更なる出会い その2
どうしてこんな認識の相違が生まれたのかと、直後に恥ずかしながら尋ねてみると。どうやら認識の相違などではなく、単に自分が勘違いしていただけの事であった。
確かに彼女は自分に一目惚れしたようだ。しかし、だからと言っていきなり付き合うのもどうかと言う事で、先ずはパーティーのメンバーとして。つまりはお友達から始めましょうという事に至ったのだ。
そして、その過程を話す間自分が勘違いしたままその答えを導き出していた為、この様な顔から火が出るように恥ずかしい状況になってしまったのだ。
「では改めて、レナです。よろしくお願いしますね」
「ショウイチです。こちらこそよろしく」
恥ずかしさが収まり、火照った顔も落ち着いた所で、互いに握手をして今後のメンバーとしてのお付き合いが良好に進んでいく事を望む。
そうだ、先ずはお友達からでもいつの間にか彼氏彼女の関係に発展する事だってある。今はまだパーティーのメンバーだったとしても、時が経つにつれ人生のパートナーとなっている可能性だってなくはないのだ。
これはきっかけに過ぎない、要はここからだ。
「そうだ、他のメンバーを紹介するよ」
さて、レナさんが新たにパーティーに加わったので、新たな仲間が増えた事を現役メンバーに紹介する。
「カルル」
「んあ?」
隣で話していたと言うのに食べるのに集中していて全く気付いていなかったのか、口の周りに少し食べかすを付けながらカルルがこちらを向く。
すると、自分の顔の向こうにいるレナさんの顔に気が付いたのか、一体誰だろうと言いたそうな表情を浮かべている。
「新しくパーティーに加わる事になったレナさんだ。レナさん、こちらメンバーのカルルです」
「これからよろしくね、カルル君」
「よろしく、レナお姉ちゃん!」
しかし、新しくパーティーに加わる人なのだと分かるとそれまでの表情が一変し。新たな仲間が増えた事からの嬉しさからか、笑顔で言葉を交わす。
こうしてカルルの紹介は終わった訳だが、まだ紹介しなければならないメンバーがいる。ある意味で一番厄介なメンバーがまだ残っている。
「黒き殻を身に纏うは美しき白の蝶。初めまして美しきマドゥモワゼル、私、カルルさんとショ……。あぁ、ごほん。カルルさんの使い魔をいたしております、ボーン・ウエッソ・ムエルテネグロ・アム・ノーライフ・リッチ4世と申します。少々名前が長いので、気軽に『リッチ4世ちゃん』とお呼びください」
一体いつの間に移動していたのか、気が付けばレナさんの目の前のカウンターに立っていたリッチ4世さん。
自分達の時とは明らかに違う自己紹介に多少性差別ではないかと感じつつも、余計な事を言わないか気が気ではなかった。
「ご丁寧にありがとう。レナです、これからもよろしくね、可愛い使い魔さん」
「おぉ、レナさん。なんと素晴らしいお名前だ。まさしく、可憐にして勇猛果敢、戦乙女たる貴女に相応しいお名前だ」
何だこれは、名前一つをとっても自分達に対してはこれほどまでに褒め称えた事はなかった。なのに、レナさんに対してはまさにべた褒めだ。
性別が違うだけでこうも対応が違うものなのか。
「ありがとう。リッチ4世ちゃんもいい名前だよ」
「いや~まぁ。魔界一の紳士たるもの名前の一つにおいても……、ふごご!」
心配していたが、まさかこうも早く口が滑るとは思ってもいなかった。
魔界一の紳士と言葉が漏れた刹那、それ以上余計な事を言わないように慌ててリッチ4世さんの口を塞ぐ。と言っても、大きさの関係から口を塞ぐと言うより手で覆い隠すような感じに見えなくもない。
話の途中で手で塞がれ何事かと暴れるリッチ4世さん。それに対して、自分はと言えばレナさんの耳に先ほどの言葉が入っていないかと気が気ではなく、レナさんの顔を窺っていた。
「あの、どうしたんですか急に?」
一体何が起こったのかと不思議そうな表情でこちらを見ているレナさん。
「いや、その……。さっき言ってたこと、聞いちゃいました?」
出来る事なら聞いていないでくれと願いつつ、レナさんに質問を投げかける。
「魔界一の紳士、の部分ですか?」
だがその願いも虚しく。無情にも、レナさんの耳には確かに先ほどの言葉が入っていた。
「やっぱり聞こえてたか……」
聞いてしまったのなら、もういっそ誤魔化す事無く本当の事を打ち明けようか。そんな考えが頭を過った。
レナさんは既に正式にパーティーの一員となった訳だし、口が軽いようにも見えないので誰彼なく話を漏らしたりすることもないだろう。
リッチ4世さんの口を塞いでいた手を放すと、少し席を外して欲しいと頼みリッチ4世さんには席を外してもらう。
「あの、一応聞きますけど、レナさんって口は堅い方?」
「堅い方、だと思うけど」
そして一応確認を終えた後に、周囲に気を使いながらレナさんの耳元で真実を話していく。
リッチ4世さんが魔族である事、今は自分達の執事をしている事など。一応、不純に満ちた生涯については話す事はなかった。話す必要もない事もさることながら、何となく、レナさんなら話さなくても感づくのではないかと思ったからだ。
「……それと、質問なんですけど。エルガルドにおいて魔族って一般的にどんな印象を持ってるものなのか知らないですか?」
真実を話し終えると、間髪入れずに質問を投げかける。
イシュダン王国国内から出た事のない自分よりも、国を渡り歩いた事があるレナさんならば魔族の印象等について何か知っているかも知れない。そんな考えから質問を投げかけた。
「そうね、私が今まで足を運んだことのある国ではあまり魔族の事については話を聞かなかったかな。恐怖の対象でもなければ混沌を呼び込む者達の代名詞でもないし。……それよりも、害獣や賊の方が恐れられてた感じかな」
あれ、もしかして魔族ってエルガルドにおいてはそこまで認知されてないものなのか。まさか魔族って、人畜無害なのか。
レナさんは、世界は広いから国や地域によっては認識が異なるかも知れないけど。と付け加えていたが、果たしてどうなのだろうか。
ま、これはこれで今後リッチ4世さんを連れていくうえでは好都合ではある。
とは言え、余計な面倒を避ける意味でも、力が必要な時以外は省エネモードでいてもらおう。
「お話は終わりましたか」
頃合いを見計らって戻ってきたのか、席を外していたリッチ4世さんが戻ってくる。
「あぁ、終わったよ」
「全く、ショウイチさんは少々神経質すぎるのでは? レナさんのような美しいお方が、私の素性を知ったところで手に掛けるなどとは。私は思いもしませんよ」
一体どの口が言っているんだ。
大体、そうやって女性だからと油断して金銭を根こそぎ吸い取られた挙句、危うく殺されそうになったのは何処のどいつだ。と言葉に出してしまいそうになるが、寸でのところで喉の奥へと引っ込める。
リッチ4世さん、貴方の方こそもう少し異性に対して神経質になってくださいよ。
「そういえばショウイチさん、もう私の立ち位置の事はレナさんのお話しされたんですか?」
「いや、まだだけど」
「そうですか。ならば、もしよろしければ今後はレナさんの使い魔とする方向で……」
「却下。そんな事したら余計にややこしくなる」
マスターには既にカルルの使い魔として認識されているのに、今更その変更は混乱を招くだけだ。
執事たるもの美しい主に仕えてこそ働き甲斐があると言うものです。等と文句を言うリッチ4世さんを余所に、とりあえずレナさんにリッチ4世さんの対外的な立場を伝える。特に意見もなくレナさんの理解を得る。
「不満はあると思うけど、心の中では私の使い魔だよ、リッチ4世ちゃん」
「え、い、いぇ~。そんなありがたいお言葉」
そして、レナさんは文句を垂れ流すリッチ4世さんをなだめる。
と言うよりも、もはや骨抜きにされていると言ってもよかった。
こうしてメンバー紹介を終えると、親睦を深めるべく食事会を開催する。
と言っても、夕食をまだ食べていなかったレナさんが夕食を取るだけのものであるが。
「へぇ~、カルル君ってリンゴが好きなんだ」
「うん、リンゴなら毎日だって食べられるんだ!」
「因みに私は竜骨で出汁を取った竜骨ラーメンが大好きです。それから女性の愛用したパ……」
「はいはい、紳士さんは黙ってようね」
カルルとレナさんの話に割って入るのは勝手であるが、そのいただけない方向に行きそうな話の内容は放ってはおけない。
なので手で塞いで強制退場してもらう。
その後も楽しい食事会は続き、食事会が終わる頃には既に外は夜の闇に染まっていた。
その影響を受けて、店内も灯りがあるとは言え少しばかり暗さが強調される。
「それじゃショウイチ、レナお姉ちゃん、またね」
夜も更ける前に明日に備えて帰宅するカルル。そして、そのカルルの腕にはまだ別れたくないと言わんばかりに、変える表情もないのに物悲しそうな表情を浮かべているリッチ4世さんがいた。
対外的にはカルルの使い魔となっているのだから、カルルと一緒にいないのは不自然である。なので、カルルと一緒に帰る事になるのは当然と言えた。
しかし、リッチ4世さん本人にしてみればもう少しレナさんと一緒にいたかったのか、少しごねた末に渋々カルルの腕の中へと収まったのだった。
「また明日ね、カルル君、リッチ4世ちゃん」
手を振り店を出ていくカルル達を見送りながら、自分とレナさんはまだカウンター席に腰を下ろしていた。




