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お喋りな出会い

 あの何とももやもやが残る依頼から一ヶ月ほどが経過した。

 あの後、食べて忘れると言った筈なのに。気づけばオルファーさんにそれとなく依頼主のベイルさんについて聞き出そうとした自分がいた。が、残念ながらやはりガードは堅かった。

 結局スッキリするどころか更にもやもやが増えただけだったが、それも時間が経つにつれ徐々に薄れていき。今となっては、もうほとんど残っていない。


 いつまでも過去を気にせず未来に向かって歩み続けるそんな自分が今何処にいるのかと言えば、王都の近くのお馴染みとなった森、ではなく。別の森にやって来ていた。

 王都よりも少し距離が離れた場所にあるこの森には、王都近くの森の害獣と比べ能力が平均して高い害獣が住み着いており、必然的にこの森に足を踏み入れるには相応の力量が求められる。

 しかし、自分は足を踏み入れた。いや、自分だけではない、レナさんもカルルも、そしてリッチ4世さんも一緒だ。つまり、パーティーでこの森に足を踏み入れたのだ。


 そして、その理由は言わずもがな害獣駆除だ。下級スライム種よりも手強い害獣達を討伐するのだから、その報酬も数次第で雲泥の差となる。

 そんな害獣駆除の今回の獲物は、ゴブリン系である。シャガートさんの依頼の際に駆除した事があったが、この森にいるゴブリン系はあの時のものとは系統が多少異なるようで、所謂モヒカンがなかった。しかしそれ以外は、概ね同じと言えた。


「ゴヒャー!」


 そんなゴブリン系の一体が断末魔をあげながら吹き飛び、近くの大木にその体を打ち付ける。力無く横たわったそれは、再び動き出す事はなかった。

 一体何があのゴブリン系の身に起こったのかと言えば、レナさんの大剣がまさにバットでボールを打つかの如く強打したのだ。


 因みに、レナさんが相手にしていたのは吹き飛んだ一体だけではない。その証拠に、レナさんの周辺にはレナさんの大剣の餌食となったゴブリン系達の死屍累々な光景が広がっている。

 しかし、そんな数を相手にしてもレナさんは息を切らせずにこやかに終わった旨を伝えてくる。

 木々の間から降り注ぐ光がそんなレナさんに当たるその光景は、まさに強さと可憐さを兼ね備えた戦乙女と言う表現がぴったりであった。


「鼻の下が伸びてますぞ」


 レナさんのそんな姿に見とれていると、不意にリッチ4世さんの声が聞こえてくる。

 慌てて声の方を振り向くと、そこには省エネモードのリッチ4世さんが自分を見上げていた。が、変わる筈のないその表情が、何故か今は小馬鹿にしているかのように見える。


「ご苦労様、レナさん」


「あ、スルーですか……」


 ここで反論の一つもしようものならリッチ4世さんの思うつぼの様な気がしたので、とりあえず受け流してレナさんに声を掛ける事に。


「必要な数は討伐しましたけど、まだ狩ります?」


「ん~、どうしようかな」


 今回の依頼で必要最低とされる数は既に到達している。それにまだ日も昇っているので時間的にも、疲労もあまりないので体力的にも余裕がある。

 となるともう少しばかり数をこなすかどうか。そんな相談をレナさんとしている最中、ふとリッチ4世さんの方に目をやるとカルルの方へと近づいて何かを話していた。

 何を話しているのか気にはなったが、先にレナさんとの相談を済ませる。と、見計らったかのようにリッチ4世さんがカルルの腕に抱かれてやって来た。


「なぁ、ショウイチ」


「ん? どうした」


 すると、カルルが自分に声を掛けてきた。


「ショウイチはスルースキルが高いって言ってるけど、スルースキルって何だ?」


 おそらく、いや間違いなくリッチ4世さんに吹き込まれたであろう単語がカルルの口から飛び出す。とりあえず反応しない訳にもいかないので適当に受け流す。


「リッチ4世さん、ちょっと大人の男同士二人でお話ししましょうか……」


 そして、カルルをレナさんに任せると柔らかい口調でリッチ4世さんを捕まえ、そのままその場を離れ二人だけでお話しする事に。

 その内容は無論、純情無垢なカルルに余計な事を吹き込んだ事についてだ。


 そうでなくても度々カルルの前で余計な事をお喋りしているリッチ4世さん。この際だ、今回は少しばかりきつめのお灸をすえなければならない。

 後に、あの時ショウイチさんの後ろに魔王よりも恐ろしい影が見えた。なんて感想を零されたのだが、それはまた別のお話。



 リッチ4世さんとのお話も終わり、小刻みに震えているリッチ4世さんを手に乗せレナさんとカルルのもとへと戻る。

 その際カルルから何故リッチ4世さんは小刻みに振るえているのかと聞かれたので、適当に答えてやり過ごす事に。

 そして、無事にやり過ごせた所で先ほどレナさんと相談して決めた事を伝える。もう少し数をこなして戦利品や報酬を稼がせてもらう方針だ。


 ゴブリン系はスライム種と異なり人間などが使う武器や防具を有している。しかしその質は職人などが適切に手入れしている訳ではないのでお世辞にも良いとは言えない。

 だが、中には偶に質の良い物もあったり、そうでなくとも数を集めて売り飛ばせばスライムの核よりも実入りが良いのは確かだ。

 先ほどレナさんが倒したゴブリン系達の持ち物を冒険者鞄へと放り込むと、自分達は新たな獲物を求めて森を歩きはじめる。


「お、いる」


 程なくして、カルルの自慢の嗅覚が臭いを感じ取る。だが、どうやらいるのは害獣だけではなさそうだ。害獣とは別に人間らしき臭いも感じたとの事。

 もしかしたら襲われているのかも知れない。そんな予感と共にカルルが感じ取った臭いの方へと足を向けると、そこには大木の根元を囲むように数匹のゴブリン系が威勢のいい声と共にその姿を見せる。

 手にした短剣や斧を振りかざしているが、そんな数匹のゴブリン系達の隙間からは、ゴブリン系とは異なる明らかに人間と思しきシルエットが確認できる。どうやら状況からして、大木の根元に追い込まれている様だ。


「レナさん」


「はい」


 負傷しているのか、それとも抗う術を有していないのか。何れにせよ、数匹のゴブリン系達は今にも襲い掛からんとしていた。


 幸い自分達は茂みから様子を窺い、かつ数匹のゴブリン系達は自分達に背を向けている格好となった為奇襲をかけるのは容易であった。

 茂みから飛び出した自分とレナさんは、数匹のゴブリン系達が自分達の存在に気付くと同時に手にした大剣を奴等の体に叩きつけた。鮮血がほとばしりその肉体が宙を舞う。

 そこからはまさに一方的な展開となった。奇襲をかけられ反撃が遅れた数匹のゴブリン系達は、結局まともに反撃する事も出来ず自分とレナさんの持つ大剣の錆と化した。


「大丈夫ですか?」


 周囲に動いているゴブリン系が残っていないのを確認すると、自分が警戒を続ける中レナさんが囲まれていた人に声を掛ける。

 すると、『大丈夫っす』と少しばかり語尾に特徴がある返事が返ってくる。その特徴的な語尾が気になりふと声の主の方へと視線を向けると、そこには商人や村人とは異なる恐らく同業者と思しき男性の姿が。


 緑色系統の衣服には鎧の類は見られないが、弓自体は見当たらないが背に見え隠れする矢筒から恐らく肉弾戦等は考慮していないからだろう。

 整った顔立ちに男性としては長い銀の髪。しかしそれ以上に目に入るのは彼の耳、人間とは異なる尖った耳。メルティナさんと同じエルフの種族の血を引く者だろう。


「いや~、助かったっすよ。矢が尽きたんで引こうかと思ったらあいつ等伏兵が居て、何とか撒こうと思ったんすけどあいつ等しつこくて。……結局ここに追い詰められたんっすよ」


 その顔立ちからはあまり想像できない特徴的な喋りで、彼は自身が大木の根元でゴブリン系達に囲まれていた経緯を聞いてもいないのに話す。


「怪我、大丈夫ですか?」


「あぁ、これ位平気っす。ただのかすり傷程度っすから」


 少しお喋りな彼に若干押されながらも、レナさんは彼の腕の怪我に注目する。確かに彼の腕には切り付けられた後の様なものが見られる。しかし彼自身が大丈夫と言っているのでそれ程重傷でもないのだろう、やせ我慢している様子もないし。


「でも一応、応急処置はしといた方が良いんじゃないか?」


 だが、本人が大丈夫と言っていてもレナさんが心配している事なので、話に割って入るとメディカルポーチと化している小物入れ用のポーチから応急処置に必要な物を取り出し彼に手渡す。


「助けていただいた上にこんな物まで、本当に有難うございますっす!」


 自身で処置を行いながら、彼は特徴的な語尾のお礼を述べる。程なくして処置が終わると、彼から自己紹介が始まった。


「俺、レオーネって言うっす。見た通りギルドのメンバーで孤高の狩人っす」


 自己紹介されてこちらも答えない訳にもいかず。自分とレナさん、それに安全が確認されたのでやって来たカルルとリッチ4世さんも加えパーティーで簡単な自己紹介を行う。


「ショウイチ……、ショウイチってあの『黒騎士』のショウイチっすか! 生ですか、本物ですか! ご本人っすか!」


 そして互いに自己紹介も終わったので別れる。と思っていたのだが、何故かレオーネは自分の名に異様に興奮する始末。

 自分の名を聞いてここまで興奮する人を見た事がなかったので、どう応えたものか自分としては対応に困る。


「えっと、自分のファンか何かで?」


「ギルドで耳にした『黒騎士』の噂を聞いて是非とも一度は会ってみたいと思ってたんっすよ」


 最近聞いていなかった自分の真実と大分異なる噂。月日も経過しているし忘れ去られていると思っていたがどうやらまだまだ現在進行形の様だ。

 まさか更にとんでもない方向に独り歩きしてはいないだろうか。気になって少しだけ耳にしたとされる噂の内容を教えてもらうと、とんでもないものが飛び出してきた。


「とある地域の賊を一人残らず血祭りに上げたとか、セイバーブリゲイドの女性陣を手玉に取ってハーレムを作ろうとしている。とかそんな感じっすね」


 明らかに前回よりも更に無茶苦茶な方へと独り歩きしていた。賊はまだいい、まだ許せる。しかしなんだ、何故自分がハーレムを作るなんてありもしない計画が出来ているんだ。

 一夫多妻制が認められていようがいまいが、自分にはそんな気など毛頭ないぞ。それに何故ハーレム要員がセイバーブリゲイドの女性陣なんだ、確かにレナさんは元セイバーブリゲイドだしエルマさんとも知らない間柄ではないが、それ以外のセイバーブリゲイドの女性陣なんて自分は知らないぞ。

 人の噂も七十五日、もはや所詮言葉なんてそんなものなのか。


「あれ? もしかして事実と異なるんっすか?」


「うん、大分と……」


 肩を落としている自分にレオーネが声を掛けるが、その口ぶり、少しは信じていたのか。どう考えても盛られていると思いそうなものだが。


「まぁ賊は確かに言い過ぎだろうと思ったっすけど、ハーレムは案外そうかと思ってたっすよ」


 何故よりもよってハーレムの方を信じていたのか。自分はそんなに手が早い男じゃないぞ、そもそも自分はレナさん以外手を出そうなんて思っていない。

 ふと弁解したい訳ではないがレナさんの方に視線を向けると、分かっていますとばかりに優しい笑みが向けられる。よかった、やっぱりレナさんは分かってくれていた。


 こうしてレオーネが興奮していた原因も分かり、いよいよお別れかと思っていたら。突如レオーネが自分の手を取りある事を言いだした。


「ここで出会ったのも何かの縁っす! ショウイチ、俺をショウイチのパーティーに加えて欲しいっす! お願いします」


 予期せず唐突に飛び出した仲間に加えて欲しいとの申し出に、自分は唖然とするしかなかった。

 出会ってまだ一時間とも経たぬ内に仲間にしてほしいとの流れには、自分も困惑の色を隠せない。


「いや、あの……」


「これでも俺、弓の腕前には自信があるっす! だからお願いっす、仲間に加えて欲しいっす!」


 レオーネの勢いに負けてしまいそうになると、とりあえず一旦彼を落ち着かせるとパーティーの現役メンバーで彼を加えるかどうかの相談をする事に。


「私はいいと思いますよ。遠距離から攻撃を仕掛けられるようになれば戦術の幅も広がると思いますし」


 レナさんの意見を聞いて確かにと思う。あのもやもやが残る依頼の時にはリッチ4世さんの魔法で何とかなったが、いつでもリッチ4世さんの魔法が使える訳ではない。

 そもそも、何時でも何処でもリッチ4世さんが本来の姿でいていい訳ではない。時と場合によってそれによって自分達に危険が迫る事だってあるかも知れない。

 自分が弓を扱えるようになると言う手も無い事はないが、やはり扱える武器が増えるとその分扱いが広く浅くなり、場合によっては戦力が低下する事も考えられる。

 なので、リッチ4世さんの魔法に頼らず距離の離れた相手に仕掛けられる手段が手に入るのは確かにいい。

 

「カルルはどう思う?」


「オイラも仲間が増えるのは大賛成!」


「私も良いとは思いますよ。……これがマドゥモワゼルなら尚良いのですけどね」


 煩悩丸出しのリッチ4世さんの意見は兎も角、カルルもレオーネのパーティー参加には賛成の様だ。

 程なくして相談が終わると、待たせているレオーネに相談の結果を伝える。結果は無論、レオーネの参加を認めるというものだ。


「マジっすか、やったー! よろしくお願いしますっす!」


 体全体で喜びを表現するレオーネ。ここにまた一人、新たな仲間がパーティーに加わった。

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