更なる出会い その3
夜も更け始め新たな客の入店は減った一方、店内の賑やかさは頂点に達そうとしていた。
店内のあちらこちらから笑い声や景気のいい声が溢れており、この勢いが下火になるにはまだまだ時間がかかりそうであった。
そんな中で、自分とレナさんはカウンター席に座りながら互いに食後の一杯。と言っても自分は既に三杯目入っていたが、を堪能していた。
「そう言えば、ショウイチさんって何処の宿に泊まってるの?」
「ここだよ、ボルスの酒場。ここは宿屋も兼用してるから」
「ふ~ん」
食後の一杯を飲みながら、何か考えを巡らせるレナさん。
一体何を考えているのかと横目で窺いながらも、自分も食後の一杯を飲む。
「なら、私も泊まっていいかな、一緒に」
「へ?」
一緒に泊まる、一体何処に。まさか、自分の部屋に。
健全な男女がひとつ天井の下に過ごす、これはまさかそう言う事なのか。お友達からと自ら言っておいて実は、いやもしかしたら純粋にパーティーとして活動していく上での利便性を考えての選択かも知れない。
等と頭の中で色々と巡らせていると、レナさんがマスターを呼び寄せた。
「すいませんマスター。今空いている部屋ってありますか?」
「空き部屋ですか、ありますよ」
レナさんとマスターの会話を耳にし、それまで巡っていたものが瞬時に止まっていく。
それはそうか、そんな訳がないか。
自分の恥ずかしさを隠すかのように、残っていたコーヒーを一気に飲み干した。
あの後、とんとん拍子でマスターと宿泊の契約を交わしたレナさんは、一旦荷物を取りに行くと店を後にしていた。
そして残された自分はと言えば、カウンター席で待っている事も出来たが、とりあえず自分の部屋に戻り装備を置くとベッドに腰を下ろす。
まだ眠気は襲ってこないので、とりあえず暇つぶしに自称万能携帯端末をいじっている。すると、不意に誰かが部屋の扉を叩く。
「はい、どなたですか?」
「私です。レナです」
自称万能携帯端末を片付け扉を開けると、そこにはレナさんが立っていた。その足元には、レナさんの荷物が入っているのであろう大きな鞄が置かれている。
「どうしたんですか」
「お隣さんだったので挨拶に」
そう言ってレナさんが見せてくれた鍵に付いている木製のキーホルダーには、確かに隣の部屋の番号が彫り込まれていた。
マスターが気を利かせてくれたのか、それとも偶々隣が空いていただけか。
「あ、そうだったんだ」
「はい、これで色々と都合がよくなりますね。パーティーとして」
何れにせよ、レナさんの言う通りパーティーとして行動するにはまさにうってつけと言えた。
「あ、そうだ。荷物、部屋まで運ぼうか?」
「大丈夫です、そんなに重くないから。……それじゃ、おやすみなさい」
笑顔を置き土産に、大きな鞄を持って隣の部屋へと消えていくレナさん。そんな彼女の後姿を見送ると、自分も部屋の中へと姿を消す。
再びベッドに腰を下ろしそのまま倒れ込むと、何気なく今日一日の出来事を振り返る。
今日一日で二人もの新たな仲間がパーティーのメンバーとして加わった。一気にメンバーが増えて事で負担が軽減される部分も出てくるだろうが、逆に負担が増える部分も出てくるだろう。いや、既に一人に関しては心の負担がだいぶと増えている。
それにまだまだレナさんもリッチ4世さんもその実力は未知数だし、パーティーとして最適化していかなければならない個所などやる事は山積みだ。
しかしそれでも、仲間が増えてくれたことは素直に嬉しいし。それ以上に好意を抱いてくれている異性がそばにいると言うのはなお嬉しい。
「ふ、ふふふっ」
今後の楽しみ、パーティーの成長の楽しみとその他もろもろを想像して不意に不敵な笑みが零れた。
いかんいかん。まだ新生パーティーもレナさんとの関係も出発したばかりだと言うのに、勝手な想像をしては。悲しいかな男の性。
しかし、明日からが楽しみだ。
胸を躍らせつつ瞳を閉じると、やって来た眠気に身を委ねながら夢の世界へと旅立つ。
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