張っていいと思うよ」


「れ、レナさん」


「オイラもレオーネは悪くないと思う! 悪いのはあの店主だ!」


「そうですね、接客に携わる者としてあの態度はいただけませんな。ま、あの態度を変えぬと言うなら遠からずあの店も畳む事になるでしょうが」


 しかし、レナさんやカルル、リッチ4世さんの言葉にレオーネの気持ちが晴れていくのが分かる。


「そうそう。ま、冒険者鞄は惜しかったけどもう既に一つ持ってるし。あればそれはそれで便利だったけど、別に今絶対に欲しい物って訳でもなかったから。その点も気にする事ないぞ」


「え! もう一つ持ってたんっすか!」


 そう言えば言っていなかったと既に冒険者鞄を一つ持っている事を話すと、自分自身の落ち込み様が取り越し苦労に思えたのか、先ほどまでとは経路が異なる大きなため息が漏れる。


「そうだ。この際嫌な事は食べて忘れよう。皆で楽しい食事をとれば嫌な事だってすぐに忘れるさ」


「そうっすね!」


 日が傾き王都が暁に染まりつつある中、自分達は先ほどの一件を忘れるべく夕食会を開催する場所へと足を向ける。と言っても、ボルスの酒場ではあるが。

 時間帯から仕事終わりの商人等で賑わいを見せる店内には、食欲を誘う匂いが漂い、人々の談笑が店内を盛り上げる音楽として鳴り響いている。

 そんな店内に足を踏み入れる頃には、レオーネはすっかり先ほどの事など何事も無かったかの様に振る舞っていた。


「いや~、マスターのコーヒーは最高っすね!」


「お褒め頂いて光栄です」


 定位置となったカウンター席に新たにレオーネを加えて開かれた夕食会は滞りなく終わった。そして現在は、食後のティータイムとなっている。

 自分と同じくコーヒーを頼んだレオーネはその美味さに思わず舌鼓している。と言っても、先ほども料理を口にして同じように舌鼓していたのだが。


「そう言えばショウイチ達はここに泊まってるんっすよね?」


「あぁ、そうだけど」


「だったら、俺も一緒に泊まっていいっすか?」


 確かに一人だけ離れた場所に泊まっているよりは、全員で同じ場所に泊まっていた方が都合がいい。しかし、そんなに都合よく空き部屋があるだろうか。

 とりあえずマスターに部屋の空きがあるかどうかの確認を取ってからと言うと、善は急げとレオーネはマスターに空き部屋がないかどうかを尋ねる。


「空き部屋ですか? それなら丁度一部屋空いていますよ」


 そこから先はとんとん拍子で話が進む。契約を交わしたレオーネは一旦荷物を取りに店を後にし、残された自分達は彼が戻って来るのを食後の一杯を堪能しつつ待つ。

 走って取りに行ってきたのか、それほど時間が経たぬ内に肩で息をしたレオーネが戻ってくる。

 丁度食後の一杯も堪能し終えたので、全員でレオーネの部屋へと向かう。するとそこは、どう見ても自分の部屋の隣であった。


「あれ? 隣がショウイチの部屋なんっすか」


 これもマスターの気遣いなのか、こうなると偶々にしても出来過ぎているような感がある。

 しかしとにもかくにも、パーティーの拠点たるボルスの酒場にまた一人、新たな仲間が加わった。


「改めて、これからもよろしくな、レオーネ」


「はい、よろしくっす!」


 明日からまた、新たな仲間を加えたパーティーの活躍が楽しみだ。

読んでいただき、ありがとうございます。

よろしければ、ご意見やご感想等お待ちいたしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ