違和感 その4
その後、レナさんが見つけてきたロープで首領の男性の体と手を縛ると、保管場所に案内させるべく引き連れ部屋を後にする。
「変な真似しようと思うなよ」
「は、はい」
自分が殴った跡をその顔に残す彼を引き連れ部屋を出て廊下を歩き、更に地下へと下る階段を下って辿り着いた先は、一つの扉の前であった。
「ここか?」
「は、はい。そうです。この扉の向こうにこれまで奪ってきた物が保管されてます。けど、この扉には鍵が……」
「持ってるのか?」
「……、はい」
ここまでやって来て往生際悪く抵抗でもしようかと思ったのか。しかし、自分の殺伐とした言葉にあっさりと降伏する。
レナさんに頼んで首領の男性を調べてもらうと、ポーチからそれらしい鍵を見つけ出す。
「この鍵がそうか?」
「はい」
もはや抵抗する素振りも見せず素直に答える。その姿は、少し前まで十数人ほどの山賊達を束ねていたとは思えぬ程だ。
レナさんが鍵を使い扉を開けると、安全確認の為もはや覇気も威厳も無くなった首領の男性を先に一人で行かせる。
特に何事も起きず安全が確認できたので、自分とレナさんも扉を潜る。するとその先に広がっていたのは、まさに宝の部屋と言えるような空間であった。
若干スペースは空いているが、それでも今まで彼らが奪ってきたのであろう木箱や荷袋などが乱雑に置かれている。
「ここはかつては宝物庫として使われてたらしいんで、だったらと俺達も保管場所として使ってるんです」
頼んでもいないのに勝手に解説する首領の男性を余所に。レナさんに今回取り返す品物を探すように伝えリストの書かれた紙を手渡すと、自分は少しばかり首領の男性と言葉を交わす。
「一つ聞きたい事があるんだが」
「ひ、もうここ以外保管場所はありません! ここに一か所にまとめてます!」
「そう言う事じゃない。聞きたいのは、この廃城の近くに在る村の事についてだ」
内容は無論、あの村と山賊集団の関係についてだ。もし裏で繋がっているなんて事があるなら、それはそれで厄介な事に足を突っ込んだことになる。
しかしながら、返ってきた答えは拍子抜けするものであった。
「村? あぁ、あの村ね。……生憎と俺達はあの村については何の手出しもしてねぇ。俺達にだってポリシーってもんがある、俺達は商人や旅人を襲ってこそ輝ける、所謂悪の華ってやつよ。……それにあの村は、あまり良い物がなさそうだしな」
ポリシー云々は兎も角、少なくともこの様子じゃ裏で繋がっている可能性は低そうだ。
一応の関係性については分かったが、かと言ってこれで今回の依頼に抱いた違和感が消えた訳ではない。しかし、これ以上追及したところで、あの口ぶりからこれ以上の情報が引き出せる可能性は低そうだ。
結局それ以上言葉を交わす事はなく。レナさんに捜索状況を確認した後、やはり一人では時間がかかると言う事で自分も手伝う事に。
とは言え、縄で縛っているとは言え首領の男性を見張っておかなければならず。考えた挙句、首領の男性を柱に縛り付けると自分も加わる事に。
「これも……、ね」
「あ、これは違うか……」
乱雑に置かれている木箱や荷袋を一つ一つ開けて中身を確認し、中に入っていた物が目当ての物かどうかを確かめながら探していく。見つかった目当ての物は冒険者鞄へと入れていく。
それからどれ位の時間が経過しただろうか、全体の三分の二程度を探し終わった所でリストに書かれている取り返す品物を全て見つけ出した。
「終了ですね」
「そうですね。……さてと、それじゃどうするかな?」
そう言うと柱に縛り付けられている首領の男性に目をやる。自身の利用価値が低くなったと悟ったのか、首領の男性は声を挙げて生に縋り付くべく懇願する。
「どうするんです? まさか……」
「殺しはしないかな。今回の依頼は物を取り返す事で山賊集団の討伐じゃないから」
レナさんの心配そうな表情に、自分は無益な殺生はしないと答える。
とは言え、ここに放置しておく訳にもいかず。追手が来た場合に首領の男性を人質として示す為、首領の男性も一緒に連れていく事に。
「お、御無事でしたか」
「無事でよかった」
城を後に外に出て待機していたカルルとリッチ4世さんと合流すると、小さな廃城を後に一路村への帰路に着く。
結局、心配していたような追手の存在も無く。夕暮れに染まる村へと無事に到着する事に。
暁に染まったベイルさんの店へと足を踏み入れると、自分達が戻って来るのを心待ちにしていたベイルさんに歓迎された。
そして、間髪入れずに取り返した品物を見せてほしいとの催促がくる。
興奮冷めやらぬベイルさんを落ち着かせながら、冒険者鞄から取り戻した品物を取り出していく。一つ一つその姿を現す度に、ベイルさんは歓喜の声を挙げる。
やがて全て取り出し、その全てが元々この店にあった物であると確認がとられると。ベイルさんが感謝の言葉を述べる。
「本当に、本当にありがとうございます! もう感謝してもしきれません」
「いえいえ、依頼を受けた訳ですから当然の事をしたまでですよ」
「そうだ、少しお待ちを」
しかし途中で何かを取りに行ったのか一旦店の奥へと消える。そして再び姿を現した時には、その手には小さな木箱が握られていた。
「これはほんの感謝の気持ちです。どうか、お受け取りください」
「そ、そんな! 証明書を持ってギルドに帰れば報酬はちゃんと受け取れますから、だから……」
「いえ、受け取ってください! 皆様方にはその資格があるのですから!」
結局押し切られる形で小さな木箱を受け取ると、次いで証明書の方にもサインをもらい。これにて後は王都のギルドに戻って手続きを済ませるだけとなった。
「そう言えば、気になっていたのですがこちらはどなたで?」
「あぁ、こいつは小さな廃城に巣食っていた山賊集団の首領です」
「何と! ではこやつが……ぐねね」
「落ち着いて、大丈夫です。王都のギルドに連れ帰って然るべき処罰が下るでしょうから」
今にも殴りかかりそうなベイルさんを宥めながら、無用な火種をまき散らさない為にもここは早々に退散するべきだなと悟る。
そして店を後にしようとしたのだがそれは適わず、ベイルさんに止められてしまう。
「あの、お気持ちは分かりますが自分達が責任を持って……」
「頼む! その男だけはここに置いて行ってくれないか。無論、手は上げないし後でちゃんと王都のギルドに連れて行く。だから頼む!」
今にも土下座しそうな勢いで自分に頼み込んでくるベイルさん。何故ここまで必死に頼み込むのか戸惑いながらも、自分達が連れていくと言ったが。それでも頑なに頼むのを止めようとはしなかった。
その後もどれ位か同じようなやり取りを繰り返し。結果としては、自分達が折れる形となった。
流石に今回の依頼完了の証明を取り消すなんてものをちらつかせられては、自分達としても強引に連れて行く事も出来ず。結局、首領の男性はベイルさんの店に置いていく事となった。
ベイルさんの言葉を信じてはいたが。どうにも、腑に落ちない気分であった。
確かに山賊集団の首領の男性を王都のギルドに連れていく事は今回の依頼には関係ない事ではある。と自分自身に言い聞かせてはいたが、やはりももやもやが残る。
村の辻馬車乗り場で王都に帰るべく空いている辻馬車を探すと、行きと同じく二時間ほどの辻馬車での移動が始まる。
暁に染まる辻馬車に揺られながら、今回の依頼について考えをまとめようかとも思ったが。結局それは諦めた。
不用意に詮索して何らかのトラブルや陰謀にでも巻き込まれては厄介、そう悟ったからだ。
「ショウイチさん、やっぱりまだ気になります?」
「あ、いや。……もう気にしてないよ、うん。もう終わった事だし、忘れる」
考えは諦めた筈だったが、どうやら表情には残っていたらしくレナさんから声がかかる。
そう言えば、レナさんはどう思っているのだろうか。聞いてみようかとも思ったが、自分から先にもう気にしてないと言っている手前再び蒸し返すのもおかしく。聞くのは諦めた。
「相手の心の奥底にある思いを引き出す魔法、『オシャベーリ』というものがありますが。それをあのベイルさんに使うと言うのは如何でしょうか」
「いやもう済んだ事だから。……と言うか、それもまさか上位魔法とか?」
「無論です。他にも『ハナシターイ』や『イイターイ』等もあり、また……」
その後、変な方向からリッチ4世さんが話に入ってきたが、いつの間にかその流れはリッチ4世さんの魔法の話へと変わっていった。
こうして色々と話が尽きる事無く辻馬車に揺られ続け。気づけば、夜の闇と幻想的な灯りに彩られた王都へと無事に帰り付いていた。
支払いを済ませギルドへと足を運び、手続きを済ませ報酬を受け取る。と、残っているもやもやを追っ払うかの如く夕食をとる流れとなった。
同業者達で賑わいを見せる飲食スペースで適当なテーブルに着くと、食べて忘れるかの如く食べたいものを注文した。
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