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都市国家

 翌日、日の出と共に起きた自分達は、数時間前に大所帯となって初めての朝食をとっていた。

 その際、知らぬ間にエルマさん達セイバーブリゲイドの面々が増えている事に、昨晩事情を知らずに眠っていた面々は当然の如く驚き。

 特に、カルルとリッチ4世さんを除く面々は天下のセイバーブリゲイドのナンバーツーであるエルマさんがここにいて。更に、自分達と同じく肩を並べて朝食をとっている事にもう一度驚いていた。


 なお、リッチ4世さんに関しては別の意味で驚き興奮していたが、先んじて充分に釘を刺しておいたので問題は起こさないだろう。


「にしても、あのエルマ様が俺達と同じ場所で朝食食ってるなんてな……、あ、光栄です」


「ふふ、そんなに緊張しないでください」


 有名人が近くにいれば、おそらく誰だって緊張してしまうだろう。グランさんも、いつもの調子が崩れおかしな緊張からか口調が硬い。

 他の面々に関しても、どこかぎこちなく。いつもと変わらないと言えば、レナさんとカルルくらいだろうか。

 もっとも、カルルに関しては無知ゆえの幸せと言うか、その愛らしさゆえの特権と言うか。もう既にレナさんを介して仲良くなっている。


「に、それにしても。旧友と話す為に危険を冒してこの森(トンドの森)に足を踏み入れるなんて。別にベルベスク王国に俺達が到着してからでもよかぁ……。よくはなかったですかね」


「レナの腕は信じていますし、皆様方についてもある程度の技量は持ち合わせていると思っています。……、ですが、ベルベスク王国に着いてからでは、遅いんです」


 エルマさんの言葉の最後の方は聞き取りづらい程に声が小さかったが、何とか聞き取る事が出来た。遅いとはいったいどういう事なのだろうか。


「我々が居ると知ったら、きっと避けるだろうから……」


 ぽつりと零れたエルマさんの言葉に、以前ハイドルトさんがレナさんに言った言葉を思い出す。

 突如としてセイバーブリゲイドを抜けた。当時何があったかは当人達にしか知りえない事だが、穏便でない別れなのは何となく想像が出来た。

 だから、エルマさんは危険を冒して自分達から会いに来たのか。


 ふとレナさんの方を見ると、その表情はいつもと変わらぬものだった。


 朝食を終えた自分達は、急ぎ出発の準備を整えるとベルベスク王国を目指して出発する事となった。

 エルマさんは、積もる話はベルベスク王国に着いてから、とレナさんに伝えると再びセイバーブリゲイドのナンバーツーの顔へと変わり、最前列で案内役を買って出ていた。

 しかし幸か不幸か、特に害獣と遭遇する事も無く。空が暁色に染まるかとする頃、自分達はトンドの森を抜け無事にベルベスク王国へと到着した。



 やはり都市国家と言うだけはあり、王国、と言うより都市を囲むその城壁は王都のそれにも匹敵するほどの高さと厚さを誇っている。

 王都よりも通行の為の門は少ないが、特に不便と言う感じではなさそうだ。交通量が王都と比べれば幾分少ないからだろうか。

 ベルベスク王国の領土、城壁内へと足を踏み入れると、王都に負けずとも劣らない光景がそこには広がっていた。

 都市の中心部には、ベルベスク王国の領主たる者の居城たる立派な城が見える。その他、石畳の大通りや石造り或いはレンガや木製などの大小さまざまな建物が通りの脇を固めている。


「さて、先ずはギルドに今回の調査の報告に行きたいのですが」


「構いません。私達は急いでいませんので」


 ハイドルトさんの言葉にエルマさんが答える。

 一旦止まっていた足が再び動き出し、自分達はベルベスク王国のギルドへと足を運んだ。


 王都ではメイン通りの目立つ場所に、所謂王都の一等地に在ったが、ベルベスク王国もそんな感じなのだろうか。

 などと思って足を進め続けていると、徐々に小さく一部が見えていた領主の城が大きく全体的に見えるようになっているのに気が付く。領主の城の近くにでもあるのだろうか。


「え、ここ」


 足を進め眼前に見えたベルベスク王国のギルドを見て、空いた口が塞がらなかった。

 何故なら、ベルベスク王国のギルドは領主の城の近くどころか、領主の城の敷地内に在ったのだから。

 城の景観を崩さない同色で彩られた優雅で気品にあふれているベルベスク王国のギルド。場所が場所だけに王都のギルドよりも華やかに感じる。


 後にレナさんに聞けば、どうやらベルベスク王国の建国者たる初代国王がかつてはギルドのメンバーだった為に、ベルベスク王国のギルドはこの場所に在るのだとか。

 成程、ギルドで一発当てれば一国一城の主も夢ではないと、それを体現している訳か。



 エルマさん達は外で待つ事となり、自分達は調査の報告や報酬の受け取り等の為にギルドの中へと足を踏み入れる。

 外観もそうであったが、内装もまた豪華絢爛と言い表すべきか。まるで高級宿の様な内装は、ここをギルドである事を忘れさせるかのようであった。


 しかし、カウンターへ赴き自分達が調査隊であると伝えるや否や、慌てた様子の職員が数名、自分達を急かす様に別の場所へと移動させた。

 そして半ば強制的に移動させられた部屋で、トンドの森で見たあの大群の事について更なる詳細な報告を求められ、やはりここはギルドなのだと痛感する。


 ハイドルトさんが主に、自分とグランさんが補足的に詳細な報告を行う。どうやら大まかな事はラミスさんのパーティーによって把握していたようだ。

 しかしブレインコーディネーターによって意図的に作り出された事等については、ハイドルトさんの口から語られその言葉に職員の方々の動揺を隠せない様子から、当然ながら把握していないようだ。


「すぐさま捜索隊を出しているセイバーブリゲイドにも連絡を! それから、王国政府にも至急連絡を、最悪の場合に備え近隣各国に救援を検討するようにと。それと……」


 烏合の衆と統率された集団では同じ集合体でもその性質はかなり異なる。あの大群が統一された意思のもと動くのだ、それこそ生半可な数ではひとたまりもないだろう。

 ギルドの職員達の慌ただしさが更に増して、ギルド内の雰囲気もそれに追随するかのように慌ただしさを増していく。


 そんな中でも、今回の依頼の報酬についてはきっちりと対応してくれる。基本の報酬と別途報酬、それを合わせて受け取ればかなりの額が懐に入った。

 思わず口元が緩みそうになるが、流石に表には出さなかった。


「お前達は討伐隊に参加しねぇのか?」


 報酬を受け取り、ギルドを後にしようとしている自分達に声を掛けたのはガウリーさんだった。

 慌ただしいギルドではあったが、もう既に討伐隊についての話が出てきている様だ。もっとも、正式な通達等はまだ未定との事。

 詳しく聞けば、どうやら正式な通達はセイバーブリゲイドとの調整が終わってからとの事だ。

 ガウリーさん曰く、まだ参加表明を募ってる段階だから時間はあるだろうとの事。


「俺達やグランの所はもう参加表明したが。ま、考えてからでも遅くはねぇだろ」


 そう言い残すと、ガウリーさんはギルドの奥へと姿を消した。

 時間がまだあるのなら今急ぐ必要はない。とりあえず、レナさんと話して決めた通り、先ずはエルマさんと再び会う事にする。


 ギルドを出ると、そこにはエルマさんが何故か一人で待っていた。先ほどまで一緒にいたはずのセイバーブリゲイドの面々の姿は何処にも見当たらない。


「エルマ、他の皆さんは?」


「他の皆は兄さ……、旅団長からの招集がかかったから先に戻ったわ」


 レナさんも自分と同じ疑問が浮かんだのか、エルマさんに自分が聞きたかった事を聞いてくれる。

 あの大群絡みだろうか、旅団長、即ちセイバーブリゲイドのトップからの招集とは。

 しかし、副旅団長たるエルマさんは行かなくていいのだろうか、彼女こそ一番必要な気がするが。


「エルマは行かなくていいの?」


「いいのいいの。私が居なくったって旅団長なら大丈夫よ」


「そ、そう」


「それよりもレナ! 話の続きしましょ。あ、どうせなら夕食食べながらでいい?」


 一刻も早く積もる話をしたいのか、エルマさんはレナさんの手を引いて夕食を食べながら話せる場所を目指して歩きはじめる。

 そんな二人の後ろについて、自分達はベルベスク王国の街並みを歩く。

 既に空は薄暗く、街並みには松明やランプの灯りが幻想的な灯りを作り出し街並みを彩っている。


 エルマさんの先導のもとやって来たのは、大通りから少し入ったところに在る小洒落たレストランであった。

 場所が場所だけにあまり認知されていないのか、書き入れ時であろう時間帯であるのにお客の数はまばらだ。


「さ、遠慮しないで、私の奢り。あ、ショウイチもカルルちゃんも遠慮しないでね」


 そう言うと、エルマさんは早速レナさんとのお話に夢中となった。

 遠慮しないでと言われても、はいそうですかと遠慮なしに注文する程自分の神経は太くない。とは言え、全く頼まないのも失礼に当たる。

 とりあえずメニューを見て高過ぎず安過ぎずのラインで料理を頼む。カルルは、まさに遠慮なしみたいだが問題ないだろう。


 因みに、リッチ4世さんは今朝から省エネモードでカルルの持っている袋の中で大人しくしてもらっている。

 レナさんのご友人たるお方、この目にしかと焼き付けたい。とごねるリッチ4世さんを無理やり、もとい丁寧に説得して大人しくしてもらっている。


 やがて頼んだ料理が運ばれ、それを口にするも、味なんて分からなかった。

 舌がおかしくなったのではない、その意識が料理とは別の方へと向けられていた。その意識はレナさんとエルマさんの話の内容に向けられていたからだ。

 自分の知らないレナさんの一面が、話の節々に表れ、その度にレナさんの表情は懐かしさに溢れている。


 自分でレナさんの過去にはこだわらないと言っておきながら、気持ちの中ではどこか知りたい自分がいる。

 全く持って、綺麗に割り切れない男だな、自分って。


「ショウイチ、そんな難しい顔してどうした? 料理、美味しくないのか?」


 リンゴのタルトを頬張っていたカルルが、突然そんな事を言いだした。どうやら、気持ちが表情に現れていたみたいだ。


「何でもない、ちょっと考え事してただけだ。ここの料理、美味しいな」


「うん! ここのリンゴ料理最高だね」


「そうだな」


 屈託のない笑顔を向けるカルル。そんなカルルの頭をなでると、人知れず考えるのを止めた。

 そうだ、割り切らないと。過去よりも現在、そして未来について考えないと。

 

 止めていた手を動かし再び料理を口へと運ぶ。上品で丁寧な味が口の中に広がり、美味しいと感じていた。



 それから余裕が出来たからか料理を楽しみながら時間が過ぎ。気づけば、窓から見える街並みは入店した時よりも更に幻想的に彩られていた。

 夜の闇と街の灯りが織りなすそのコントラスト、それは更に店内の雰囲気をより一層引き立てるものであった。


「ありがとう、エルマ。楽しかった」


「ううん、私こそ久々にレナと話せて楽しかった。……また、出来たらでいいから時々顔見せてね。しばらくはここ(ベルベスク王国)に滞在してるから」


 二人の顔には笑顔が溢れている、存分に話し込んだので満足したのだろう。レナさんとエルマさんは互いに手を取り合い言葉を投げかけている。

 そしてエルマさんは席を立つと、会計を済ませに行く。


 程なくして会計を済ませて戻ってくると、レナさんとカルルに別れの挨拶を終えてから、最後に自分に声を掛けた。


「ショウイチ、これからもレナをよろしくね。私と違って弱い部分をあまり表に出さないから、弱った時は支えてあげてね。レナの大切な騎士様」


 何故か耳元でささやく様に自分に声を掛け終えると、エルマさんは手をひらひらさせながら店を後にした。

 エルマさんの後姿を見送ると、突如自分の顔が赤くなるのが分かる。何故、何故エルマさんが自分とレナさんの関係についての一端を知ったんだ。まさかレナが喋ったのか。

 いや、幾ら親友と言えど自身の色恋沙汰を。否、女性ならあり得るか。


「ショウイチ、何だか顔がリンゴみたいに真っ赤だぞ」


「ななな、そんな事ないぞ。照明のせいじゃないか!」


 自分の顔が赤いのに気付いたのかカルルが声を掛けてくるが、何でもないのを装おうとするも残念ながら心と体は連動せず、声は正直であった。


「そ、それよりも! 今日の宿を探すぞ」


 その為何とか話題を変え序に顔を冷まそうと、席を立ちあがるとそのまま店の外へと向かう。

 カルルは特に不自然がらずに付いては来ていたが、レナさんは少し口元が緩んでいた気がした。

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