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ご指名

 カルルとのパーティー結成から早いもので数週間が経過していた。

 時折害獣の駆除のみならず手伝い等の依頼もこなしているが、割合としては害獣駆除の依頼を多くこなしている。

 カルルも結成当初と比べれば害獣と戦ってみようとする姿勢が時折見られる、しかしまだまだ自力で倒せるという状況には程遠い。

 だが、それでも大分進歩したと自分は思っている。


 こうしてパーティーとして順調に成長期を迎えていたある日の事。少し早めに依頼を片付けギルドへと戻り、カウンターで依頼完了の手続きを行っていた時にそれはやって来た。


「ショウイチ様、ですね?」


「はい、そうですけど……」


 手続きも終わり仕事終わりの楽しい時間でも凄そうかと思った矢先、突然先ほどまで業務を行っていたギルド職員の男性が声を掛けてきた。


「ショウイチ様、及びカルル様のパーティーに対して仕事のご依頼が来ております。因みに、ご依頼の主な役割は護衛となっております」


 名指しで、しかも自分達からではなく相手側からのご指名の依頼。これには驚かずにはいられなかった。

 そもそも名指しで依頼が舞い込んでくるなんて、ギルドの中でも実績や名声がある一部の者達やパーティーに対してだけだと思っていたからだ。

 護衛が主な仕事だからまだまだ駆け出しなどであっても関係が無いのか、はたまた知らず知らずの内に自分達の実力が認められ始めたのか。


 どちらにせよ、あまりに唐突の事で気持ちの整理と状況の把握に多少の時間を用いた。


「あの、えっと。どうして自分達に?」


「事業活動等において詳細は申し上げられませんが、今回の仕事の依頼主は少人数でのパーティーに限定して必要な人材を求めています。ですので、ショウイチ様達がお受けにならなくとも、他にも候補のパーティーに権利が移るだけです」


 人数が重要で実力や実績などは関係ないのだろうか、護衛ならもっと数があった方が良い気もするが。それとも、他に理由があるというのか。

 ギルド職員からの情報だけでは何だか怪しく思えて仕方がない。しかし、多分今逃せば先ほどギルド職員が言ったように、他の同業者パーティーに権利が移ってしまうだろう。


 今回は諦めるか、それとも多少のリスクを覚悟で受けるか。どうするべきか。

 なんて悩んでいると、それまで黙っていたカルルがマントを引っ張り、そして出会ったの時のようなつぶらな視線を送りながら。


「受けないのか?」


 と一言、言葉を漏らす。


 多分、今まで名指しで依頼が舞い込んできたことがないので初めての事にカルル自身相当に嬉しく、そして今回の依頼にやる気が満ち溢れているのだろう。

 それを言えば自分だってそうだ、自分だって初めての事で驚きと同時に嬉しさと言うか、やっと誰かから認めてもらえたとそんな喜びすら感じている。

 しかし、現状今回の依頼に対しての情報が不足している。そもそも、今回の依頼の報酬、条件を付けて受ける者を選別する程に値するものなのだろうか。


「因みに、この依頼の報酬って……」


「今回のご依頼の報酬額につきましては、こちらを」


 そう言ってギルド職員の男性が差し出した紙には、自分の揺れ動く心の針を一気に受ける方向へと傾かせるだけに十分な金額が書かれていた。

 更には、今までなかった前払いや護衛中の害獣駆除、その質や数に応じての追加報酬等。まさに見返りは十分と言えた。

 もうこれはあれだ、受けるっきゃない。実績に箔を付ける為、お財布をぱんぱんにする為、やるっきゃない。


「受けます! この依頼受けさせていただきます!」


 分かりやすいほど手のひらを返した勢いの変化に、ギルド職員の男性が若干引いているような気がするが、そこはあまり気にしないでおこう。


「で、では、こちらの場所に行って面接を受けてきてください。今回の仕事の依頼元は、事前の面接で合格したパーティーに対して正式な契約採用を行うとのことですので」


 再びギルド職員の男性が差し出した紙には、面接会場となる場所までの道筋を示した地図が描かれていた。

 成程、伊達に見返りが良いだけの事はある。どれだけ実力や実績があろうとも依頼主さんの御眼鏡に適わないと用無しか。

 だが、逆を言えば御眼鏡に適いさえすればあの報酬を受け取れるのだ。前世で鍛え実践した面接術、もう使わないと思っていたが今こそ駆使する時。


「依頼主側にはこちらからご連絡を入れておきますので、面接場にはなるべく早く向かわれますようにお願いします」


 地図を手にカルルと共に面接会場となる場所へと向かう。待っていろよ、大金。じゃなかった、依頼主様。



「なぁ、ショウイチ」


「ん?」


「面接って何だ?」


 面接会場へと向かうその途中、カルルが面接と言う行為そのものを知らなかったのだと思い知らされることとなる。

 どの様に説明するべきか、そもそも説明して理解してもらえるのか。例え理解してもらったとしても、面接というものは間違いなくの一発勝負。入念に準備していたとしても予期せぬ結果になる事だってままある。

 ならばいっその事、そのままのカルルでいてもらうか。いや、やはり。


「ショウイチ、ショウイチ! ここからどっちに向かうんだ」


「あ、あぁ。えっと……」


 カルルの面接対策についてあれこれ頭の中で考えを巡らさせていた内に、道に迷いそうになった。

 カルルの声と共に一旦面接対策の思考を停止させ、先ずは目的地に到着する事を優先とする。

 手にした地図を見ると、現在地は丁度道半ばの地点であった。


「目的の場所はこっちだな」


 目的地目指し足を進めていくと、周囲の景色が一段と別世界の様相を呈してきていた。

 王都内において王都の、もとい王国の主たる国王が居城する城。王都内でも最も厳重で人の出入りが制限されている場所。


 そんな場所と比べると、この辺りは比較的警備も緩く人の出入りの制限はない。しかし、国の最高権力者の居城には及ばずとも、周囲に見られる建物の数々は紛う方なき権力者たちの邸宅であった。

 その権力を示すかのように建てられたそれは、家と言うより館と言うに相応しい。更に出入り口には、お抱えの守衛であろう屈強そうな男達が通り過ぎる人々を見定めている。

 先ほどからすれ違う人々も貴族等の権力者であろう、豪華で優雅な装いの者達が多い。


 上流階級地区、勝ち組の園、或いは金持ちエリア等と称されている。自分達が歩いているのはまさにそんな所であった。


「こ、ここだな」


 そして、そんな地区の一角に自分達が目指すべき場所は在った。

 周囲の邸宅に負けず劣らずの広い敷地を有し、その権力を象徴するかのような豪邸が建てられている。

 当然ながら、出入り口たる門の前には守衛であろう屈強な男が二人、その職務を全うしていた。


 守衛の男二人は、その鋭い視線を自分達に注いでいる。また、その手は腰に掛けられた剣にも伸びようとしていた。

 二人の装いは鎧一式を着用すると言うよりも、膝当てや肘当て等の部分的に着用するといった着崩した着用をしている。

 一目で見れば兵隊崩れや賊とも見えなくもないが、こうして門を守るように立ちはだかっていると言う事は紛れもなく守衛であるのだろう。


「貴様ら、一体何の用だ?」


 威圧するような高圧的な言葉が飛んでくる。その言葉に、カルルが怯えた様子で自分の後ろへと隠れる。


「ギルドを通じてこちらよりご依頼を受けまして、事前の面接が必要とのことですので足を運んだのですが……」


「面接だ? おい聞いてるか」


「いや、そんな来客が来るなんて聞いてねぇな」


「事前にご連絡を入れていたと思うのですが。一度確認をお願いしていただけますか?」


 丁寧な言葉遣いと対応で守衛の男二人とやり取りを行うが、どうやら彼らは頑固として自分達を敷地内に入れたくないようだ。守衛として与えられた仕事を忠実にこなしているのは素晴らしいが、忠実すぎるのも玉に傷だな。


「聞いていないといったら聞いていないんだ! 帰れ、帰れっ!」


「そうだ、出直してこい」


 もう少し粘ろうかとも思った。しかし、ここで守衛とこれ以上のトラブルを起こせば面接に影響が出る可能性も出てくる。

 なので、ここは一旦引き下がり再度訪れる事にしよう。と、この場から立ち去ろうとしたその時であった。


「お待ちください」


 守衛の男二人とは明らかに異なる、上下黒のスーツに黒の蝶ネクタイ、野暮ったさを感じさせない品のある雰囲気。

 五十代であろうか、綺麗に手入れされている髭を蓄えたその人物は、確かに自分達に向かって声を掛けていた。


 いつの間にそこにいたのか。門から新たに出てきたその人物は、一礼すると軽く自己紹介を始めた。


「始めまして、(わたくし)この館の主たるシャガート様の執事をしております、セワスティアンと申します」


 自己紹介を終えると、間を置かずに本題を話し始める。


「ギルド様の方よりご連絡は受けております。さ、ご案内いたしますのでどうぞこちらへ」


「セワスティアン様、しかしこいつら……」


 自分達の案内を始めようとするセワスティアンさんを説得しようとしてか、守衛の男二人が彼に詰め寄る。

 しかし、セワスティアンさんは一瞬険しい表情を浮かべたかと思うと、口調は変わらず彼らに言葉を投げかける。


「貴方方の先ほどまでの対応に関しては、後で私の方からご主人様にお伝えしておきます。何らかの処分等が言い渡されれば、後でお伝えに上がりますのでそのつもりで」


「そ、そんな」


 処分勧告を匂わせるような発言に守衛の男二人が呆然としている間に、自分達はセワスティアンさんの案内のもと門を抜け館の中へと足を踏み入れた。

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