出会いと別れ その2
こっち(エルガルド)に来てからというもの、あまり人の輪を広げていない自分としてはなかなかに難しい問題だ。
しかも、パーティーを組むとなると同業者、即ちギルドのメンバーがいいのだが、同業者には全くと言っていいほど人の輪が無い。
勿論、今から同業者の人の輪を広げていくのは必要だが。社交性が少し弱い自分としては、一体何処まで広げられるか。
「いや、やるしかないか」
だが、目当てが無いのだから当たって砕けるしかない。とりあえず、ギルドに行ってパーティーを組んでくれそうな人の目星を付けにいかねば。
そして上半身を起こした時の事だった。ふとパーティーを組んでくれそうな人物の目当てがあったことを思い出す。
木箱に収納していた装備の中から小物入れ用のポーチを取り出す、そして、そこからしわの付いた紙の切れ端のようなものを取り出す。
それは、モーリー村で出会った同業者であるソフィアさんの、王都での住所であった。
「大丈夫、かな」
あの日から約二ヶ月もの月日が経過している。ソフィアさん自身の考えが変わっている可能性だってあるし、そもそも活動拠点を王都から他に移した可能性だってある。
しかし、変わっていない可能性だってある。ならば、変わっていない可能性にかけてみるか。
「よし」
ベッドから離れ装備を整え仕度を終えると、戸締りをして部屋を後に書かれている住所目指して足を進め始めた。
ボルスの酒場のように酒場と宿屋を兼用している所は、王都であってもそれほど多くは無い。しかし、宿屋だけとなると、流石人の出入りが激しい王都だけの事はある。その数はモーリー村等の地方の比ではない。
それを示すかのように、王都内には『宿屋通り』なる文字通り宿屋の密集地区が存在している。
そして、目指すソフィアさんの泊まっている宿屋は、そんな宿屋通りの一角に在った。
「安いよ、安いよ! お客さん、ウチは通りでも最安値だよ」
「長期滞在なら断然ウチ! 泊まってってよ、サービスするよ!」
通りに足を踏み入れると、宿屋の店先で客引きであろう人々の声が様々な方向から聞こえてくる。
一泊の値段が安い、サービスが充実している、充実の内装等々。様々なセールスポイントが飛び交い、そして釣られた人々が宿屋の中へと消えていく。
そんな、まさに宿屋激戦区である通りを進む事幾分か。ようやく、目的の宿屋の目の前に到着する。
他の宿屋とは異なり、この宿屋は客引きは行っていないようだ。他の宿屋の店先に比べ、幾分静かだ。
「あ!」
そんな宿屋にいざ足を踏み入れようとした時だった。宿屋から、宿泊客であろう人物が出てきたのだ。
服装こそ出会った時とは異なり、白銀の鎧ではなくまさにプライベートと言わんばかりに丈長のチュニックのようなものを着込んでいる。だがその顔は、出会った時と同じであった。
それは誰であろう、今まさに会いたいと思っていた人物、ソフィアさんその人であった。
出てきた時こそ自分の存在に気付いていなかった様子だったが、自分が挙げた声に気付いたのか、それまで別の方向を向いていた視線が一気に自分へと向けられる。
気づいてくれた、なら。と、一歩踏み出そうとした矢先、ソフィアさんの後ろからまた別の誰かがその姿を現す。
「おいソフィア、何立ち止まってんだ?」
腰に剣をさし布地の服装を着こなしたその男性は、親密な関係を思わせる口調でソフィアさんに声を掛ける。
髪を遊ばせ仕事よりも遊びを優先していそうな雰囲気持つ、一見して硬派とも誠実とも縁が遠そうな男性。
一体この男性は何者なのだろうかと勘ぐっていると、男性も自分の事に気が付いたのか、鋭い視線を自分に向けてくる。
「あ? 誰だてめぇ、ソフィアの知り合いか?」
「あ、えぇ、まぁ。そんな所です」
その鋭い視線に一瞬臆しそうになるが、一応間違いではないので彼の質問に答える。
「ふ~ん、で。その知り合いのアンタが一体何の用なんだよ?」
「少し前にその、パーティーでも組まないですかって誘われたもので……」
今日ここに来た理由を説明していると、可笑しなことを言った覚えはないのに男性が突如として笑い始めた。
「っはは! ってことは何か、アンタもソフィアに紙切れ貰ったクチか」
「え? それってどう言う事ですか」
困惑する自分を余所に、男性はソフィアさんの横に並ぶと肩から手を回し、そのまま肩を通り越して胸の辺りまで手を伸ばすと。何とその手でソフィアさんの胸を鷲掴んだ。
突然の事に驚きつつも色っぽい声が零れるソフィアさんに対して、男性はソフィアさんの反応を楽しみながらも説明を続ける。
「こいつ、ソフィアの奴はな、こんな清楚な顔してるが実はとんだ尻軽女なんだよ。その証拠に、貰った紙切れにこいつの住所が書いてあっただろ?」
「え、えぇ」
「気に入った男を見つけては甘い言葉で引き止め渡して、それでほいほい来た奴を部屋で早速品定めするんだ。勿論、それで合格してもそっちの腕前だけじゃなく同業者としての腕前も試されるがな」
予想もしていなかったソフィアさんの情報に、動揺を隠しきれないでいた。人は外見だけじゃ分からないとはよく言うが、まさかここまでイメージとかけ離れていたとは。
いや、まだそうと決まった訳ではない。男性が嘘をついている可能性だってある。
だが、当の本人であるソフィアさんは男性の言葉に対して特に反論する様子はない。無言の肯定。まさか、男性の言葉に偽りがないと言う事なのか。
「解ったか。パーティーを組みたいだなんてただの口実でしかねぇんだよソフィアの奴にはな。……ま、今はこうして俺とパーティーを組んでるがな。俺の実力からすれば当然、だよなぁ、ソフィア」
「そ、そうね」
「という訳で、パーティーを組みたいなら他を当たるんだな。アンタだって、こんな尻軽女と組むよりもっとマシな奴と組みたいだろ」
そして、未だ困惑している自分を余所に、二人は何処かへと向かい姿を消した。
一人残された自分は、未だ頭の整理が追い付かず、しばらくその場に立ち尽くしていた。




