調査 その2
こうして自分の部屋へと集まると、早速買い出し表等を作成していく。なお、初めて自分の部屋を見たレナさんとリッチ4世さん各々の感想は控えておく。
「食糧は万が一も考えて保存食の割合を増やしておいた方が良いかな?」
「そうですね。私が過去別のパーティーにいた時似た様な依頼を受けた際は……」
自分と比べ様々な依頼をこなした経験のあるレナさんと主に相談しながら、必要な種類や数などを取り決めていく。
自身の持てる知識と経験を生かして助言などを与えてくれるレナさん、そんな彼女を見ながらふと思う。自分と同じくエルガルドにやって来て、自分と同じだけ時間を過ごした筈なのに。環境の違いだけでこうも実力や知識経験など、様々な差が出るものなのかと。
自分も殻にこもっていたわけではないと思うが、彼女を見ていると、自分はイシュダン王国と言う名の殻にこもっていたのかも知れないと思えた。
因みに、保存食と言っても前世に在った缶詰や真空包装された等のものではなく。堅焼きパンや干し肉、ナッツ類にチーズ等と代表される食料の事をさす。
前世の保存食と比べれば保存期間に違いなどがあるものの、充分な栄養を補給できる点は違いない。とは言え、食べ続ける事の出来る『味』と『工夫』も考えていかなければならない。
「オイラ、リンゴが多めがいい!」
もっとも、カルルのように一つの食材だけで満足できるんならそんな苦労もないのだが。
「私といたしましては、依頼中もティータイムを楽しむために紅茶とビスケットは大量に仕入れていただきたいのですが」
ま、中には余計な意見を言って余計な荷物を増やすだけの輩もいるが、そこはきっちりとした態度と対応で臨まなければならない。
「リンゴは兎も角、紅茶とビスケットの大量仕入れは却下だ。そんな事したらトンドの森に着く前に体力を使い果たす、よって少量で我慢する事」
「そ、そんな~。紳士としての嗜みが」
決定に不服を申し立てるリッチ4世さんを余所に、買い出し表等の作成は順調に進んでいく。
こうして順調に進み作成を終えた買い出し表。しかし、未だ納得していない者が一名いた。誰であろう、リッチ4世さんだ。
持っていかないという訳でもないのに、何故少量では駄目なのだろうか。
「他の荷物との兼ね合いもあるから、ね、納得してねリッチ4世ちゃん」
「ぐ、ぐぬぬ……」
レナさんの言葉を聞いてもなお納得する様子のないリッチ4世さん。意外にも頑固な面があるのだと内心驚きつつも、自分達は説得を続けた。
すると、突如何かを思いついたかのように声を漏らしたリッチ4世さんは、続いてある事を言いだした。
「ならば、重量制限の心配がなくなれば、紅茶とビスケットを多量に持って行ってもいいのですね?」
「え、まぁ、それはそうだけど」
王都からトンドの森までは移動だけで二週間以上もの時間がかかるとの事で、内容から言えば荷物の殆どが移動の間の食糧や水等だ。当然ながら考えていかねば無駄に嵩張り余計な体力を消耗する。
そうした事からも紅茶とビスケットの大量仕入れは却下したのだが、移動の間の制約を心配しなくて済むとはどういう事なのだろうか。
まさか、馬を用立てて荷台を引かせるとか、そんな余計に経費がかさむことをしようなんて言うんじゃないだろうな。
「安心してください。馬等は必要ありません」
まるで心を見透かしたかのようにリッチ4世さんが言葉を発する。
そして続けざまに、一体何処に隠し持っていたのか、リッチ4世さんが小さな鞄を一つ何処からか取り出した。
省エネモードのリッチ4世さんに比例するかのような、まるで人形サイズの小さな鞄。特に何の変哲のないその小さな鞄を、何故かリッチ4世さんは誇らしげに自分達に向け突き出している。
何の変哲もない小さなその鞄を見て、自分達は特に反応らしい反応を示さないでいた。が、リッチ4世さん当人が思い描いていた反応と違ったためか、本人は少々御立腹だ。
「ちょっと、これですよこれ! 驚かないんですか!」
これと言われても、特に価値のありそうなものに見えないし、特段変わった点はないので驚きようもない。
するとリッチ4世さんは更に語気を強めて、鞄の本質を突く言葉を言い放つ。
「旅のお供にこれ一つ。クロネル製の冒険者鞄ですよ!」
「うそ!」
鞄の名前を口にするや否や、それまでの表情が一変。レナさんが驚きの声を漏らすと共にその表情が驚きの一色に変わる。
だが、自分とカルルはその名前にピンとこず、何故レナさんがそこまで驚いているのかを共感出来ずにいた。
「ねぇ、レナお姉ちゃん。これってそんなに凄い鞄なのか?」
「凄いもなにも、冒険者鞄と言えば値は張るけど大量の荷物運搬に最適な事から、ギルドのメンバーの一種のステータスみたいなものです。しかもクロネルと言えば、冒険者鞄製造業界で五本の指に入る、まさにブランド中のブランド!」
カルルの質問に熱弁で答えるレナさん、その目は何処か輝いているように見える。やはり、女性はどんな世界でもブランド物と呼ばれる物が好きなのだろうか。
「あの、レナさん。因みに冒険者鞄って平均的にどれ位のお値段で販売されてるものなの?」
「そうですね、確か……」
その後レナさんの口から出た平均的なお値段とクロネル製のお値段の両方を聞いて、それまでただの鞄と思っていたものが一変、一気に神々しく輝いて見えた。
こ、これがお金の力と言うやつか。いや、この場合ブランド力と言うべきか。
どちらにせよ、魔族の筈なのに持っていたリッチ4世さんまで、神様の如く神々しく光輝いて見えた。
「ふふふ、どうですか。これさえあれば紅茶とビスケットを十箱だろうがニ十箱だろうが楽々持ち運べますよ」
「何でそんなに荷物が一杯持ち運べるんだ?」
してやったりな顔、をしているかどうかは表情筋もへったくれもない為分からないが、冒険者鞄を手にその凄さを語るリッチ4世さん。
しかし、その原理が分からずカルルは首をかしげながら、どのような原理が働いているのかの説明をリッチ4世さんに求める。
因みに、正直に言えば自分も冒険者鞄の凄い原理を理解している雰囲気を出してはいるが、その実全然分かっていなかったりする。
「詳しくは知りませんが、基本的に冒険者鞄と言う物は何らかの魔法を練り込んだ素材で作り上げられた鞄であるとの事です。そのお蔭で、見た目の容量以上の荷物を想像以上の軽さで持ち運べるのです。因みに、ブランドによって差はありますがクロネル製は冒険者鞄製造業界一の収納量を誇っているそうです」
「おぉ、それじゃ魔法の鞄なのか!」
「そうですね。流石に無限にという訳ではありませんが……」
所謂魔法のアイテムと言うやつか、こっち(エルガルド)に来てからこの手の物を見た事がなかったが、しかし実物を見た事がなくてもその性能等は感覚的には分かる気がする。
やはり魔法のアイテムと言う事だけあって、魔法を用いない物に比べて格段に良いものなのだろう。現に、冒険者鞄は他の鞄にはない摩訶不思議な原理によって奇跡のような大容量と軽さを実現しているらしい。
しかし、改めて冷静になって見てみると、まるで人形サイズの小さなこの冒険者鞄を一体どうやって使うと言うのか。
「あの、リッチ4世さん。この小ささで本当に使えるんですか?」
「あ、そうでした、忘れてました。当然このままでは使えませんので、元のサイズへと戻します」
そう言うと、リッチ4世さんはその手に持った小さなこの冒険者鞄を足元に置き。そして、禍々しい杖を冒険者鞄に向けて構えた。
禍々しい杖から光が漏れると、その光に反応するかのように小さかった冒険者鞄が見る見るうちにその大きさを増していく。
やがて光が消えると、そこには省エネモードのリッチ4世さんの身の丈を遥かに超える。と言っても自分達からすれば丁度いい大きさの冒険者鞄の姿がそこにはあった。
「ふふふ、どうですか。これで何の問題もなく使用できます」
肉体的にない胸を張り、おそらく表情筋もへったくれもない顔で誇らしげな表情を作っているのだろう。その小さな体を全体に使いリッチ4世さんはどうだと言わんばかりだ。
「あ、そういえば。……あの、一つ確認したいんですけど」
「はいはい、何でしょうか?」
大きく、と言うより普通のサイズに戻って見てみると、特に冒険者鞄と一目で分かる特徴的なものが無いなと自分とカルルはまじまじと見定めている。
その横で、レナさんは何かを思い出したかのようにリッチ4世さんに質問していた。
「これって本物のクロネル製の冒険者鞄ですよね? 偽物とかじゃなく」
「勿論、そこのポケットを見てください。ちゃんと正規品である証明書が入っていますから」
リッチ4世さんの言葉に従うかのように、レナさんは脇のポケットを開けそこから一枚の紙を取り出した。真剣にその紙を眺めるレナさん、気になった自分はその横から覗き込むようにその紙に視線を向ける。
紙には、品質を保証する文言と共に日付やサイン、それに刻印が施されていた。
「どうです。その証明書こそ、この冒険者鞄がまごうことなき本物であると証明しています。……直営店で買ったんですよ、高かったんですよ。限定品ですよ!」
成程、何処の世界でも人気の品に便乗して偽物などが出回るのは世の常らしい。ただの鞄を冒険者鞄と偽ったり、側だけ模倣したり、そんな感じだろうか。
だから正規の製造販売側も対策を講じる、この証明書もその一環だろうな。
しかし、これって限定品だったのか。限定感を感じられなかったが。
「ところで、ギルドのメンバーでも旅人でもないリッチ4世さんがどうして冒険者鞄なんて持ってたんです?」
冒険者鞄が魔界にも売っているとは考えられず、かと言って今の姿(骨格)になってから買ったとも考えられず。となれば骨格(不老不死)になる以前に買ったと言う事になる。
しかし、以前勝手に話していた生い立ちを思い返せばリッチ4世さんは不老不死になる以前は魔法の研究に従事する、所謂研究員を生業としていた筈。となると冒険者鞄なんて品物を持っている意味があるのだろうか。
仮に研究や私生活に必要だったとして、不老不死になった後や魔界に行った後になっても手放さず保有していたのにはどういう意味があったのか。それら疑問を含めて、リッチ4世さんに質問を投げかけた。
因みに、リッチ4世さんの生い立ちを知らないレナさんとカルルは、突然どうしてそんな質問をしたのかと言わんばかりの表情をしている。
「紳士たるもの備えあれば憂いなしです。……そもそも、理由はどうあれ便利な物があるのは良い事じゃありませんか」
はぐらかすかのようにリッチ4世さんは答える。
さらに追及しようかとも思ったが、結局それ以上追及する事もなくこの話題は終わりを迎えた。
その後、冒険者鞄を手に入れた事による購入計画の変更などを話し合い、新たな買い出し表の作成が完了すると明日に備えて解散する運びとなった。
皆が出ていき一人になった自分は、ベッドに腰掛けながら何故か自分が所持する事となった冒険者鞄を手に取り眺めていた。
「……まさか女性へのプレゼント、なんて事ないよな」
女性好きのリッチ4世さんの事だから惚れた女性への贈り物なんて勝手な説を想像し、そしてそれ以上考えるのを止めた。
理由はどうあれ、今の自分達にとっては棚から牡丹餅の品物だから。
冒険者鞄を木箱に入れると、今度はベッドに倒れ込む。そして、瞳を閉じた。




