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手続きは大事です その2

「主に天国や地獄、或いは現世と同じかはたまた別の世界等への転生、それらに関しての各種証明書の発行等を行っています。他にも……」


 彼女の口から出てくる言葉の数々は、まるで冗談でも言っているかのようなものであった。しかし、彼女の表情や口調は、まさに冗談抜きの大真面目だ。

 その後も出てくる冗談のような言葉の数々。

 質問を投げかけたのは自分自身とは言え、その返ってくる答えを聞いていると頭が痛くなってきそうだった。


 ただ、そんな中でも確実に分かった事がある。

 それは、役所と言う名ではあるが、ここは自分の知っている役所とは全くの別物である。という事だ。


「……以上が、この役所という場所の簡単な説明になります。お分かりいただけましたか?」


「……はい」


 簡単な説明と本人は言ってはいるが、聞いていたこちら側としてはとても簡単に説明された感じはしなかった。

 むしろ、ある程度は簡潔ではあったが、全体で見れば細かく説明されたように感じた。

 まさに役人、やはりいつの時代も、と言っていいのかは分からないがお役所様は小難しくていらっしゃる。


「では、他には質問などはございませんか?」


 しかしながら、未だに一部が整理できていないとはいえこの役所なる場所の役割を、大まかながら把握する事は出来た。

 つまりここは現世でその生涯を終えた者、簡単に言えば死んでしまった者を天国或いは地獄のどちらかに行かせるかを判断し、必要な証明書の発行などを行っている。

 しかも、それだけではなく所謂異世界へ転生レッツゴー的なものも業務として行っているのだ。


 などと役所の大まかな把握をしたのだが、それと同時にとても大事な事を把握する事となる。

 それは、自分自身がここ(役所)にいるという事だ。

 先ほども言ったが、ここは現世で生涯を終えた者、そんな者達がやって来る場所だ。そして、そんな場所に自分自身はやって来ている。


 つまりそれは、自分自身は既に現世で死んでしまった者という事を意味しているわけだ。もっと簡単に言えば、既に現世とおさらばしてきた、とも言える。


 一体何時、何処で、とおさらばした時の事を思い返してみると、魔物と魔法少女の戦いに見入っていた時の事だと直ぐに思い出す。

 今思えば、あの時の衝撃は凄すぎたのか痛みというものを感じていなかった気がするが、やはりあの時のあれだろう。

 他人の声に素直に耳を傾けて逃げておけばよかった。などと今更ながら思い出して後悔するも、当然ながら時すでに遅しだ。


 しかし妙なものだ。

 自分は既に死んでいると言う事実を把握してしまったと言うのに、自分自身は何故か落ち着いている。もはや後戻りできないとの事実が、何処か達観させるのか。

 或いは、未練を零しても仕方がないと諦めている気持ちがあるのか。


 死んでしまった筈なのに死ぬ以前と何ら変わりない自らの装いに五感等の感覚、死後の世界にいる筈なのに溢れ出る神々しい雰囲気が微塵もない等など。

 これが死後に見る世界であると思えない状況も作用しているのかも知れない。


「あ、転生出来るかどうかの確認って何処の窓口ですか?」


 極楽浄土、桃源郷。苦のない幸せな天国という世界も、少しばかり惹かれてしまう。

 だが、おそらく選べる道は一つだけ。

 ならば、最初で最後のこの機会を逃す事無く、自分は再び別の世界で生を受けて生活する道を選ぼう。


 天国でもあり地獄でもあるかもしれない。

 だけど、この道を選べば、仕事の合間や休日のちょっと時間で目にした空想の物語の出来事を実体験できる。

 決して叶うことはないと分かっていながらも、一度は心の片隅に夢を馳せた別の世界での、異世界での第二の人生。


 どうせ後戻りできないのなら、前へ、夢馳せたその道を進むだけだ。


「はい、それでしたらあちらの確認窓口でご確認いただけます」


「そうですか、ありがとうございます!」


 同じ一階フロア内にある一角を示され、お世話になった彼女にお礼を述べると、その窓口に向かっていく。

 夢馳せた新たな人生を手に入れるために。




 気持ちを切り替えそんな意気込みのもと向かったのは、確認窓口と書かれた看板が掛っている窓口。

 複数ある窓口はどれも他の人の姿はなく空いており、受付整理券を取ると案の定すぐに窓口の一つからどうぞの声。

 そして、そんな窓口にいたのは物腰が柔らかそうな男性職員の姿だった。


「ご確認ですか?」


「はい」


「では、茶封筒を提出していただけますか。ご確認を開始いたしますので」


 男性職員の言葉に従い、あの中年男性から受け取った謎の茶封筒を手渡す。

 茶封筒を受け取ると、男性職員は手慣れた手つきで茶封筒を開封し中から書類の束を取り出すや、慣れた動作で確認に必要と思われる書類に目を通していく。


 男性職員が書類に目を通している間、椅子に座ってただ確認が終わるのをひたすら待つ。

 暇つぶしの為の道具など当然ながら持っている筈もなく。苦し紛れにと視線をあちらに動かしたりこちらに動かしたりして、周囲の景色を眺めてみる。


 ただ、好奇心旺盛な子供なら同じ風景でも何時間でも見続けていられるだろうが、もう二十歳も過ぎた自分にとってはその景色を何時間も見続けられはしなかった。

 当然ものの数分で飽き飽きし始める。

 しかし、待ち時間に飽き飽きな自分を余所にまだまだ確認作業が終わる気配はなく。その後も作業が終わるまでの十数分間を、知恵を絞りに絞って何とか過ごしたのである。


「お待たせしました。……谷村 翔一様で、よろしかったでしょうか?」


「はい!」


「谷村様のご移転に関するご確認が終了いたしましたので、その結果をご説明致したいと思います」


 男性職員は、先ほど確認し終えた書類の束の中から一枚の書類を取り出し窓口のカウンターに置くと、それを見せながら説明をし始めた。


「先ずですね、谷村様の生前における総合的な評価がこちらのグラフになります。そして、その内訳を表した細かい内容がこちらの欄になります」


「は、はぁ……」


「また、グラフを数値化した表がこちらになりますが。それでは、こちらの数値からの説明を始めさせていただきますが。先ずですね……」


 一体いつの間に評価などされていたのか、そんな疑問を頭に浮かべながらも、男性職員の言葉に耳を傾ける。

 ただ、男性職員がこのような評価やこのような経緯でと丁寧に説明してくれるのはありがたいが、正直に言って反応に困る。


 そもそも子供の頃の悪戯による減点や学生時代の加点と言われても、そうですかとしか言い返す言葉がない。


「という訳でですね。谷村様は天国、地獄、並びに生前以外の別の世界。簡単に申しますと異世界へのご移転手続きが可能という事になります」


 確認の為の待ち時間よりも長く感じた男性職員の説明が終わり、一息ついたのも束の間。追加の説明が男性職員の口から放たれる。


「それでですね、ご移転の手続きに関しましてはそれぞれ専用の窓口がございますのでご説明いたしますのと。天国への移転手続きに関しましては、あちらの階段で二階に上がっていただきましてそちらに窓口がございますので、そちらでお手続きの方をしてください」


 そう言って男性職員は、一階フロア内の一角にある階段を指し示す。

 そしてその後も、地獄への移転手続きの窓口は地下一階です、異世界への移転手続きの窓口は一階通路奥進んで別館です。とこれまた丁寧に説明を続けた。

 そして、お手続きの際は再びこの茶封筒を窓口に提出してくださいね言いながら、何枚かの書類に判を押して書類の束を茶封筒に入れ戻すと、茶封筒を差し出した。


「ご丁寧に、ありがとうございました」


 一言礼を言いながら差し出された茶封筒を受け取ると、迷う事無く一目散に一階フロアの一角、階段ではない通路を進んでいく。そう、目指すは異世界窓口。

 歩く事数分、やって来た別館と呼ばれるフロア内には、先ほどの本館一階フロアと同様の光景が広がっていた。


 ただ、多数の窓口の上に設けられた看板には、異世界移転の文字が見紛うことなく描かれている。

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