都市国家 その4
翌朝、窓から降り注ぐ日の光によって夢の世界から戻ってくると、最後に閉じていた瞼を開いた。
もうすっかり見慣れた天井を目にしながら伸びをすると、やがて体を起こしベッドを後に仕事着へと着替える。
「おはようございます」
「おはよう、レナさん」
丁度着替え終わった頃、レナさんが起きたので少し出かけてくる旨を伝える。
一体何処に行くのかと尋ねられたので、駅馬車の運行が再開されているかの確認の為にステーションに行ってくる。と出かける理由を述べると、レナさんに見送られながら部屋を後にする。
昨日と異なり幾分人通りの少ない大通りを歩きステーションへと向かう。やがてステーションへと到着すると、そこには昨日の人だかりが嘘のような姿がそこにはあった。
「すいません」
「はい、何でしょうか?」
ステーションに居た職員の一人に声を掛けると、運行が再開しているかどうかを尋ねる。すると、もう既に通常通り運行を再開しているとの返答が返ってくる。
「ありがとうございました」
確認も取れたのでお礼を述べてステーションを後にすると、トトルの銀亭へと戻るべく大通りを歩く。
と、前方から見覚えのある装いの女性が近づいてくるのを見つける。
「あら、ショウイチ。おはよう」
「おはようございます、エルマさん」
距離が近づき向こうも自分の存在に気付いたのか声を掛けてきた。必然的に足を止め、対応する。
「御一人で、お出かけですか?」
「うん、ちょっとね」
セイバーブリゲイドのナンバーツーとは言え、仮にも女性が朝早くから一人で出歩くなんて、大丈夫なのだろうか。
お節介にそんな心配を口にしてみれば、エルマさんは心配してくれてありがとうと、笑みを零しながら軽く流した。
本人が大丈夫と言っているし、これ以上その点を追及されたくもない雰囲気を醸し出しているので、この話題はそれまでとした。
「そう言えば、ショウイチは朝早くから何処に?」
「ちょっとステーションに運行してるかどうかの確認へ。運行してたので今日中にはここ(ベルベスク王国)を発ちます」
「え、そうなんだ」
ベルベスク王国を発つと言った瞬間、エルマさんの表情が曇る。もう少し長くベルベスク王国に滞在していると思っていたのだろうか。
「あ、気にしないで! ショウイチ達にはショウイチ達なりの予定があるんだし、私には引き留められる権利なんてないのは分かってるから」
しかし、自分の心を読み取ったかのように、次の瞬間には表情を変え気にしていないと声を挙げる。
とは言え、エルマさんの行動の裏には多少自身の気持ちを隠しきれない部分が見え隠れしていた。
「ちょっといいですか」
「ん?」
そんなエルマさんを不憫に思った訳ではないが、レナさんの親友である事に変わりはないしこのまま、また所在も分からず離れるのももやもやが残るだろう。
なので、小物入れ用のポーチのからメモを取る為の紙と携帯用のインクに羽ペンを取り出すと、王都にあるボルスの酒場の住所を書き記す。
「一応ここがパーティーの拠点って事になってます。今のところですけど」
ボルスの酒場の住所を書き記した紙をエルマさんに手渡すと、都合が良ければ会いに来てください。と付け足した。
この自分の行動にエルマさんは何故と疑問の表情を浮かべていた。
「エルマさんはレナさんにとって大切な友人でしょ。だから、やっぱり会いたい時に会えたら一番いいと思ったので」
が、自分の言葉で、その表情は一気に変わった。感謝の気持ちや嬉しさなど、様々な感情を含んだ表情にだ。
「ありがとう。……やっぱり、レナの言ってた通り優しいのね」
「え?」
お礼の後の方は声が小さく聞き取れなかったのだが、エルマさんには気にしないでと言われたので確かめる事は叶わない。
「じゃ、そろそろ行くね。ありがとう」
それから程なくして、エルマさんと別れると、自分も再びトトルの銀亭目指して足を進めた。
トトルの銀亭に戻り宿泊している部屋へと戻ると、既に全員起きていた。
当然ながら何処に行っていたのかとカルルに尋ねられ、出かけていた理由を述べると、朝食をとろうかとの話に移り変わる。
そんな中で、先にカルルには一階の食事処に行っておいてほしいとの流れを作る。
「? 何でだ?」
「ちょっとレナさんと二人で話したい事があるんだ」
すると、リッチ4世さんが朝からお盛んですな、ととんでもない勘違い発言をし始めたのですかさずリッチ4世さんにお灸をすえる。
そして半ば強引にカルルとリッチ4世さんを部屋から追い出すと、一体何だろうかと首をかしげているレナさんに近づく。
「話って何ですか?」
「あ、さっき大通りでエルマさんと偶然出会ったんだ……」
そこで先ほどエルマさんにボルスの酒場の住所を書き記した紙を渡した事を話した。自分の話を聞いてレナさんは特に怒った表情もせず迷惑だとも言わなかった。
「そうですか」
「余計な事、したかな?」
「いいえ。むしろ、感謝してます。自分からでは、多分、出来ない事だったから」
もしかしてあまりの事に呆れているのかとも思ったが、どうやらそれは思い過ごしだったようだ。
笑顔で感謝の言葉を述べるレナさんを見て、そんな不安は吹き飛んでしまった。
「じゃ、カルルも待ってるし、朝食食べに行こうか」
「はい」
話も終わり二人揃って部屋を後に一回の食事処へと向かう。食事処に着くと先に来ていたカルルがテーブル席に座って待っていた。
「おや、もう終わったのですか? もしかしてび……」
「黙ってようね」
カルルもいるというのに、相変わらずとんでもない事を言い続けているリッチ4世さんにお灸をすえる。
そんなやり取りを終えると、席に着き料理を頼む。
楽しい朝食をとり、朝食をとり終えるといよいよ王都に帰るべく準備を進める。
チェックアウトの為の準備を行い、それが整うと部屋を後に受付のカウンターでチェックアウトを済ませる。
トトルの銀亭を後にステーションへとやって来ると、王都行きの駅馬車の出発時刻等を確認する。
丁度良く出発寸前の駅馬車に乗車でき、程なくして駅馬車はステーションを出発し、一路王都を目指して進みだした。
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