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重さ

 フィルと言う新しい仲間を得て、初めてパーティーと言うものを結成し。そして、初めてパーティーによる初の仕事を無事に終えた日から、早いもので一ヶ月ほどの月日が流れた。

 あれからも当然ながらパーティーによる仕事を複数行い、古い古城の様な遺跡に崖の上の遺跡に、深い森の奥など。イシュダン王国国内を北へ南へ東へ西へ、駆け巡った。

 最初の頃こそ互いに小さな意思疎通のすれ違い等があったが、今ではそれも徐々に解消してきている。


 お互いに良き相棒として、パーティーとしての成長も右肩上がりを順調に更新中、と言ったところか。


 そして現在も、そんな更新記録を伸ばすべく、王都から南東部に辻馬車を乗り数日の位置にある村。そこから更に徒歩で一日ほどの距離にある遺跡に足を運んでいた。

 と言っても、まだ遺跡内には足を踏み入れていない。カユーイ遺跡の時同様、フィルが事前に集めた情報の数々を共有しているのだ。


「この遺跡は『ワナワナ遺跡』って呼ばれている遺跡で。この遺跡の最深部に、今回アタシ達が受けた依頼の目的の物、『クリスタルの栗の首飾り』がある筈よ」


 山の麓に存在する森、その中にひっそりと存在する遺跡。風化によりひび割れ砕け、人の手が長い間入っていない目の前の建造物。それが、ワナワナ遺跡であった。

 既に名前からして不法な侵入者を拒む仕掛けが満載な気がするが。こちらにはフィルと言う頼もしい相棒もいる、トラップの類は任せても安心だろう。


「そうそう、名前からしてもう分かってると思うけど、この遺跡トラップが多いから。もし間違ってトラップが作動しちゃったら、その時はショウイチ、身代わりよろしく」


 前言撤回、凄く不安しかないです。

 冗談なのか本気なのか、おそらく本気ではないだろうが、フィルなら本当に自分を身代わりにしかねないような気がしなくもない。

 いや、あまり悪いほうに考えるのはよそう。多分彼女なりに緊張をほぐす為のものだったのだろう。


「害獣の類は主に下級のスライム種、アンデッド系や他の害獣が住みついてるって情報は、仕入れた限りないわ」


「了解」


「さてと、それじゃ行きますか!」


「おう!」


 遺跡内部と外部を遮断する扉と言う存在がないが、それでも出入り口と呼べる空間を潜りワナワナ遺跡の内部へと足を踏み入れる。

 内部に広がる光景は、まだ出入り口付近だからか、石造りの柱や壁には自生したと思しき木の根が張り、苔や雑草などの姿が見られる。

 それに、まだ所々に空いた隙間から外の光が注いでいるからか、松明を使わなくても視界は確保出来ている。


 まさに神秘的とも思える光景であるが、流石にカユーイ遺跡を始め既に幾つかの遺跡内部を目にしている為、見とれるということはない。


 こうして最初の空間に足を踏み入れた自分達ではあるが、目指すものがあるのは最深部。まだまだ奥に進まなければならない。

 自分が先頭を務め、その後ろをフィルが付いてくるという図式が自然に出来上がる中、害獣の気配に神経を尖らせながら奥へと足を進めていく。

 まだ入ってさほど進んでいないからか、トラップの類があるようには感じられないし、害獣の姿も見えない。


 だが、奥に進んでいくにつれ、植物の姿もまばらになり、光よりも闇が空間を覆い始め。まさに何かが潜んでいるかのような雰囲気を醸し出している。


 程なく進んで視界の確保が難しくなってきた所で、暗闇を進む頼もしいアイテム、松明を用意する。

 火を灯した松明を手に、再び奥を目指して足を進める。



 遺跡に足を踏み入れてからどれ程奥を目指して歩き続けたか、天井に木の根が張っている以外は植物らしきものが見えなくなったので、少なくとも外の光が届かぬほどには奥へと進んでいる。

 松明を片手に、もう一方の手は投げナイフを投げられるように体勢を整えながら、石造りの壁や天井が広がる空間を歩き続ける。

 既に二度ほど害獣と遭遇したが、こんな視界の悪い場所だからか。相手の下級スライム種は自分達に襲い掛かる事無く、何故か踵を返して闇の中へと消えていった。


 松明の火が怖かったのか、それとも他の要因か。何れにせよ、戦いを避けられたことは幸運だった。


 と言っても、戦いがない中でも自分の体力は徐々に徐々に削られていっている。それは、歩き続けているからだ。

 最深部までカユーイ遺跡のような一本道であれば楽なのだろうが、生憎とワナワナ遺跡は一本道ではなく枝分かれした道が入り組んでいた。

 後ろを歩くフィルのナビゲートで道を進んでいくが、当然ながら遺跡内部の精確な情報など有していない為、行き止まりに突き当たる事既に数回。

 こうして正解の道を体力と気力を徐々にすり減らしながら絞り出しているのだ。


「お、今度は正解っぱいね!」


 そして何とか、最深部へと続いているであろう正解と思しき道を絞り出し歩き始めたのだが。この道、既に嫌な予感しかしない。

 と言うのも、急に枝分かれなどない真っ直ぐ伸びた通路が現れたのだ。当然暗くて奥まで見えないが、もうトラップが仕掛けてありますと言わんばかりの雰囲気ではないか。


「あの、フィル。ここ、大丈夫なの?」


「ん? あぁ、これはショウイチでも怪しいと気付くか」


「って事は……」


「多分トラップが仕掛けられてると思う。あ、松明貸して」


 松明を受け取ったフィルは、自分の前へと躍り出ると。まずは足元に落ちていた小石をおもむろに掴み取る。

 そして、振りかぶると、手にした小石を通路の奥目掛けて投げた。小石が石造りの床にぶつかる音が、奥から聞えてくる。が、それ以上は特に何も起こらない。


「ふむ、音に反応するタイプじゃないのか。となると重量タイプか……」


 何も起こらない事を確認したフィルは、続いて壁や床などを触りながら、姿勢を低くゆっくりと通路の奥へと進んでいく。

 その後に続くように自分も進むが、特に姿勢を低くはしない。


「こういうのはね、もしかしたら杞憂だったかなって思っちゃう位の距離に仕掛けられてるものなのよ」


 壁や床の一部に偽装していると思われるトラップの作動スイッチを手の感覚を頼りに探りながら進んでいるため、フィルの進む速度は非常にゆっくりとしたものだ。


「ふと気を抜いた瞬間にグサリってね。あ、あったあった!」


 が、そんな速度が完全に止まったかと思うと、どうやらトラップの作動スイッチを発見したようだ。

 床のど真ん中、周囲のタイルに紛れたそのタイルは、手で押すと僅かにだが反発しそれが作動スイッチであると分かる。


「ふふ、どうよ。このフィル様にかかればざっとこんなもの……」


 こうして作動スイッチを避けて先を進もうとした矢先。


「よ?」


 フィルの足が、不意に止まった。

 今度は一体何事かと思った刹那、不意に自分の顔の前を何かがかすめた。


 一体何かと、かすめた何かが飛来した方へと視線を動かしてみると、松明の火によって薄暗の中、自分の横の壁にそれは突き刺さっていた。

 木製の細長い棒、その端には鳥の羽根が取り付けられている。そして、突き刺さって見えなくなっているもう一方の端の部分には、間違いなく鋭利な矢尻がある筈だ。

 それは紛れもなく、矢であった。


「うわ!!」


 自分の顔目掛けて矢が飛んできていたと脳が理解すると、ぞっとして、驚きの声と共に一歩後ずさる。

 と、後ずさった足が踏んだタイルが、不意に沈み込んだ。


「……あ」


 何故沈み込んだのか、その答えは簡単だった。それは紛れもなく、先ほど自分達が避けた筈のトラップの作動スイッチだった。


「ちょ、うきゃぁぁぁっ!!」


 刹那、フィルの悲鳴にも似た声が響いた。

 そらしていた視線をフィルの方へと向け直すと、そこには矢、ではなく槍が、フィルを取り囲むように突き刺さっていた。


「ちょっと! 何してるのよショウイチ!!」


「え! 俺のせい!!」


「どう見てもショウイチがスイッチ踏んだからでしょ!!」


「いやいや! 最初にスイッチ作動させたのはフィルだろ!」


 売り言葉に買い言葉。こちらは矢だの槍だの、一本だの十本だの。そちらに非があると言いつけあう。

 やがて、結局どちらにも非があり責任の押し付け合いは不毛だと結論付け、言葉の応酬は幕を閉じた。


「いや~、まさか見事にトラップに引っかかるとは思わなかったわ」


 その後、通路に設けられていた残りのトラップは何とか回避し、自分達は無事に真っ直ぐ伸びた通路を突破する事に成功する。


「はぁ、疲れた……」


「ちょっとショウイチ、こんなのまだまだ序の口なんだから、今から疲れてたら最深部まで持たないわよ」


 フィルは姿勢を低くしていたから分からないだろうが、顔に矢がかすめると言う恐怖がいかほど精神的にダメージを与えるか。いや待てよ、槍で囲まれる方がもっと怖いか。

 比較するのはよそう、思い出しただけで更に疲れるだけだ。


 こうして気分を切り替えると、再び松明を手にした自分を先頭に、最深部を目指し歩き始める。

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