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重さ その4

「てめぇ! よくも俺の可愛い部下達を!」


 と、四人を殺され憤怒するリーダーが、今度はフォークではなくその手に斧を持って自分に襲い掛かってくる。


「しねやぁぁっ!」


 斧を振りかぶりながら襲い掛かるリーダーの男性、だが、大振りなその動作。自分が大剣を振るうと、手にしていた斧は見事に弾き飛ばされた。

 弾き飛ばされた斧が立てる音が、空間に響き渡る。


「……、降参!! こうさぁぁぁぁんっ!!」


 刹那、引導を渡そうとしたリーダーの男性は、先ほどまでの態度を何処へやら。命乞いをし始めた。


「降参する、だから命だけは! 命だけは助けてくれ!!」


 所謂土下座をして生にしがみ付くリーダーの男性の姿に、自分は大剣を振りかざすのを止める。

 と、自分のわきを抜けて誰かがリーダーの男性に駆け寄る。


「おらおら! だったらあんた達の集めたお宝よこしなさい! と言うか、クリスタルの栗の首飾り持ってるの!? ねぇ、持ってるの!!」


「あ、はい、はい、持ってます!! 持ってます、差し上げますからだから命だけは!!」


 それはフィルであった。

 もはやどちらが賊なのか分からなくなるほどリーダーの男性の胸倉掴んで物騒な台詞を吐いているけど、気にしないでおこう。


「ほら、命は取らないからさっさと案内しなさい!」


「はい、はい、ありがとうございます」


 リーダーの男性についてはフィルに任せてもう大丈夫だろう。なので、自分は大剣に付いた血をふき取るべく、小物入れ用のポーチから布切れを取り出しふき取ろうとする。


「あ、あれ……」


 とそこで、布切れを持つ自分の手が、震えている事に気が付く。

 何故震えているのか、そう思ったのもつかの間、今度は寒い訳でもないのに寒気を感じる。


 一体どうしたと言うのか、理解に苦しんでいると、やがて一つの答えを導き出す。あぁ、これが人を殺めると言う事か。


 ぼんやりとした表情で周囲を見渡す。自分が築き上げた骸が四つ、冷たい床に横わたっている。

 殺そうとしてきたから殺した、殺られる前に殺っただけ。相手は賊だ、悪だ、これでよかった、のだ。


 何だか答えを導き出したが思考回路が止まろうとしない、自問自答が続いている。


「ちょっとショウイチ、何しているの! 手伝ってよ!」


 とそこに、ぼんやりとしていた自分の姿に気づいたのかフィルの声が飛ぶ。


「あ、うん」


 フィルに呼ばれ、自問自答を止めると。とりあえず手早く大剣に付いた血をふき取り、大剣を鞘に納め終えると、フィルのもとへと駆け寄る。

 その後は、いつの間にか逃げ出さないようにロープでぐるぐる巻きにされたリーダーの男性の案内の元、彼らの集めたお宝の数々やお目当てのクリスタルの栗の首飾を回収し。

 そして、驚いた事に祭壇の裏に隠してあった、外へと通じる秘密の抜け道を使いワナワナ遺跡から脱出する事になった。



 ワナワナ遺跡から脱出した先は、山の一合目とも呼べる岩場であった。

 そして、遺跡に足を踏み入れた頃にはまだ太陽が昇り始めていた頃であったのに、脱出した頃には、既に辺り一面漆黒の闇に覆われていた。空には星星が輝き、お月様がその姿を現している。


「ほら、きびきび歩いて!」


「お、お嬢さん、一応俺、こんなに荷物を背負って……」


「四の五の言わずにとっとと歩く!!」


「へい!!」


 ロープでぐるぐる巻きにされた上に、回収したお宝が詰まった袋を背負わされているリーダーの男性。そんな彼を先頭に、自分達は先ず村へと急いだ。

 この辺りに上級の害獣の目撃情報はないとは言え、今は夜。昼間と異なり容易に奇襲を受ける可能性は高くなる。


 こうして、月明かりと松明の灯りを頼りに足早に村を目指した自分達。無事に村へと到着する頃には、既に新たな一日が幕を開け始めていた。



「かんぱーい!」


 村に到着し、村に存在するギルドの出張所と言う珍しい拠点で手続きと捕まえたドリトル山賊団のリーダーの男性を引き渡しを行い。

 報酬と予期せず手に入れたお宝と言う、懐がほかほかになる成果にフィルは大変ご満足したようで。

 朝方だと言うのに、依頼の達成祝いに酒場に足を運ぶと、いつも以上の食事会を開催し始めた。


 いや、自分達は夜通し起きていたので、朝方でも関係ないか。厨房の方々は大変だと思うが。


「いや~、棚からぼたもちって言うの? 兎に角、もう笑いが止まらないわ!」


 テーブルに置かれた色とりどりの料理の数々。そんな中から豪快に肉の塊にフォークを突き刺し、それを口へと運ぶ。そんな豪快な食事を続けるフィル。

 それに対して、自分は、疲れからかそれとも。兎に角あまり食欲がわかないので比較的消化の良さそうなものを食べていく。


「ん~、どうしたのショウイチ? あんまり食べてないじゃない?」


「え、そんな事ないよ」


「ほらほら、この肉! 美味しいわよ!!」


 フィルから進められた肉料理、確かに美味しそうな見た目と匂いをしてはいるが。何故だろう、今の自分には、それがとても美味しそうには感じられない。

 それどころか、見続けていると吐き気を催しそうになってくる。


「……う。ご、ごめん。ちょっと疲れたみたいだ。先に宿に行ってていいかな?」


「え、あ、うん」


「ごめんね、フィル」


 一応自分が頼んだ分のお勘定の代金を置いていくと、まるで逃げるかのように酒場を後に宿屋へと向かった。

 宿屋の部屋へと駆け込むと、一刻も早くベッドに倒れたいとの焦りからか、乱雑に装備を外し投げ捨てるように置くと、すかさずベッドに倒れこむ。


 それから、フィルが起こしに来るまで、自分は死んだように寝続けていた。

読んでいただき、ありがとうございます。

よろしければ、ご意見やご感想等お待ちいたしております。

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