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違和感 その2

 山の中腹にかつて築城され、今は山賊集団により不法に占拠された小さな廃城は、その原型を殆ど壊す事無くその姿を表す。

 小さいと言われているだけあり、王都やベルベスク王国で見た城と比較するとこじんまりとした印象や物足りなさを受ける。

 とは言え、城壁や見張り塔がある為、城としての機能はちゃんと備わっている。


 不用意に近づいて山賊集団に早々に見つかる訳にもいかず。廃城近くの茂みに隠れ、様子を窺いながらこの後の行動を考える。


「見た所、見張りは三人だけの様だな」


「でも、弓を持ってるから上から狙われたら厄介ですね」


 見張り役だろう、統一感のない装いの三人の男達が城壁の上から周囲に目を配っている。しかし、何故見張りの時こそ活躍すべき見張り塔に誰もいないのだろうか。或いは、外見は何とも無くとも内部は通行出来なくなっているのか。

 どちらにせよこちらとしてはあり難い。が、見張りの三人が弓を持っているのはあり難くない。

 遠距離、しかも上からの攻撃に対してこちらは対抗策がない。盾などの防御手段があればいいのだろうが、残念ながら自分もレナさんも、そしてカルルも盾は持っていない。


「囮を使って……、は難しそうだな」


 見張りの注意を逸らしている間に城内に入り込む作戦もあるが、山賊集団の人数が分からない以上、不用意にパーティーを割くのは得策とは言えない。

 となると、もはや強行突破でいくか。

 いや待てよ、リッチ4世さんの魔法なら、相手が気づくよりも先に仕掛けられるかもしれない。


「リッチ4世さん、相手に気付かれず相手を黙らせる魔法って使えたりします?」


「ほほ、そんな事朝飯前ですよ。魔界屈指の魔法使いたる私に使えぬ魔法はありませんからね!」


 何時の間にやら本来の姿に戻っていたリッチ4世さんは、自信満々にそう言った。

 頼もしい返事を聞き、リッチ4世さんに見張り役の三人を無力化してもらうべく場所を譲る。

 いつもは小さく、そしてだらしなく煩悩の塊にしか見えなかったその背中が、今は少しばかり頼りがいのあるものに見えた。


「必殺の睡眠魔法! マジネムーイ!」


 刹那、先ほどの感想を撤回したのは言うまでもない。


「え、それ、何ですか……」


「睡眠魔法の中でも上級とされる魔法、マジネムーイです」


 どうだと言わんばかりに胸を張っているリッチ4世さんだが、自分としてはふざけているのかと思わざるを得ない。


「因みに、同系列にはどんな魔法が」


「『ネムーイ』、『あ、ネムーイ』、『うわ、ネムーイ』、『超ネムーイ』等々。……それから『ネム……れない!』と言った変わり種もあります」


 同系列の魔法を紹介するリッチ4世さんの言葉に、もはや魔法って何だったのだろうかと思わずにはいられなかった。


 こっち(エルガルド)に来て、リッチ4世さんに会うまで魔法なんてものは身近な存在ではなかったので自分もそこまで言えた義理ではないが。それにしても、そんな名前で良いのだろうか。

 適当過ぎると言うかなんというか。いや、それともこれこそが当たり前なのか。

 もうあれだ、深く考えるのはやめよう。夢と浪漫と摩訶不思議でカオスに満ち溢れている、魔法とはそういうものだ。


「で、さっきの魔法、効果あったんですか?」


「無論です」


 場所を移り変わり、先ほどまで見張り役が立っていた場所を見つめれば、そこには相変わらず見張り役の山賊が立っていた。

 しかしよく目を凝らすと、頭が小刻みに前後しその表情は必死に眠気と戦っているようにも見える。しかも、一人だけではない、三人ともが皆うつらうつらしている。まさに眠いと言う状況を作り出していた。

 だが、催眠魔法の割に即座に眠らせないのかと思った次の瞬間。遂に耐えられなくなったのか、三人とも崩れるようにその場に倒れてしまった。おそらく全員夢の世界へと旅立ったのだろう。


「どうです。威力絶大でしょう」


「あ、あぁ」


 正直言って反応に困った。もはや基準も分からなければ凄さの度合いも分からないのだから。


 とは言え見張り役の排除に成功したことに変わりはない。この機を逃さず、一気に城壁の内側へと入り込む。

 ご丁寧に開けっぱなしの城門を潜り城壁の内側へと入り込むと、不用心にも城壁の内側に見張りはいなかった。ただ、こちらとしてはあり難いが。

 さて、城壁の内側にも入り込めたのでいよいよ城の内部へと足を踏み入れようと足を向ける。


 しかしその前に、カルルとリッチ4世さんにはこの場所で待機していて欲しい旨を伝える。

 これは、今回対峙する相手が害獣ではなく人だからだ。害獣はその態度がはっきりとしている、しかし人は、時に白か黒か分からない態度に出る。命乞いをし許しを請う、かと思えば、背を向けた瞬間容赦なく相手の命を狙う。

 カルルにはまだ、そんな微妙な見極めや対応が難しいと考えられ。その点が、足を引っ張る可能性も考えられなくはなかった。

 一方、リッチ4世さんは自分の意図するところを把握したらしく、異論なく受け入れてくれたが。肝心のカルルはオイラも一緒に行くと言って聞かなかった。


「中では何が起こるか分からないし、万が一の時はカルルが自分とレナさんの救世主になって助けに来てほしいんだ」


「オイラが救世主!」


 そんなカルルを何とか説得し、リッチ4世さんにカルルの事をよろしく頼むと伝えると自分とレナさんは城の内部へと足を踏み入れる。

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