調査
二人だけだったパーティーが一日にして倍の四人パーティーになったあの日から、数日が経過いていた。
まだその実力も未知数なレナさんとリッチ4世さん、二人の実力を確かめる事とパーティーとしての連携を強める意味も込めて。あの日の翌日から、早速四人で依頼をこなしていく。
通いなれた森で見つけ出した下級スライム種を相手に大剣を振るうレナさん、その姿は、まさに戦乙女と銘打つに相応しく。可憐で、しかしながら力強い。
だが、下級スライム種を一掃したレナさんの口から出た言葉は、まだまだ余裕と言わんばかりの。いや、もはや準備運動にすらならないのではと思わせるようなものであった。
どうやら、レナさんの実力は自分なんかよりも相当上の様だ。自分と同じ時期にこっち(エルガルド)に来た筈なのだが、随分と差をつけられている。自分とは異なる時間の過ごし方をしたからか、それとも自分は受けられなかった何らかのプライズを受けているのか。
何れにせよ、今後はもう少しレナさんにとって手応えのありそうな依頼を探さなくては。
さて、レナさんの実力の片鱗を垣間見えた所で、次はリッチ4世さんなのだが。何やら、一体の下級スライム種と睨み合って対峙している。まるで互いの出方を窺っているかのように。
因みに、リッチ4世さん曰く、下級スライム種程度なら省エネモードでも問題なのだとか。
「……あ! あんな所に、ピチピチのきゃわいいメススライムが!」
が、次の瞬間。リッチ4世さんが下級スライム種の注意をそらすべく明後日の方を指さしながら声を挙げた。
そんな事で注意がそれるのかと思った刹那、下級スライム種がリッチ4世さん指さす方へと振り向く。
「今! 今こそ受けよ、紳士の華麗なる魔法! チェストーッ!」
こうして相手の注意がそれた瞬間、リッチ4世さんは自身が持っていた禍々しい杖を振り、魔法。と言う名の物理攻撃を炸裂させる。
いや待て、何処か紳士的で、華麗で、魔法なのだ。猫だまし使って禍々しい杖で殴ったって、言ってることとやってる事、まるっきり逆じゃないか。
「ほほほ、如何です。この私にかかれば、このくらい朝飯前ですよ」
結局、リッチ4世さんの実力に関しても、現状では未知数と言う他なかった。
それから更に数日が経過したが、更なる見極めの為に丁度いい依頼を探してはみたが、なかなかこれと言って丁度良いものは見つからなかった。
やはり見極めるに最適な相応の力がある害獣となると、王都周辺で探すのは無理なようだ。偶に王都周辺でも強い害獣は出没するそうだが、残念ながらそのチャンスをものに出来なければ意味がない。
とは言え、確かめるなら早い方が良いと言うだけで時間がない訳でもないので。能力の高い害獣が頻繁に見られる地域に遠征する事も視野には入れている。
そして、この数日ほどの間にパーティーの拠点と呼ばれるものが出来た。と言っても、家を購入したのではなく、単に全員がボルスの酒場で部屋を借りただけの事ではあるが。しかも、マスターの気遣いか、カルル達の部屋はレナさんの隣と言う配置だ。
因みに、パーティー全員でボルスの酒場に部屋を借りる案を出したのはレナさんである。なお、提案者自ら御ひいきにするのだからとパーティー割引なるものをマスターに相談したのはここだけの秘密だ。
こうして数日ほどの間に周辺環境の様々な変化を向かえ、それでもギルドで依頼を探す事は変わらないでいたそんな時の事。
この日も依頼内容提示の前で全員で受ける依頼の相談をしていると、不意に誰かが後ろから声を掛けてきた。
「ショウイチさん、ちょっといいですか?」
振り返り声の主を確かめると、そこにいたのはギルド職員のオルファーさんであった。
彼は最近仲良くなったギルド職員で、あのシャガートさんの依頼の件を伝えたのも誰であろう彼であったのだ。
なお、レナさんによるとギルドの職員とメンバーが仲良くなる事は、特に珍しい事ではないようだ。
「ん? 何かいい依頼でもあります」
「そうですね。悪くないとは思います」
ギルド職員と仲良くなって得た最大の恩恵、それはまさしく依頼の融通が利くようになった事だろう。
場合によっては、いい依頼を優先して回してもらえる事もある程だ。そして今回も、オルファーさんの口ぶりから察するに、どうやらいい依頼を回してもらえそうだ。
オルファーさんが自分達に差し出した紙には、とある依頼の依頼文が書き記されていた。
その内容は、『ベルベスク王国』と呼ばれる国の近く、そこに在る『トンドの森』に最近見慣れない害獣の目撃情報が多く寄せられるようになった。
そこで、トンドの森で今何が起きているのかを調査すべく、ギルドのメンバーで構成された調査隊を派遣するとの事。なお、事前調査のようなものであり調査隊の規模はあまり大きくはない。
イシュダン王国側からトンドの森へと入り、ベルベスク王国を目指しながら森の調査を行う。そして森を抜けベルベスク王国に到着した後、ベルベスク王国のギルドに調査内容を報告する。大まかな流れはこんな所だ。
調査内容のいかんによっては、討伐隊を編成して派遣する事も考えられる。その際に討伐隊に参加する事も出来ると、オルファーさんは付け加えて言った。
因みに、イシュダン王国から他国へと出た事のない自分にとっては、ベルベスク王国が一体何処にあるのかピンとこず。
イシュダン王国以外も渡り歩いた経験を持つレナさんにこっそり場所を尋ねてみると、どうやらイシュダン王国の西に位置する隣国らしい。
なお、王国とは名乗っているもののその実、イシュダン王国の様に広大な国土を持たない都市とその周辺を領土とする、所謂都市国家らしい。
「あの、質問なんですけど。ベルベスク王国にもギルドは在るのにどうして向こうでメンバーを募らないんですか? わざわざ王都からじゃなくても、地元なら土地勘等を含めて都合のいい事はあると思うんですけど」
ふと疑問に思った自分の質問に、オルファーさんは少し困ったような表情を浮かべ質問に応じた。
「まぁ、所謂規模の違いってやつですかね。ベルベスク王国のギルドはここに比べてお抱えのメンバーやメンバーの質、滞在の期間等に違いがありますから。万が一の事も考えて向こうのギルドの手駒を無闇に減らしたくないってところですかね……」
言葉を選びながらオルファーさんは直球を避けて答える。成程、同じギルドとは言えやはり地域によっては格差が生じているものらしい。
基本的にギルドのメンバーは、ギルドが在ればどこの地域でも国でも仕事に困る事はない。今は王都を中心に活動しているが、その地域に見合うものがないと判断すれば他の地域に活動の拠点を移す事も構わないのだ。
中には、お抱えと呼ばれる各支店ごとに専属契約のようなものを交わしたメンバーもいるようだが。力ある者はやはりギルドから独り立ちなどの方が多いらしい。
まさか体良く使い捨てにされる、なんて危険性も一瞬考えたが。そもそも自己責任を多く伴う職業だ、見返りが大きい分同等の危険が付きまとうのは当たり前の事だ。
それに今回はあくまで調査が主体であり、討伐は副次的なものだ。それを現すかのように、今回の調査中に討伐した害獣については別途報酬扱いになっている。つまり無理だと判断してベルベスク王国に逃げ込んでも問題は無い訳だ。
「どうですか、受けてみますか?」
なるべく返事は早い方が良いのだろう、オルファーさんが急かす様に聞いてくる。
「ちょっと、全員で相談してもいいですか」
「あ、えぇ。どうぞ」
自分一人では決めかねないので、一旦全員の意見を聞いたうえで最終的な判断を下すべく、飲食スペースに場所を移して相談を始める。
テーブルに全員が腰を下ろすと、早速各々の意見を聞いていく。
「レナさんは今回の依頼、受けた方が良いと思いますか?」
「そうですね……、私は受けた方が良いと思います。報酬も悪くはない金額だし、他の同業者の腕なども確かめられますし。あと、私の実力も、これでもう少しは見せられるかもしれませんし」
成程、確かにこの様な依頼等でなければなかなか他の同業者たちの実力などを確かめる機会はあまりない。規律を破るような方法ならば幾らでも確かめられるだろうが、それに手を出したら最後、確実にブラックリスト行きだ。
調査対象となる害獣が上級なのか下級なのか、またその総数も現状では不明である為どこまでレナさんの実力を測れるかは分からない。しかし、今分かっている以上の実力が見られるのは確かだろう。
それに、報酬の額も、まぁ悪くはないな。
レナさんの意見を聞いた後、今度はカルルの意見を聞く。
調査が主体と言う事もあってか、カルルも受けた方が良いとの意見を示した。害獣を見つけるならオイラの鼻が役に立つ、とやる気に満ちた言葉も添えて。
因みに、リッチ4世さんの意見は聞くまでもなかった。
「いや~、どんな際ど……美しい装備のマドゥモワゼルが参加するのか、今から楽しみですな」
などと、不純な独り言を漏らしていたからだ。
自分以外全員の意見を聞き終えると、最後に自分の意見を述べる。当然、参加するとの意見だ。
こうしてパーティー全員の意見がまとまると、返事を待つオルファーさんのもとへと向かう。
「相談は終わりましたか?」
「えぇ」
「では、最終的なご判断は?」
「受けます」
依頼を受けるとの意思表示を行うと、手続きの為にカウンターへと場所を移す。勿論パーティー全員でだ。
そして、手続きが終わり必要な書類などを受け取ると、オルファーさんから出発の日時などを伝えられる。
出発は明後日の朝の予定であるが、出発前に今回の依頼の参加者を集めて顔合わせ等を行うらしい。なので、厳密な出発の時刻などは決められていない。
また、長丁場などになる可能性も考慮し準備は怠らないようにとの助言も受けた。
手続きも終わり、ギルドを後にした自分達は明後日からの準備の為に早速行動を開始した。
と言っても、今日は既に夕方近くの為本格的な準備は明日行い。今日の所は明日の本格的な準備に備えての買い出し表などの作成に時間を割く事とした。
なお、気密性などを考慮し明日に備えての相談はボルスの酒場、の自分の部屋で行う事となった。
因みに、リッチ4世さんはレナさんの部屋で行おうと強く提案したが、下心丸見えなそんな提案を受け入れられる筈もなく、当然ながら却下した。




