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新たな出会い その2

 自分がそんな考えを過らせているとはつゆ知らず、骨格野郎はカルルから受け取ったリンゴをその口の中へと流し込んでいく。

 芯まで丸ごと口にし、文字通りリンゴは綺麗さっぱり骨格野郎の胃袋へと姿を消した。

 

 そういえばふと思ったのだが、骨格野郎は見た目通り骨格だけであろうに、一体今食べた物は何処に溜まるのだろうか。

 まさか、見えていないが黒のローブの下には未だに生きてた頃の臓器等が残っているとでも言うのか。それとも、自分が想像も出来ないような何かがあるのか。

 等と考えていると、自分の視線に気づいたのか骨格野郎が何かを悟ったかのように声を掛けた。


「あ、気になります? 見せましょうか? 少し刺激が強いかと思いますけど……」


「い、いえ。結構です」


 確かに気にもなるが、刺激が強いと言われると引いてしまう。真相は当分、いや一生闇の中だろう。


「いや~、助かりました。これで少しは命をつなぐことが出来ました、ありがとうございます」


 食べなくても元気だったのではと思うところもあるが、それは兎も角。リンゴを食べて少しは元気を取り戻したのか、骨格野郎はお礼を述べる。

 流石に恩を仇で返すなんて失礼な事なく。骨格野郎も最低限の節度は持っているようだ。もっとも、最低限過ぎる気もするが。


「この御恩は一生忘れません。……とは言え、お恥ずかしながら、実は私先立つものが全く無く。この恩を返せるあてがないのです」


「オイラ、別にそんなの気にしてないぞ」


「お、おぉ! 何と、何と心優しいお方。貴方こそまさに天使の生まれ変わりだ!」


 一体どの面下げて天使などと言っているのか。とツッコみたくもなったが、寸でのところで飲み込む。

 さて、色々とあったが今度こそ骨格野郎と別れ王都へと帰ろう。これで骨格野郎との付き合いも終わる。と、その時は思っていた。


 ところが、事態は自分の予想していなかった方へと動き始める。


「心お優しい方、是非ともお名前を教えていただきたく存じます」


「オイラ、カルル。で、こっちがショウイチ」


 自己紹介ついでに自分の紹介までも付け足すカルル。ま、名前くらいは教えても問題ないだろう。


「カルルにショウイチ、おぉ。お二人ともなんとよいお名前でしょう」


「で、骨格さんの名前は?」


 自分達だけ名乗っておいて骨格野郎の名前を知らないと言うのも腑に落ちず、別れる前に名前だけは知っておこうと言葉を投げかけた。


「私ですか。少し長いですが、聞き逃さないでくださいね。私の名前は、ボーン・ウエッソ・ムエルテネグロ・アム・ノーライフ・リッチ4世です」


 確実に舌を噛みそうな長い名前、これの何処が少しなのだろうか。


「あ、もし長いようでしたら『ボリッチ』や『4世さん』と略して呼んで下さい」


 短くまとめてもよい言われ、ふとある略称が頭を過る。


「なら、……『ボッチ』でもいい訳だ」


「それは駄目です! ノーサンキューですよ! ば、言っときますけど私は断じて『ぼっち』などではありませんから、ちゃんと友達いますから! それ禁止、使用禁止!」


 ちゃんと名前を語呂を考えて略しただけなのだが、どうやらこれは駄目らしい。物凄い剣幕で反対を前面に押し出してきた。

 因みに、言葉の意味を分かっていないのか、カルルは何故こんな剣幕で反対するのかと不思議がっていた。


「それじゃ、互いに自己紹介も終わったし。自分達はまだ仕事の途中なので、これで失礼します」


 少しの間ではあったが、不思議な出会いもここまで。何れまた何処かで会うかも知れないが、それもまた遠い日の話。

 と思っていた、この時は。


「ちょっと待って下さい! まだお話したい事が!」


 この時、強引にでもその場を後にすべきだったのではと後々後悔したのは言うまでもない。


「恩を返さなくてもいいと仰いましたが、それでは私の、魔界一の紳士たる私の流儀に反します! しかし、今の私には硬貨の一枚もない。……そこで考えました、私をお二人方の執事として仕えさせてください!」


 仕えさせてほしいと言う言葉以前に、自分としては魔界と言う単語が気にかかって仕方がなかった。

 その人間とも亜人とも異なるその外見からまるで別の世界の住人かとも思っていたが、まさか本当に別の世界の住人だったとは。それとも、エルガルドと言う一つの世界の中に魔界と言うコミュニティーのようなものでもあるのか。

 どちらにせよ、目の前のリッチ4世さんは人間や亜人とは別の社会から来たことに間違いはない。


「仕えるって、そんな急に……」


「お願いします、何でしたら使用人でも召使いでも構いません。お二人方にお仕えすることが恩を返す唯一の方法なんです!」


 もっと他にも方法はあると思うが。何故かリッチ4世さんにとっては自分達に使える事が最善の方法らしい。

 とは言え。魔界の住人、即ち魔族であろうリッチ4世さんを傍に置いておいていいものなのか。エルガルドにおける魔族の立場など今のところ分からないが、前世での各媒体の魔族の立ち位置と言うと、大抵主人公側と敵対する悪の根源とされている場合が多い。

 そもそもイシュダン王国国内の法的に魔族と関わっても良いものなのだろうか。最悪、魔族と関わったとして極刑なんて事にならないよな。


 手を拱いて自分が悩み判断に困っていると、カルルが先に判断を下す。


「オイラは別にいいと思うぞ。だって、こんなに必死に頼んでるんだから」


 単純に目の前の困っている人を助けるという、カルルらしい判断であった。


「おぉ、流石はカルルさんだ! 御心が大海原の如く広くていらっしゃる!」


 カルルの判断を称賛しつつ、リッチ4世さんはその瞳、もとい瞳があったくぼみたる眼窩(がんか)を自分の方へと向ける。

 もはや瞳はなくとも、その視線を感じることは出来る。


「……、しかしなぁ」


「私は色々と役に立つと思いますよ。こう見えても、魔界では紳士以外にも屈指の魔法使いとしても名が知れていますし」


 魔法使い、その言葉に少し胸が高鳴る。

 こっち(エルガルド)に来てから、魔法使いと言う者に会ったことがなかった。いるにはいるらしいのだが、どうやらエルガルドにおける魔法は何処の誰でも使えるという代物ではないらしく、気軽に仲間などには出来ないらしい。

 そんな訳で、貴重とも言うべき魔法使いが目の前に、それも自ら自分達に仕えたいと言っているのだ。

 魔族である事などを差し引いても、傍に置いておいて損はないのではないか。そんな考えが湧き上がっていた。


「分かった、ならお望み通り仕えてもらおうかな。と言っても、使用人でも召使いでもなく執事として、ね」


「ありがとうございます。精一杯、頑張らさせていただきます!」


 こうして、おそらくエルガルドにおいては世にも不思議な魔族の執事と言う存在がここに誕生した。


「それじゃ、王都に戻るか」


「あ、待って下さい。その前に正装に着替えてきますので、少し待ってもらえますか」


 正装とはいったいどういう事なのか、今着ている黒のローブは正装ではないのか。そんな疑問を投げかけると、リッチ4世さんは答えを返した。


「あ、今着てるのはなるべく貧相な方が救いの手を差し伸べてくれ易いかなと思いまして」


 返ってきた答えは、まさに自分達が彼の術中にはまった事を意味していた。


「お、おい。それって……」


「あ、そうだ。……お二人方とも、覗いちゃ駄目ですよ」


 可愛らしく御茶目に言ってはいるが、誰が好き好んで野郎の、そもそも骨格だけであろう奴の着替えなどを覗きたいだろうか。

 そんな訳で、木の陰に隠れるリッチ4世さんに対して当然ながら誰が覗くかと言葉を返す。

 そういえば上手く話をすり替えられたと気づいたのは、彼が完全に木の陰に隠れてしまってからだった。

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