調査 その5
翌日の朝、準備も万全にパーティー揃ってギルドへと足を運ぶと、オルファーさんが自分達の姿に気づき声を掛けてきた。
「おはようございます。……と、皆さん随分と荷物が少ないですね?」
そして、近場での依頼に出掛けるかの如く自分達の荷物が少ない事に気付いたオルファーさんは、頭に疑問符を浮かべている。
「あ、えっと。冒険者鞄を手に入れたんで荷物の大半はそっちに入れてるんですよ」
「え、冒険者鞄ですか? でも確か、王都内にはメーカーの直営店は出店していなかった筈ですが……」
「知り合いの伝手で中古を取り扱ってる店を紹介してもらって、そこで安いのを買ったんですよ。と言っても、流石に中古品でも結構な値がして、全員で持ち寄ってようやく買えたんですけどね」
オルファーさんの視線が、一瞬自分の肩からかけている物へと向けられる。そこには、確かに冒険者鞄があった。しかし、それは自分が中古品に見えるように偽装を施した冒険者鞄であった。
見る者が見れば一発で有名ブランドの高級品と分かるかも知れない、そうなれば盗まれる可能性も出てくる。そう危惧した為、事前に偽装を施していた。
所謂防犯対策としていたのだが、今回は適当な理由付に一役買ってくれた。
「そうでしたか。確かに、あれは一つあるだけで大分と違いますからね。特に忙しいギルドのメンバーには頼もしい味方ですし」
どうやら偽装がばれることなく、納得した様子のオルファーさんであった。
と話に一旦の区切りがついたので、今回の依頼の参加者に関する疑問を投げかける。
「そうだ。所でオルファーさん、他の参加者ってもう来てたりします?」
「四人組のパーティーが一組、既に待合室で待ってますよ。他のパーティーは……、まだ来てないみたいですけど」
そして一旦間を置くと、オルファーさんは自分達を待合室へと案内すると申し出た。
その申し出を受けオルファーさんの後を付いて行き、案内された部屋へと足を踏み入れる。
待合室と呼ばれた部屋へと足を踏み入れると、そこには先ほどオルファーさんが言っていた通り四人組のパーティーが既に椅子に座って待っていた。
年齢層もおそらく自分達と近いであろう四人組のパーティー。男性が二人に女性が二人、内一人の女性は人間とは思えぬほど尖った耳をしているので、おそらくは亜人であろう。
しかしながら、そんな亜人の女性以上にそのパーティーには一際目を引く人物がいた。十人中十人が、目にすれば確実に二度見してしまう程の金色に輝く鎧を着た男性である。
兜は被っていないが、上から下まで金色に輝き、胸の辺りには何かの顔の様な装飾が施されている。よく見れば、彼の持つ剣もまた、特徴的な装飾が施されている。その姿、一度見たら確実に忘れないであろう。
ギルドのメンバーには服装などに規定は無く、目立ってはいけないとの規則も無い為、基本的にどんな装いをしようが本人の自由だ。現に、今まで見た同業者の中には殆ど裸なんじゃないかと思える程の格好の者だっていた。
だが、文字通りここまで目立つ鎧を着こむというのはどうなのだろうか。自分やレナさんの鎧も目立つと言えば目立つのかも知れないが、あれは夜でも相当目立つのではないだろうか。
一体どんな意味があるのか、それとも意味も無く着ているのか。もし意味がなかったのなら、相当の目立ちたがり屋と言える。
そうそう、ド派手な彼に目が行きがちだったが他の三人はと言えば。もう片方の男性は、同じく兜を被ってはいないがこちらは一般的な銀色の鎧を身に着けており、体格も金鎧の男性よりも一回りほど大きい。
女性側も二人とも兜は被っておらず。亜人の女性に関しては剣ではなく弓を使うからだろうか、鎧を着用しておらず、レザーアーマーの類と思われるものを着用している。
「おや? もしかして、今回の調査に参加する人達?」
「えぇ、そうですけど」
金鎧のド派手な男性が自分達に声を掛け、椅子から立ち上がると手を差し出しながら近づいてくる。
「はじめまして、僕はハイドルト。で、後ろにいるのが僕のパーティーメンバーで、ガウリーにセナ、それにメルティナ。……メルティナは見ての通りエルフの種族の血を引く者だ」
握手を交わし自身の自己紹介を終えると、続けざまに仲間の紹介もしていく金鎧、もといハイドルトさん。紹介されたメンバーも自分達に軽くお辞儀していく。
「さて、こちらの自己紹介も終わったところで次はそちらをお願いしたいんだが?」
「あ、あぁ。自分はショウイチです」
ハイドルトさんの言葉に促されるように、今度は自分達の自己紹介が始まった。
「レナと言います」
「オイラ、カルル!」
「初めましてお美しいマドゥモワゼルのお二方、……と他二名様。私、カルルさんの使い魔を勤めております、ボーン・ウエッソ・ムエルテネグロ・アム・ノーライフ・リッチ4世と申します。以後、お見知りおきを」
若干一名ほど失礼な自己紹介もあったが、無事に自分達の自己紹介も終わり。変わった使い魔だとは思われたようだが、リッチ4世さんが魔族だと勘ぐられる事も無かった。
こうして自分達も席へと腰を下ろした矢先であった。自分達の自己紹介の時から何かを考える素振りをしていたハイドルトさんが、何かを思い出したかのように声を挙げた。
「あぁ、思い出したよ! そうだレナ、『黒姫』のレナだ」
黒姫と言う言葉が出た瞬間、レナさんの表情が一瞬強張ったような気がしたが、気のせいだろうか。
「ルザリア大陸のギルド内において一にを争うあの『セイバーブリゲイド』で地位と名誉を手にしておきながら、何故か一ヶ月ほど前に突如としてセイバーブリゲイドを抜け単身で活動を始めたと聞いていたが……。まさか別のパーティーに入っていたなんて」
話を続けるハイドルトさんに対して、レナさんの表情はあまりすぐれない。話の続きが気にならないと言えば嘘になるが、それ以上にレナさんのあの顔を見ていたくない気持ちが勝っていた。
気持ちに押されるようにハイドルトさんの話に割り込む。ハイドルトさんは突然の自分の行動に何事かと痛い視線を向けたが、何とか自分の思惑通りに話を逸らす事には成功した。
「あぁ、君の事も思い出したよ。ショウイチ、最近このギルドで何かと噂が流れている『黒騎士』だよね。まぁ、僕としては君の噂は過剰に盛られていると思っているけどね」
「ど、どうも」
真実と大分異なる噂を信じられるのも困るが、こうしてバッサリと切り捨てられるのもまた、何故か悲しくなってくる。
そんな自分とは対照的にカルルとリッチ4世さんはと言えば、ハイドルトさんのパーティーの残りのメンバーと交流を深めていた。
どうやら女性陣の二人はカルルがかなに気に入ったらしく、リッチ4世さん程ではないが自分も少し羨ましい状況だ。
そしてリッチ4世さんはと言えば、何故か筋骨隆々のガウリーさんのその強面な顔と見つめ合っていた。何故そうなったのかは分からないが、どうやらガウリーさんはリッチ4世さんに興味があるようだ。
「ガウリー、あんまりその怖い顔をカルルちゃんの使い魔ちゃんに向けて怖がらせないでよ」
「んだよ、セナ。お前だってその子が嫌がってんのを無理やり抱っこしてんじゃねぇのか?」
「そんな訳ないでしょ! ねぇ、カルルちゃ~ん」
「あの、セナ。今度は私が抱っこする番ですよ」
何だかんだで楽しそうな雰囲気が流れているあちらに対して、こちらはと言えば少し緊張した空気が流れている。と言うより、少し空気が重い気がする。
確かに話を逸らす事には成功したが、その後話が続かず会話も無く、自分達三人は残りのメンバーの楽しそうな光景を眺めていた。
「どうやら君の所のメンバーは人気者のようだね。あの調子で害獣と遭遇した時も活躍してくれればいいけどね」
「それを言うならハイドルトさんの所のメンバーも、ですがね」
「ふふ、安心したまえ。僕のパーティーメンバーは皆強者揃いだよ。無論、僕もだけどね」
話を切り出したハイドルトさんの言葉に、自分も負けじと言葉を返す。
何故だろう、先ほどよりも空気が重くなったような気がする。




