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ご指名 その3

「お父様、今度の買い付けに護衛として付き添って下さる方が来てるって本当!」


 現れたのは一人の女性、後ろで血相を欠いている使用人達とは異なる仕立ての良い優雅な服装を身に纏っている。

 自分と同世代程度の年齢だろうか、綺麗な金の髪を靡かせているその女性は、シャガートさんの事をお父様と呼んでいた。と言う事は、この女性はシャガートさんの娘なのか。

 そう言えば、体型は兎も角、顔の部位の幾つかはシャガートさんに似ていなくもないような気がする。


「これ、カリーナ! まだ面接は……」


 娘の突然の乱入に、シャガートさんは立ち上がり部屋を出て行かせようとするが、どうやら娘のカリーナさんの方は父親の姿も声も眼中にはないようだ。


 その証拠に、何故か先ほどからカルルの方を一心に見つめている。


「……っ、きゃぁぁぁっ! 何この子、可愛い、可愛すぎるぅ~!」


「うおっ」


 そして、一瞬の内にカルルに近づくと、そのまままるでぬいぐるみを抱きかかえるかのようにカルルを抱きかかえ始めた。

 突然のカリーナさんの行動に、もはや自分もシャガートさんも、そしてカルルも直ぐには反応できずにいた。


「こ、これカリーナ! ノックもせずに突然部屋に入って来たかと思えば、お客様に……」


「ねぇお父様、この子が今度の買い付けの護衛なの! ねぇどうなの!」


「だ、だからそれを今から決める為に今面接を……」


「まさかまだ決めてないの? なら私この子が良い! と言うよりこの子とじゃないと行かないから!」


「そ、そんな勝手な……」


 娘に頭が上がらないのか、何だか事態が思わぬ方向へと進んでいるような気がする。しかし、これは案外チャンスかもしれない。

 この状況を利用して押し切れば勝利を勝ち取れるかもしれない。となれば、早速行動あるのみ。


「あの、失礼な質問なのですがシャガートさん、こちらの女性は」


「ん、あぁ。彼女は私の娘でカリーナと言うのだ。実は、今度の買い付けで私と共に同行するのだが。一体誰に似たのか、護衛役の候補の者達を選り好みしていてな。このままではなかなか決まらんので今回は席を外してもらおうと思っていたのだが……」


「そうですか。ですが、カリーナさんはカルルの事をいたく気に入っているみたいですね」


「ん、むぅ」


 もうひと押し、もうひと押しで勝利を勝ち取れる。シャガートさんの心を決定付ける言葉を、吐き出す。


「もしここで自分達を返し他の候補の方を選ぶとなると、カリーナさんはどんなお気持ちになるでしょうかね」


 これではもはや面接でもなんでもなくなってきてはいるが、それでもいい。この好機を最大限に利用して勝利を勝ち取る、今はただそれだけで。

 暫く考え込んでいるのか口を閉じていたシャガートさんだが、やがて決心したのか硬く閉ざされていたその口を開いた。


「分かった、君達に正式に依頼を頼むとしよう」


 第一の難所を攻略した、その瞬間であった。

 予想外の援護のもと少し強引とも言えるような攻略ではあったが、兎に角攻略すればこっちのものだ。


「カリーナ、お前の希望通り、この方々に今回の買い付けの間の護衛を正式に依頼する事にしたよ」


「本当! それじゃぁこの子と一緒に行けるのね、嬉しい!」


 ますますの上機嫌になったカリーナさんに対して、シャガートは溜息こそ漏らしてはいたがやはり娘の喜ぶ顔が見れたからかまんざらでもないと言う感じだ。


「カリーナ、もう満足しただろう。私はこれからお二人と打ち合わせをするからカリーナは席を外しなさい」


「えぇ、私もう少しこの子と一緒に居たい!」


「カリーナ、あまりわがままを言うんじゃない」


「あ、あの。カルルには後で自分から打ち合わせの内容を伝えておきますので、打ち合わせが終わるまでカルルとカリーナさんを一緒にさせておいてあげてはどうでしょうか」


 援護の恩返しという訳でもないが、この場を穏便に収める為にも双方にとってあまり文句が出ないであろう提案を出す。

 こうして、自分の出した提案を受け入れてくれた双方。

 カリーナさんは嬉しそうにカルルを抱きかかえたまま部屋を後にし、嵐が去り静かになった部屋に残った自分とシャガートさんは打ち合わせを始めた。


「先ほども聞いた通り、今回の依頼の内容は買い付けの間の護衛。もっとも、主に移動中の荷馬車の護衛となるでしょうが」


 小物入れ用のポーチからメモを取る為の紙と携帯用のインクに羽ペンを取り出し、必要な情報を書き綴っていく。


「買い付けの場所までは荷馬車で凡そ四日程度で着きます。そこから二日ほど現地に滞在し、そして王都へと戻ります。計十日程の間の護衛です」


 移動と滞在期間を含め約十日にわたる護衛か。自分はフィルとパーティーを組んでいた頃に仕事の内容は違えどそれ程の時間をかけた事もあったが、カルルにとっては初めての事だろう。

 その点をどのように考慮し工夫するか、後でカルルと話し合わなければ。


「ご依頼の詳細な内容については承知しました。しかし、幾つか疑問に思うところもあったので質問してもよろしいでしょうか?」


「どうぞ」


「先ず、買い付けを行う場所が移動に四日ほど掛る訳ですが、そこは王国国内のどの辺り……」


「申し訳ないが、今回の買い付けを行う場所については所謂企業秘密と言うものでね。その場所の名前などを含めあまり他人に軽々しく伝えたくはないのだよ。たが安心してくれ、道筋などは問題ないと保証する」


 道中の突然の害獣や賊の襲撃に備え事前の地形確認等を行おうとする算段だったのだが、どうやら色々と事情があるらしい。


「私のように有名になると、色々と敵も増え同業者などが情報を盗み出そうともするものでね。ご理解してくれると助かる」


「分かりました。では、万が一耳に入れてしまったとしても心の奥に留めておきます」


「感謝するよ」


 その後もいくつかの質問と返答を繰り返し。打ち合わせは滞りなく終わった。

 そして、カリーナさんの涙ながらのお見送りに見送られながら、自分達はシャガートさんの館を後に一路ギルドへと向かうのであった。

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