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都市国家 その3

 その後、カルルの美味しそうな食べっぷりに感化された店主のご厚意で更に幾つかの果物を貰うと、果物で一杯になった紙袋を抱え店を後にする。

 それから、大通り沿いの他の商店で必要な物を買い揃え、それらを冒険者鞄に入れ。丁度いい時間になったので昼食をとる事に。

 大通り沿いの大衆向けの食堂に立ち寄り、時間帯的に混雑している店内で何とか座れるテーブルを見つけると座り、一息つきながら慌ただしい従業員に料理を頼む。


「カルルはあまり頼まなかったけど、いいのか?」


「ショウイチに買ってもらったジョナジョーナゴールドがあるから、オイラ大丈夫!」


 冒険者鞄から紙袋を取り出し、先ほど買ったジョナジョーナゴールドを食べ始めるカルル。そんなカルルに今沢山食べると王都に帰る時の分がなくなるぞと注意しながらも、その微笑ましいまでの姿を優しく眺めていた。

 レナさんも自分と同じように優しい表情で、まるで姉が弟の一挙手一投足を見守るかのように眺めていた。


「よぉ、奇遇だな」


「こんにちは、皆さん」


 それから程なくして頼んだ料理が運ばれ、いよいよ料理に手を付けようかとした時だった。不意に聞き覚えのある声が聞こえ、声の方を振り向くと、そこには見知った顔の男女がいた。

 そこにいたのはガウリーさんとメルティナさんの二人であった。

 ハイドルトさんとセナさんも一緒かと思ったが、軽く探しても二人の姿は見えない事から、どうやら今回はパーティーで行動している訳ではなさそうだ。


「ここ、いいか?」


「えぇ、どうぞ」


「失礼します」


 珍しい組み合わせの二人は、どうやらこの食堂に食事しに来たようだ。合席を求められ、快く承諾すると二人は丁度二人分空いていた椅子に腰を下ろす。

 席に腰を下ろすや否や、近くを通りかかった従業員を呼び止め料理を注文していた。


「昼食、ハイドルトさんとセナさんの二人と一緒じゃないんですね」


「ん、あぁ。あの二人は今ギルドにいるんだ。討伐隊の関係でな」


 自分の料理に手を付けながら、隣に座り料理を待っていたガウリーさんと話し込む。因みに、メルティナさんはレナさんとカルルの二人と何やら楽しそうに話し込んでいる。


「そういや、結局討伐隊には参加しなかったんだな」


「えぇ、今は止まってますが駅馬車の運行が再開されれば直ぐに王都に帰る予定なので」


「そっか、ま、俺達はもう暫くここ(ベルベスク王国)にいる事になったけどな」


「そうですか。……そう言えば、ギルドで食べないんですね昼食」


「ん、あぁ。確かにギルドで食うのもいいんだが、前に一度この食堂で食べた料理の味が忘れられなくてな。だから、丁度いいと今回はこの食堂で食う事にしたんだ」


 会話が一区切りしたところで、ガウリーさんとメルティナさんの頼んだ料理が運ばれてくる。そこからは料理を交えて会話が盛り上がる。


「所で、あの大群の討伐にはセイバーブリゲイドの討伐隊が向かったと聞いたんですけど。ガウリーさん達は参加表明したんですよね」


「あぁ、その事か。……ったく、これに関しちゃギルドの連中頭にくるぜ」


 自身が頼んだ料理にフォークをぶっさしながら、ガウリーさんはギルドに対して多少の悪態をつく。

 どうやら今回のセイバーブリゲイドの討伐隊決定には、少なからず問題があるようだ。


「最初は俺達も参加表明してたから、当然ながら討伐隊に参加できると思ってたんだ。所が、今朝になって急にギルド側から討伐隊はセイバーブリゲイドに一任し、俺達は予備兵力として万一の場合に備えて待機しておいてくれと伝えてきやがった」


 確か事前にセイバーブリゲイドと調整していたと聞いていたが、まさかそれがいつの間にか一任されていたなんて。


「くそ、頭にくる! ギルドの奴ら俺達も含めると支払う報酬の額が膨れるからって体良く俺達をここに押し止めて、セイバーブリゲイドの奴らが万一ヘマしたら俺達を安い報酬で残党処理に使う魂胆なんだ」


 成程、実力も実績も不揃いな面々の集まりと実力も実績も兼ね備えた一つの集団と、どちらがあの大群を討伐するに使えるのかは一目瞭然。

 更にベルベスク王国のギルドとセイバーブリゲイドが専属契約を交わすとも思えないが、今回贔屓にしたという事実があれば、今後何か起こった際に役に立つ。


 しかも、万一セイバーブリゲイドが討伐に失敗してもあの大群が無傷であるという事はない。そのまま何処かへと逃げるならよし、もしベルベスク王国に向かって来ても傷付いた大群ならば討伐は容易でガウリーさん達でも安心できる。

 弱った大群を相手にしたのだから、本来支払われる筈の額の数割引きでも問題ないだろう。更には、討伐に失敗した者や死人には一ガームも支払う必要はない。


 確かにこれはギルドにとっては旨味が多くガウリーさん達には旨味が少ない。

 とは言え、ガウリーさん達がその不満を声を大にしては言えない。何故なら、不満の矛先がギルドだからだ。

 自身の仕事の仲介を行っているギルドに楯突くとまでは言わないまでも言いがかりを付け目を付けられれば、今後の仕事にどんな影響が出るか分かったものではない。

 セイバーブリゲイドの様な直ぐにでもギルドから独立できそうな者達ならまだしも、ガウリーさん達の様な立ち位置では難しい。


「ま、万一とは言えセイバーブリゲイドがヘマする事なんてねぇだろ。なんたって今回討伐隊を率いてるのは『鬼のアレクセイ』だからな」


 先ほどステーションでおばさま方の話の中にも出てきた名前。一体どんな人物なのだろうか。


「ガウリーさん、『鬼のアレクセイ』ってどんな人物なんですか?」


「お? 知らねぇのか。あの『黒姫』と同じセイバーブリゲイド四天王の一人だっていうのに」


 予期せず出てきたレナさんの名に、どうしてこんな質問をしてしまったのだろうかと後悔する。

 確かに元はセイバーブリゲイドの一人だったが、まさか鬼のアレクセイと呼ばれる人物と同じラインに立っていたなんて思いもしなかった。

 いや、副旅団長たるエルマさんと親友である事を踏まえて考えればよかったのかも知れない。


 ふとレナさんの方に視線を移すと、メルティナさんとの会話に夢中な為かこちらの会話の内容には気付いていない様子だ。


「『青の星騎士』たるルラバに『赤の巨人』たるゲノ、そして『鬼のアレクセイ』たるアレクセイに『黒姫』のレナ。この四人が四天王と呼ばれ旅団長や副旅団長を除くセイバーブリゲイドの四強さ」


 もっとも、今は『黒姫』が抜けてるから空席か或いは後釜が入ってるだろうけどな。と一旦話を区切ると、ガウリーさんは自身の料理を口に運ぶ。


 セイバーブリゲイド四強の一人。知ってしまった、しかし、知ったからなんだというんだ。レナさんへの接し方は変えないし、大事なのは過去よりも未来だ。

 人知れず決意を新たに確認すると、丁度料理を食べ終えたガウリーさんが話の続きを始めた。


「んで、その四強の内の一人『鬼のアレクセイ』だけどな。普段は物腰の柔らかい人らしいんだが、害獣や賊との、と言うより戦闘になるとまるで鬼神が乗り移ったかの如く活躍を見せる事から『鬼のアレクセイ』の名が付けられたらしい」


 所謂戦闘狂なのだろうか。いや、戦闘以外は大人しいと言う事は戦闘狂ではないのかも知れない。

 ただ、戦闘に関わると人が変わるのだから、癖のない人ではないだろう。


「俺が知ってるのはこんな所だ。もっと知りたいなら、俺より詳しいのがお仲間にいるだろ?」


「え、えぇ。そうします」


 ガウリーさんが言う詳しい人物とは、言わずもがなレナさんの事だろう。

 ただガウリーさんから聞き出せた情報だけで満足なので、レナさんにこれ以上聞く事はないだろう。無論、レナさん本人が話したのなら別だろうけど。


「それじゃ、俺達はそろそろ戻るわ。長い事別行動してるとハイドルトにどやされるからな」


 そう言うと、ガウリーさんはレナさんとの話に夢中なメルティナさんに声を掛け席を立つ。

 つられてメルティナさんも席を立つと、二人は混雑する店内を出入り口の方へと向かってその姿を消した。


 こうして残された自分達ではあったが、もう既に昼食たる料理は食べ終えていたし、あまり長居すると店側に迷惑も掛かるだろうから。程なくして自分達もお勘定を済ませると店を後にした。



 その後は、折角居るのでとベルベスク王国を時間潰しも兼ねて観光し。様々な店や名物などを見て回った。

 そうしている間に時間は経過し、気づけば空は薄暗くなっていた。

 本日の夕食はトトルの銀亭の食事処でとる事となり、朝と異なり賑わいを見せる食事処で賑やかな他の客の笑い声などを背景に夕食をとる。

 数時間ぶりに戻ってきた部屋に入ると、忘れぬ内にと買い揃えた荷物の整理を行う事に。


 自分が荷物の整理をしている間、レナさんとカルルは昨日に続き二人仲良く体を洗いに洗い場へ。

 そして懲りずに、さも当然とばかりにリッチ4世さんが洗い場に向かおうとしたが、当然ながらそんな事はさせなかった。


 荷物の整理を終え、同時にレナさんとカルルが洗い場から出てくる。入れ替わるように自分が洗い場に入り、今日一日の汚れを洗い流す。

 汚れを洗い流してさっぱりし戻ると、眠気がやって来るまでまったりとした時間を過ごす。

 皆で紅茶を堪能し、ほっこりとした所で丁度良く眠気がやって来る。そして後片付けを済ませると、ベッドへと一直線。

 程なくして、夢の世界へと旅立つ。

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