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お喋りな出会い その2

 レオーネの喜びが落ち着いた頃、自分のパーティーに加わったのなら一つだけ守ってほしい事がある旨を伝える。

 それは、リッチ4世さんの事についてだ。こんななりをしているがリッチ4世さんが魔族である事、今は自分達の執事をしている事など。更に、これらの事を他言無用にする事などだ。

 魔族と言う単語にレオーネは驚きを隠せない様子ではあったが、それも最初だけで魔族とはこんな姿なんですねと興味の眼差しを向ける事に。怖がっている様子も無いのでこれなら大丈夫だろう。


「と言う訳で絶対に他言無用で頼むぞ」


「了解っす。俺、こう見えても口は堅い方っすから安心してください」


 再度念を押すと若干不安にならなくもない答えが返ってきたが、不用意に漏らした場合のリスクをレオーネも同じく背負ったので軽はずみな言動はとらないと信じたい。


「それじゃ、王都に戻るか」


 行きと異なり仲間が一人増えた自分達は王都への帰路につく為森を後にする。

 いつもの森とは異なり少し距離が離れた場所にある森の為、王都に到着するまでには多少の時間がかかる。

 そんな時間の間にもレオーネは自分達との交流を深める。今まで自身が狩ってきた害獣の話や王都での生活模様など、その持ち前の明るさを遺憾なく発揮し話すその様子から、打ち解けるのにそれほど時間はかからないだろうと感じた。


 こうしてレオーネとの交流を深めながら王都へと到着すると、一路ギルドへと足を向ける。


「それでは、こちらが成功報酬となります」


 ギルドに到着しカウンターで手続きを済ませると、受け取った報酬をレナさんとカルルに配分する。レオーネも別のカウンターで手続きを済ませると合流し、ギルドを後にすると今度は今回の駆除で手に入れた戦利品を売りに行く事に。

 その足で向かったのは道具屋通りに在る馴染みの店だ。相変わらず店内は閑散としており、店主の声がよく聞こえる。


「戦利品を売りに来たんだけど」


「あぁ、そうかい」


 あまり愛想がいいとは言えない店主だが、御ひいきにしている甲斐もあってかこれでも結構おまけしてくれたりもする。

 冒険者鞄から今回の戦利品を取り出しカウンターへと置いていく、それらを店主は一つ一つ手に取り細かく調べていく。

 店主が査定している間自分は付き添っていたが、他の皆はと言えば店内を物色していた。特にレオーネは初来店らしくその品ぞろえに感動していた。


「そうだね。こんな所だね」


 店主の査定も終わり査定額が紙に書かれ提示される。少々少ないような気もする金額が書かれてはいたが店によってはさらに低く査定される店もあり、これでも常連のよしみで少しはおまけしてくれているのだろう。

 この金額で取引成立と述べると、店主はカウンターの奥から布の袋を持ってくる。

 カウンターに置かれた布の袋の中身を確かめるように言われ、言われた通り中を確かめると、中には査定額と同じ分の硬貨が入っていた。


「また良いのがあったら持ってきな」


 店主は戦利品をカウンターの奥へと運び、自分は硬貨の入った布の袋を手に皆のもとへと戻る。


「そう言えば、レオーネの弓は買わなくていいのか?」


 店内に陳列されている剣等を眺めていたレオーネに、自分はそんな事を口にする。

 と言うのも、森から王都に戻るまでの間の事だ。レオーネは自身の相棒とも言うべき愛用の弓をあのゴブリン系達に壊されたと語っていた。なので今すぐにでも新しい弓を買う必要がレオーネにはあった。

 そして幸いな事に、この店には数種類の弓を取り扱っている。気に入る物があればここで買う事も出来る。


「あ、俺の使ってる弓って所謂オーダーメイドってやつで。店で売ってるやつとは違うんっすよ」


「市販のじゃ駄目なのか?」


「駄目って事はないっすけど、やっぱりそれじゃないと力が発揮されないんっすよ」


 プロとしてのこだわりなのだろう。レオーネ専用とも言える弓以外は百パーセントの力を発揮できないと彼は言った。

 結局弓を買う事無く店を後にした自分達は、この後どうするのかを相談する事になったのだが、そこでレオーネがある提案をしてきた。


「もしよかったら、俺の行き付けの鍛冶屋を見に行かないっすか? 新しい弓も注文したい事ですし」


 自身の新しい弓を注文する序に、行き付けの鍛冶屋を紹介すると言い出した。

 特に急ぎの用事も無く急いで次の依頼を探す事も無いので、レオーネの提案に乗って彼の後を付いて行くことになった。



 レオーネの案内のもと歩いてやって来たのは道具屋通りからほど近い場所。建物から伸びた煙突からは黒い煙が立ち上り、あちらこちらから金属を叩く音や削る音などが漏れ聞こえてくる。

 王都内でも鍛冶工房の密集する場所を、自分達は今歩いていた。

 やはり場所が場所だけに、先ほどからすれ違う人々は圧倒的に同業者と思しき者が多く。あとは商人がちらほらと見える程度だ。

 自身の武器や防具をレオーネ同様にオーダーメイドしに来ているのだろうか。個性的な装いの同業者達も少なくはない。


「着いたっすよ。ここが俺の行きつけの鍛冶屋、『ヘンライン鍛冶店』っす」


 レオーネが足を止めて示した一軒の建物。年季が入りくたびれた建物同様、出入り口付近に立て掛けられている年季が入った看板には店名である『ヘンライン鍛冶店』の文字が彫り込まれていた。

 さらにその下には『ギルドのメンバー御用達』とか『一見さん大歓迎』等々。少々安っぽい謳い文句が並んでいる。


「見てくれはこんなっすけど、職人の腕は確かっすよ」


 そう言いながらレオーネはヘンライン鍛冶店へと足を踏み入れる。続けて自分達も店内へと足を踏み入れる。

 店の中は少々手狭に感じる程様々な物で溢れかえっていた。若干無造作に置かれてはいたが、所狭しと並べられている物はどれも自分の馴染みの店に負けず劣らず良い物ばかりで。

 その質の良さには自分のみならず、レナさんも声を漏らして感動する程だ。


「どうっすか、凄いでしょ」


「あぁ、これは凄いな」


 自分自身の店ではないが、行き付けの店が褒められるのは嬉しい。なのでレオーネも鼻高々と言った感じだ。


「お、客かと思えば、レオーネじゃないか」


「クルトさん、こんにちはっす」


 自分達が店内を物色していると、店の奥から店の店員であろう男性が現れた。

 行き付けの店らしくレオーネとは顔見知りのようで、互いに親しい間柄を思わせる口調で言葉が交わされている。


「今日はどうしたんだ?」


「いや~、その~っすね。何と言うっすか、あの……」


 だが、クルトさんと呼ばれた店員から用件を聞かれた途端、レオーネの歯切れが悪くなる。一体どうしたのと言うのか。

 と自分が不思議がっていると。クルトさんは何か感づいたらしく、不敵な笑みを浮かべはじめた。


「はは~ん。さてはレオーネ、お前また……」


「いや、あの! ……、はい、そうっす」


 クルトさんの言葉に、レオーネは反論もせず即座に降伏すると肩を落とした。


「まぁまぁ、そう落ち込むなって。わざとじゃねぇんだからおやっさんだって分かってくれるさ」


「だと、いいんっすけどね」


 白い歯を見せながらレオーネの肩に手を置くクルトさん。二人だけにしか分からない事なのだろうが、あそこまで肩を落とすその原因、少し気になる。

 先ほどクルトさんが言っていたおやっさんと言う人物と何か関係があるのだろうか。


「おやっさん! おやっさん! レオーネが来たぞ!」


「ちょ、クルトさん! まだ心の準備が……」


 心の準備が整わぬ内におやっさんと呼ばれる人物と対面する事態になり慌てふためくレオーネ。しかし、そんなレオーネを宥めながらもクルトさんはおやっさんと呼ばれる人物を呼ぶのを止めない。

 三度目の呼びかけが終わったその時であった。店の奥から、新たな人影が出てきたのは。


「レオーネだと?」


 年季の入った声と共にその姿を自分達の前に現したのは、一目で人間とは異なる種族の者。所謂亜人と呼ばれる人物であった。

 レオーネの様な人間と殆ど外見的大差のない容姿ではなく。カルルの様に二足歩行している羽の無いドラゴン、或いはワイバーンと言った表現が適している容姿をしている。

 鍛冶職人らしく手足には火の粉から身を守る装いがなされているが、それ以外は素のまま。即ち上半身は裸であるし、足元も素足だ。これは鱗のようなものをその身に有している為か、その体は耐火性が高いのだろう。


「ど、どうもっす、ヘンラインさん……」


「レオーネ、おめぇ! また弓をなくしたか壊されたな! だから日頃から俺は一人じゃなく誰かと組んでか、でなきゃ何処かのパーティーにでも入れとあれ程言って聞かせてただろうが! そもそも一人二役なんておめぇにはまだ早いと何度言やぁ分かる!」


「ひ、なんでまだ何も言ってないのに分かるんっすか!」


 作業に使っていたのだろうか、手にしたハンマーを振り回しレオーネに詰め寄るヘンラインさんと呼ばれた人物。

 職人気質も相まってか、その迫力は蚊帳の外で見ている自分も押されてしまいそうな程だ。

 自分ですらこの程度なら、直接迫られているレオーネは相当なものだろう。現に、レオーネはもう腰が引けつつあった。


「おめぇとは長い付き合いなんだ、それ位直ぐに分かる! それよりもどっちだ。なくしたのか、壊されたのか!」


「こ、後者っす」


「大方、後先考えずに矢が無くなるまで狩って不意を突かれたって所か。だから日頃から万が一に備えて余力は残しておけとあれ程言って聞かせてただろうが!」


「ひぃぃぃ!」


 もはや御見通しと言わんばかりのヘンラインさんの言葉に、レオーネは完全に腰が引けていた。

 その後も、ヘンラインさんの愛の鞭と言うべきお言葉が続き。ようやく終わった頃には、レオーネはもう精根尽き果てたと言わんばかりの姿であった。


「……で、あんた達は誰だ? 客か?」


「あ、自分達はその」


 不意にヘンラインさんに話を振られ返事に困っていると、精根尽きたと思っていたレオーネが話に割って入ってくる。何とも気持ちの切り替えが早い事だ。


「ヘンラインさん、俺この人達の、ショウイチのパーティーに入ったんっすよ!」


「あぁ? パーティーに入っただ?」


 レオーネの報告に、ヘンラインさんは信じられないと言わんばかりの言葉を返す。

 そして、自分自身で確かめてやると言わんばかりに自分に確認の為の言葉を投げかけてくる。


「おめぇさん、名前は?」


「し、ショウイチです」


「ショウイチさんよ、本当にこいつをパーティーに加えたのか?」


「はい。レオーネはもう自分のパーティーの立派な一員です」


 ヘンラインさんの目を真っ直ぐに見つめ、嘘偽りなく真実を答える。すると、ヘンラインさんは何の反応も返す事無く店の奥へと姿を消してしまった。

 一体何だろうと若干気まずい空気が流れ始めそうになるが、程なくしてヘンラインさんが店の奥から戻ってきた。

 複合弓を思わせる形状をし、末弭(うらはず)に当たる部分には短剣の剣身のようなものが備え付けられている。そんな特徴的な一挺の弓と大量の矢が入った矢筒を手に持ち戻ってきたのだ。


「あ、これ」


「おめぇさんの事だからと作っておいた予備のだ」


 手にしていた弓と矢筒をレオーネに手渡す。どうやら、あの特徴的な弓がレオーネが言っていた専用の弓の様だ。

 手に馴染む感覚を確かめて違和感を感じていない辺り、先達て失ったものと変わり映えしていない様だ。流石は職人、と言った所か。


 こうしてレオーネが何代目かは分からないが愛用の弓が戻ってきた事に感動していると、何時までも浮かれるなと言わんばかりのヘンラインさんの声が飛ぶ。


「だがいいか! 今度もしまた使い物にならなくなってこの人達に迷惑かけて見ろ、今度はいつもの倍の額を請求するからな! 覚えとけ!」


「そ、そりゃ酷いっすよ!」


「ガタガタ言うな! 倍の額払いたくなかったらこれからはちゃんと自分の役割ってものを考えて行動しな。分かったな!」


「は、はいっす!」


 もはや先ほどまでの感動は何処へやら、上官にあり難いお言葉を賜る兵士の如く直立不動で理解した旨を伝えるレオーネ。

 どうやらレオーネはヘンラインさんに頭が上がらない様だ。


「ショウイチさん、こいつは見ての通りのお調子者だが弓の腕前だけは確かだ、それは保証する。これから苦労を掛けるかも知れねぇが、こいつの事をよろしく頼む」


 未だ直立不動のレオーネを余所に自分にそんな言葉を投げかけると、ヘンラインさんはまだ仕事が残ってるいるので後の事はクルトさんに任せると言い残し、店の奥へと姿を消した。


「はぁ……。疲れたっす」


「ははは、精も根も尽き果てたって顔だな」


 再び白い歯を見せながらレオーネの肩に手を置くクルトさんに、レオーネは『他人事だから笑ってられるんっすよ』とせめてもの言葉をぶつけていた。


「さてと、それじゃ会計だが。防具の方はどうする、買い替えるか?」


「それじゃ、同じ物を買い替えでお願いしますっす」


「了解だ。ちょっと待ってな」


 ゴブリン系達との逃亡劇で重傷を負わなかったとは言え衣服の至る所には傷が目立つ。完全に使え無くなった訳ではないが、あまり格好が良いとは言えない。なのでこの際にと見た目は同じだが一新する事になった。

 クルトさんが今身に着けているのと同じ物を用意すると、レオーネは着替えの為に一旦店の奥へと消える。

 程なくして戻ってくると、見た目は変わらないが傷の無い真新しい緑色系統の衣服に身を包んだレオーネが戻ってきた。


「それじゃ、会計だな」


 こうして武器も防具も一新されたレオーネがお会計を済ませると、クルトさんに見送られながら自分達はヘンライン鍛冶店を後にした。

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