ご指名 その8
宿屋で一夜を過ごした翌日、食堂も兼用しているので宿屋の食堂で朝食をとりながら何時迎えは来るのだろうかと考えていた。
朝食を食べ終え、部屋へと戻るとカルルと共に荷物の整理等をしながら迎えを待った。因みに、自分とカルルの二人一部屋となっている。
それからどれくらい時間が経過しただろうか。不意に、部屋のドアを誰かがノックする。
「はい、どなたですか?」
「私です。カリーナです」
部屋のドアを開けると、そこには確かにカリーナさんが立っていた。声だけのそっくりさんなのではないかと、今回の依頼の影響か変に疑い深く構えてしまっていた。
「あの、どうかしましたか?」
「いえ、何でもありません。……あ、お迎えですか?」
「はい、もうすぐ出発ですからお迎えに」
直ぐに出ますと言うと、一旦部屋の奥へと戻りカルルと共に部屋を発つ準備に取り掛かる。
と言っても、既に装備品などへの着替えは済ませており、後は整理した荷物を持つのみではあったが。
「それでは、行きましょうか」
部屋を出て受付でチェックアウトを済ませると、宿屋を後にカリーナさんの案内のもと見慣れた荷馬車のもとへと足を運んだ。そこには、既にシャガートさんの姿があった。
「お二人とも、昨日はよく眠れましたか?」
「おかげさまで、ぐっすりと眠らせていただきました」
「それはよかった。では、出発しましょうか」
滞在期間の繰り上げにより、滞在期間は一日となく、自分達は王都への帰路へと付く事になった。
ま、予定の変更など別に不思議な事ではないし、不要に長居はしないとシャガートさん自身が判断したのでこうなったのだろう。
行きは結局出会わなかった噂のミノタウロスの存在を警戒して、と言うのも少しは反映しているかも知れないが。
行きと異なり、随分と荷物の増えスペースが圧迫された荷台で揺られながら、来た道を王都に向けて辿る。
それから三日後、ミノタウロスには出会わなかったが途中何度かの害獣駆除を行いながらも、自分達は無事に暁に染まる王都へとたどり着く事が出来た。
久々に目にする王都の光景に若干感動しつつも、自分達はまずシャガートさんの館へと足を運ぶ。
理由は勿論、今回の依頼の成功報酬や害獣駆除による追加報酬を受け取る為だ。それと、依頼を無事完遂したとの証明書を貰う為でもある。
「それでは、こちらが今回のご依頼での報酬、その総額となっております。お確かめください」
受取の為に通された部屋で、セワスティアンさんが持ってきた袋の中身を目にし、もはや声が出なかった。
目の前のテーブルに置かれたその袋の中には、隙間なくぎっしりと入れられた光り輝く硬貨の姿があったからだ。この硬貨の量、今まで受けてきた依頼の中では確実に最多である。
その総額も、もはや今まで受けてきた依頼とはなんだったのかと思える程に桁が違うだろう。
ふと横目で隣に座っているカルルを見ると、驚きのあまり口を開けっ放しにして固まっていた。
「ま、まさかこんなにとは……」
「いえいえ。こちらの期待に沿っていただきましたし、今後とも御ひいきにしていただきたいと思いまして。お気持ちばかり、少し加えさせていただきました」
流石は大陸中に名を馳せるシャガート商会の会長、その懐の大きさは本物だ。
その後無事に証明書も受け取り、長かった付き添いもお別れの時となった。
「カルルちゃん! またいつでも遊びに来てね! カルルちゃんの大好きなリンゴのお菓子を作って待ってるから!」
「カリーナお姉ちゃんも元気でね!」
見送りの際、今生の別れという訳でもないのに、カルルとカリーナさんは互いに感極まってか涙を流している。
立場は違えど同じ王都内に住んでいるのだ。会おうと思えば、いつでも会えるのに。それ程二人の仲が縮まっていたと言う事か。
天に昇り始めた月に見守られながら、自分達は館を後に一路ギルドを目指して足を進めた。
ギルドへと足を運び、今回の依頼の手続きなどを滞りなく済ませ。少し遅めの夕食をギルドで済ませる。
再びギルドを出た頃には、月が天高くに上っていた。
「それじゃカルル、疲れただろうから明日は一日休みだ」
「うん、分かった」
ギルドのメンバーは気ままな仕事だ、所謂フリーランス。自分で働きたい時に依頼を受け、働きたくなければ無理に依頼を受ける必要はない。それに就業時間にも縛りはない、働き始めが朝でも夜でも構わない。
それに休日出勤なんてシステムもないので、丸一日休んでも何の問題もない。
もっとも、不規則に陥りやすいが故に、体調管理も立派な仕事の一つと言ってもいいが。
「お金、取られるなよ」
「分かってるよ」
シャガートさんの館で山分けにした報酬、それが入った袋を大事に抱えるカルル。
「それじゃ、気を付けて帰れよ」
そんなカルルと分かれ、久々になるボルスの酒場へと足を運んだ頃には、更に夜も更けていた。
久しぶりに会うマスターとの会話もそこそこに切り上げると、気が緩み疲れが出始めた体を引きづりながら久しい自分の部屋へと足を踏み入れる。
そして、荷物や装備などを適当に置くと、そのままベッドへと倒れ込むように飛び込んだ。
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