ご指名 その2
館の中はまさに上流階級の住まいと言うに相応しく、壁や床など至る所に高価な調度品の数々等が置かれていた。
更にはセワスティアンさん始め使用人の方々によって毎日掃除されているのか、まるで新築同様の清潔さが溢れている。
これが上流階級の中でもどれ程の立ち位置になるのかは分からないが、少なくとも、この館の主は今の自分達と比べ雲の上の人であることは確かだ。
「それでは、こちらのお部屋でお待ちください。準備が整いましたらお声掛けさせていただきますので」
そんな人物と対面、かと思ったが。セワスティアンさんに案内されたのは、所謂控え室のような部屋であった。
準備の為に部屋を後にしたセワスティアンさん、そして残された自分達。
今は控え室として使っているが、この部屋も先ほどまで見てきた館の一部である為か、部屋の各所に高価な調度品が置かれている。
「ショウイチ、オイラ何だか落ち着かないよ……」
上流者の生活空間に触れたことがないカルルは、この独特の雰囲気に落ち着きが無くなってきている。
かくいう自分も、表面上は落ち着いているように見えるが、内心では今にも心臓が飛び出してしまいそうなほどだ。
「大丈夫だよカルル、落ち着いて」
しかし、自分まで落ち着きをなくしてしまっては救いようがない。表面上で落ち着いている雰囲気を醸し出しながらも、カルルを落ち着かせる。
そしてふと、この待ち時間を利用してカルルに面接とは何かを教えようと思いつく。
もっとも、ただでさえ落ち着きを欠いている今のカルルに面接とはかくも厳しいものである等と説明した暁には、もはやこの場から動けなくなってしまうのではないだろうか。
なので、落ち着きを欠かせずに面接とは難しいものではないと優しく簡単に教えていく。
「難しく考える事じゃないんだ。初対面同士がお友達になろうとするような、そんな感じかな」
「そうなのか」
前世の面接とこっち(エルガルド)の面接が全くの同じとは思っていないが、大まかな部分に関しては多分似てはいると思う。
もっとも、全くの別物であったのなら、臨機応変に対応するしかない。ま、面接と言うそのもの自体、答えがあってないようなものだから全てが臨機応変になると言えばそうだが。
「お待たせいたしました。準備が整いましたので、どうぞこちらへ」
カルルに面接とは何かを教え終えた時、見計らったかのようにセワスティアンさんが現れる。
セワスティアンさんに再び案内され、部屋を後に再度館の中を歩く事に。
やがて、セワスティアンさんの足が一つの扉の前で止まる。どうやら、目的の部屋の前に到着したようだ。
「失礼いたします。候補の方々をお連れ致しました」
扉を数度ノックし、中からの返事を確認するや、セワスティアンさんがその扉を開ける。
しかしセワスティアンさんがその扉の中へと入る事はない、部屋の中へと入るのは自分達だけのようだ。
「失礼します」
「し、失礼します」
先ず自分が先に入り、続いてカルルが入る。
何が正解か分からないからか、カルルはとりあえず自分の真似をするように後に続く。
高価な調度品が品よく飾られたその部屋には一人の男性がいた。高価であろうソファーに腰を下ろしていたのは恰幅の良い四十代後半と思しき、仕立ての良い衣服を身に纏った男性であった。
おそらく、この男性こそがセワスティアンさんが仕えるこの館の主にして今回の依頼主、シャガート様なのだろう。
「ようこそお越しくださった。どうぞ、お掛けなさい」
シャガートさんに促されるまま、自分とカルルは対面のソファーへと腰を下ろす。
「お初にお目にかかる、私の名はシャガートと申す。こう見えても大陸中に名を馳せるシャガート商会の会長をしております」
丁寧な自己紹介ではあるが、やはり権力者と言うべきか。その瞳には自身の利になるかどうかの物差しが既にセットされているのだろう。
「始めまして、自分はギルドのメンバーをしていますショウイチと言います。そしてこちらが……」
「オ、オイラ。カカ、カルルって、言いますです」
「自分とパーティーを組んでいるカルルです」
本番を迎えて緊張が頂点に達したのか、いつものカルルらしくなく出てくる言葉はぎこちない。当然、体は分かり易いほどカチコチだ。
何とかフォローをしようとするが、正直言って個別に質問などが飛んできたらフォローがどこまでできるか心配だ。
「ふむ。ショウイチさんとカルルさんですね。よろしく」
それから少し間を開け、シャガートさんは再び口を開いた。
「今回、私がギルドを通じて出した依頼についてお二人は何処までご存じで?」
「主な役割が護衛であろうと言うところまでは」
「そうですか。では、これから依頼の詳細についてお話させていただこうかとは思います。が、その前に、カルルさん。貴方に一つ質問をしてもよろしいですかな?」
このタイミングでのカルルへの個別質問に、動揺を隠せずにはいられなかった。
カルルは未だに緊張が頂点に達している。そんなカルルへの質問、質問の内容いかんによっては面接不合格も考えられる。
「カルルさん、貴方は剣の腕前はいかほどのものですかな?」
カルルの腰に備えている剣を見て質問を考えたのだろう。しかしまずい、カルルの剣の腕前については正直言ってお世辞にも良いとは言えない。
出会った時こそ天下一品と言っていたが、パーティーを組んでその腕前を直に見るようになってからは、その腕前は過大評価であったのだと痛感せずにはいられなかった。
「て、天下一品、でで、です」
「ほう、天下一品ですか。では、その天下一品の腕前で今までにいか程の害獣を駆除してきましたのかな?」
最悪だ、最悪の展開になりつつある。害獣駆除を避けてきたカルルにとってその質問はあまりに相性が悪い。
何とかフォローを入れたいが、今割り込めばそれこそ御破算だ。
「えっと、その……」
「聞こえませんな。もう少し大きな声で話していただけますかな?」
答えに困り俯きつつあるカルル。とは言えこの状況、もはやカルルの答えのみが唯一の打開策だ。
「さぁ、お答えを」
いや、もうこうなったら御破算になってもいい、無理やりにでも割り込むか。
等と考えていると、扉の方から何やら騒がしい声が聞こえてくる。そして、次の瞬間、勢いよく扉が開かれた。




