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ご指名 その7

 その後の目的地までの道中は、やはり平穏とはいかなかったが概ねは順調だった。

 移動に費やした四日間の間、初日最初の遭遇も含め数度害獣と刃を交える事となったが、カルルの事前の探知によって荷馬車に被害もなく難なく退治する事が出来ていた。

 更に言えば、害獣よりもある意味で厄介な賊が出なかった事や、さらに厄介な上級の害獣等が現れなかった事も順調な要因となっている。


 こうして迎えた移動四日目の事。今日の夕方頃には目的の場所へ到着する予定なので、その手前にある村で最後の休憩を取っていた時であった。

 酒場で午後からの移動に備え食事をとっている最中、ある噂を耳にする。


「ミノタウロス……、ですか」


「そうです。どうもこの近辺や、目的地である買い付け場所の付近で目撃されたようなんです」


 シャガートさんがため息交じりに仕入れた情報を口にする。

 噂はあくまで噂であるのでどこまで信じていいのかは判断の別れる所ではあるが、シャガートさんの表情からもしかしたら信憑性が高い情報も入ってきているのかも知れない。


「安全の為に留まる事も出来ますが、私としてはあまりそれは望んでいません」


 徹底した情報の管理。移動の間も立ち寄った町や村で宿を取った際にシャガートさん達は偽名を使っていた事からも、どれ程今回の買い付けがシャガート商会にとって重要かが分かる。

 それを踏まえれば、大陸中に名を馳せるシャガート商会の会長とそのご令嬢、それがこんな地方の村にいると知られれば色々と勘ぐる輩も現れるかも知れない。

 成程、有名人は大変だ。


「ミノタウロスは一応上級の害獣に区別されていますが、全ての個体がそうとは限りません。ですので、用心しながらも予定通り進みたいのですが、いかがでしょうか?」


 最終的な決定権は依頼主であるシャガートさんにある。が、実際にミノタウロスが現れた際に戦うのは自分達だ。つまり、今回の最終的な決定権は自分達にある。

 だが原則としてどんな依頼であれ、どれ程危険性が高い依頼でも一度受けた依頼を途中で放棄した際には、その代償として違約金が発生する。

 しかしながら、ギルドのメンバーとて命ある者。自分の命にはかえられず依頼を途中放棄する者も少なくないと聞く。


 先ほどシャガートさんが言ったように、例え上級に区別されているとは言えその全てに当てはまるとは限らない。上級であっても個体によっては下級程度の能力しか持たない個体もいるしその逆もまた然り。

 生命である以上、外見だけでは判断できないのは害獣であっても変わらない。

 それを考慮し、更に自分達の実力を加味した上で最終的な決断をしなければならない。


 破棄する選択肢もなくはない。しかし、まさに目と鼻の先までやって来て引き返すのもどうだろう。

 ならばとふと、ある考えが頭の中を過った。これは更なる追加報酬を手に入れられるチャンスではないかとの考えだ。


「では、こちらの提示する条件を呑んで下さるのなら、ご希望通りにいたします」


「条件、ですか」


 条件と言う単語に、シャガートさんの表情には険しさが現れ始める。

 しかしそれを余所に、自分は希望する条件を提示し始める。


「無理な金額ではありません、この位の金額を用立てて欲しいんです。勿論、実際にミノタウロスと対峙した時だけですが」


 シャガートさんにのみ見えるように指で希望の金額を示す。すると、シャガートさんの表情はますます険しさの度合いを深めていく。

 目撃された個体の実力は未知数ではあるが、ミノタウロスである以上、ある程度の実力は秘めているだろう。

 もしかすると、出会えば命がないかも知れない。そんな最悪な状況を打破し、尚且つ今回の買い付けで今後シャガート商会やシャガートさん個人が得る利益を考えれば、寧ろ安いくらいの金額ではなかろうか。


「……分かりました。もしミノタウロスと対峙し討伐した暁には、ご希望の金額を用立てましょう」


 流石は名の知れた商人と言ったところか。

 実際に戦うのは自分達でその際に自分達が死んでしまったり逃げたりすれば追加報酬は支払わずに済むし、出会わなければそれはそれで支払わずに済む。討伐成功以外では損はしないようにするとは、流石商人の鏡だ。


 こうして当初の予定通り、目的の場所目指して十分な休憩を取った後に村を出発する事となった。

 無論、目撃されたと噂されるミノタウロスの存在に警戒しながら用心しつつも。



「はぁ……」


 現実は甘くない。人生とは、やはり思い通りにはいかないものだ。

 結局あの後、警戒しながらも進んだがミノタウロスどころか他の害獣とすらも遭遇せずに、無事に予定通り夕方には目的の場所に到着する運びとなった。


「ショウイチ、溜息なんてついてどうしたんだ?」


「いや、人生の難しさを改めて痛感してただけだよ」


 自分の言っている言葉の意味が分からないのか、カルルは首を傾げている。

 そんなカルルに、もう少し大きくなれば分かるよと言葉を投げながら、再びため息が漏れるのであった。


「お待たせしました」


 そんな辛気臭い自分とは対照的に、特に何事もなく到着できた事からシャガートさんの表情は生き生きとしている。いや、ただ単に買い付けの話で何か良い事があったのかも知れない。

 兎に角、そんなシャガートさんがカリーナさんを引き連れ、荷馬車の番をしていた自分達のもとへと戻ってきた。


「今夜はこの村で一泊します。それから、予定よりも買い付けがスムーズにいきそうなので出発は繰り上げて明日の昼頃になります」


「泊まる場所は?」


「宿屋にはカリーナに案内させます。それから迎えもカリーナにさせます。少々窮屈かも知れませんがショウイチさん達には宿屋で大人しく待機していて欲しいのです」


 シャガートさん達にとっては重要な村、部外者である自分達が無闇に散策するなと言う事か。

 もっとも、特に散策する予定もなかったのですんなりとシャガートさんの指示に従った。


「そうだ、必要でしたら部屋に娼婦などを呼ぶことも出来るそうですよ。私は呼んだことはありませんが、この村の子達はレベルが高いそうですよ」


 考えておきますとだけ返事をし、カリーナさんに本日泊まる宿屋へと案内してもらう。

 なお、案内の途中でカルルから娼婦とは何かを質問され。カリーナさんと二人、目を泳がせながら返答に困ったのは言うまでもない。

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