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新たな出会い

 自分達の実績にも拍が付き、更にはお財布に十分すぎる硬貨をもたらしたあの仕事から数日が経過していた。

 あの仕事を終えた翌日などは丸一日休みではあったが、その殆どを休息と整理に費やすなど色々と大変であった。しかし今となっては、いつも通りとも言える生活リズムに戻りつつあった。

 当分依頼をこなさなくても困らないほどの金額を手にしたとは言え、やはり仕事柄明日も五体満足であるとは限らない。

 ならば、多少の無茶を出来る内に稼いでおかなければならない。


 今日も今日とて依頼をこなす。一度に得られる金額は、あの依頼で得た額に比べれば端金程度にも感じるが、ちりも積もれば山になるだ。



 そしてそれはギルドで昼食を済ませ、もはや通いなれた森で午後からの依頼をこなしていた時の事であった。

 順調に必要な数を討伐し終え、いざ王都への帰路に付こうとした時の事であった。何かの臭いを感じ取ったのか、突然カルルが自分の手を引っ張りながら何処かへと急ぎ足で向かう。


「カ、カルル。どうしたんだよ!」


「こっち、こっちだショウイチ!」


 その先に一体何があるのか、言い表せないのかそれとも別の何かか、特に口にすることもなくカルルは自分の手を引っ張りながら何処かへと向かう。

 やがて、少し開けた場所へと足を踏み入れる。木々の間から日差しが漏れ、木漏れ日に満ちたその場所に、違和感がある事にはすぐに気が付いた。

 この森に生息する害獣とは異なるシルエットのものが、木の根元にあったからだ。

 誰かの落とし物などではない、膨らみのある黒のローブがそこにはあった。


 行き倒れか、それとも害獣にやられたのか。観察している限り黒のローブは動く気配がない。


「ショウイチ、あれ! あれだよ!」


 旅人か、或いは同業者か。王都の住人であるならば危険である森などには滅多には足を踏み入れないであろうから、地元住民ではないかも知れない。

 それにカルルが警戒もしていないと言う事は、人の形をした害獣という訳でもなさそうだ。


 カルルが必死に訴えるのだからまだ息があるのかも知れない。まだ息があるかどうか近づいて確認をしなくては。


 カルルをその場に残し、黒のローブにゆっくりと近づく。と、自分はある事に気が付いた。

 それは、所々破れて使い古されたであろう黒のローブからわずかにその姿を覗かせた手と足。その姿は、もはや皮も筋肉もない、まさに骨そのものであった。


 これはどう見ても白骨化している、もう手遅れか。

 と思った刹那、それまで微動だにしなかった黒のローブが俊敏な動きで自分の足を捉える。よく見ると、先ほど目にした白骨化した手が自分の足を力強く掴んで離さない。


「あ、あぁ……」


 更には、不気味な声も聞こえ始めた。

 声の方へと視線を動かすと、そこには骨格が露になった頭部があった。かつて眼があったであろう箇所が、自分を見つめて離さない。


「しまっ!」


 害獣か何かが作った罠か、ゴブリン系等の知恵のある害獣の中には罠を使うものもいる。この森にはそんな知恵を持った害獣はいないと思ってはいたが、油断した。

 兎に角今は一刻も早く距離を取らなければ。そう思い、投げナイフに手をかけようとした時だった。

 事態は、自分の予想だにしない方へと向かう事になる。


「ちょ、ちょっと待って下さい。そ、そんなつもりはないんですよ!」


 突然聞こえてくる男性の情けない声。この場には自分とカルル以外に人の姿はなかった筈だ。となると、声の主は、何処からどう見ても目の前の黒フードを被った骨格だった。


「わ、私はただ、少しばかりこの空腹で今にも死にそうな。あ、もう一回死んでるんですけどね。……そんな哀れな私に少しばかりの施しをしてほしいだけなんです」


 途中本当に後がないような者が言わないであろう台詞が聞こえたような気もするが、空耳と言う事で気にしないでおこう。

 特にこちらが反応を示さないでいると、黒のフードを被った骨格は更に懇願を続ける。


「どうか、どうかこの哀れな私に施しを! ……あ、出来れば栄養価が高くて腹持ちの良いのでお願いします。どうか、どうかぁぁっ!」


 もうこの場に放っておいてさっさと王都に帰ろうか、どう考えても切羽詰っている様には見えないので。

 なんて、どうやってこの場を切り抜けようかと自分が考えていると。事態の推移を見守っていたカルルが自分達の方へと近づいてきた。


「お、おぉ。そちらの可愛い方でも構いません。どうか、どうか腹が減った私めに出来れば多めの施しを!」


 この骨格野郎には謙遜と言う感情がないのか、厚かましいにも程がある本音をさらりと漏らしている。

 もうこんな奴はこの場に放っておいてさっさと森を出よう。と決めた直後の事だ。


「お腹空いてるのか、なら……、これ食べるか?」


 もはや本当に腹が減っているのかも怪しい奴に何の疑いも抱く事なく、カルルは自身が尻尾で持っていた袋からリンゴを一個取り出すと、それを骨格野郎に差し出した。

 確かあのリンゴは、カルルがおやつだったか非常食だったかに持っていたリンゴの筈だ。

 そんなリンゴを差し出された骨格野郎は、声を挙げた。カルルの優しさを思って声を挙げたのかと思った、が。


「こ、これは! 比較的大振りで酸味と甘みの絶妙なバランスが特徴の、今がまさに旬を迎えているジョナジョーナゴールドじゃありませんか! こんな上物、ラッキー!」


 施しの優しさよりもその内容に声を挙げていた。普通そこは思っていても心の中にしまっておくものだろうが。

 もうこいつ、いっそ害獣扱いで叩き切ってしまおうか。と、危険な考えが頭の中を過った。

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