遺跡 その2
見た目とは裏腹に軽い石造りの扉を開けたその先は、松明を用意した理由が分かる程に黒に満ち溢れていた。
完全に真っ暗闇という訳ではないが、かなり目を細め集中しなければ離れた場所が見えないほどの見通しの悪さだ。隙間等から光が差し込んでいたここまでの道のりとは明らかに異なっている。ただ幸いに、足場は悪くはなかった。
そんな暗い道のりに足を踏み入れると、松明を片手にもう片方の手は何時でも投げナイフを投げられるように態勢を整えている。何処から害獣が近づいて来ても対処できるようにだ。
上下左右の幅など、空間の大きさの問題は無いので大剣を構えながらでもいいが、片手に松明を持っているという状況から、片手でも素早く使える投げナイフを選択している。
例え投げナイフで対処できない害獣と遭遇しても、牽制で大剣に持ち帰るまでの時間稼ぎも出来る。
「ところでフィル、この先どれ位進むんだ?」
「ん~。多分、もう少し歩くと広い場所に出ると思うんだけど」
あの石造りの扉を潜り歩くこと幾分か。途中幾つかの角を曲がりこそしたものの、基本的には一本道であるルートを進んでいる。
更に言えば、途中害獣とも遭遇せずに進んでいる。その為、害獣の遭遇に備え気を張り続けている自分としてはこの状況が後どれ程続くのかが気が気ではなかった。
「お?」
「あ、ここ、ここ。この先がさっき話した場所につながる扉の筈だよ」
程なくして、自分達の目の前に再び石造りの扉が松明の灯りに照らされその姿を現した。
先ほどと同じ外観の、遺跡の各所にみられた謎の紋章と同じ紋章が彫られたそれは、立ちはだかるようにその姿を見せている。
「開けるぞ」
「うん」
松明を持ちながらでも、片手でも開けられるほどのその扉をゆっくりと開ける。
刹那、それまで暗闇に慣れていた瞳が驚くほどの、人工的ではない自然な光が漏れ広がってくる。
「眩しっ!」
あまりの状況の変化に声が漏れ、一瞬目を開けているのも苦痛になりそうになるも。何とか目を細めつつ扉を開けていく。
そして、完全に扉を開けた所で徐々に目が慣れてきたので状況を確かめようとすると。そこには、先ほどまでとはまた異なる光景が広がっていた。
今までの場所と比べ一回りほどの大きさを見せるこの場所は、見渡せば相変わらずここがカユーイ遺跡の一部である事は間違いなのだが。何故だかここは、何とも神秘的に思える。
と言うのも、天井を見れば劣化か或いはその他の原因か、見事なまでに崩れ、大穴が空いている。
その天井の大穴からは太陽の光が降り注ぎ、更には植物の根が垂れており。見渡すと、壁や床などには植物が自生している。
時が止まった空間の中に今を生きる植物たちが共存している。この光景は、まさに神秘と言わずしてなんと言えようか。
「ちょっとショウイチ、なに見とれてんの! ほら、ちゃんと自分の役割果たしてよ!」
なんて浸っていると、後ろから物凄い剣幕のフィルの声が飛び込み、慌てて我に返る。
すると、どうやらここに生きていたのは植物だけではなさそうで。縄張りに自分達が侵入したのを察してか、何処から現れたのかスライム種が複数、その姿を現している。
多分、全部下級のスライム種だろう。その外観には見覚えがあった。
「了解。それじゃ、ちゃんと役割を果たしてきますよ」
フィルに松明を手渡すと、背中の鞘に手を回し大剣を抜き構える。
初めての場所での戦いにはなるが、相手は何度か戦ったこともあるので不安材料は少ない。いつも通り戦えば勝てる。
「……よし」
深い深呼吸を一つ、そして息を整えると下級スライム種の群れ目掛けて足を踏み出した。
「流石は黒騎士の噂に違わぬ……、ってところかしら」
「それ、茶化している風に聞こえるんですけど」
「そんなに考えすぎないでよ。アタシとしてはさっきの戦闘は十分に合格点と思ってるんだから」
先ほどまで縄張りの危機としてその姿を現していたスライム種の姿は、今はもう見られない。
いや、厳密に言えば生きているスライム種の姿は見られない。周囲を見渡すと、先ほど姿を現した数と同じ数の死骸と幾つかのスライムの核がその姿を晒している。
「あ、そうだ。スライムの核は全部ショウイチの取り分ってことであげるわ」
「え、いいのか?」
大剣を鞘に納めながら、フィルの発言に若干の驚きを隠せずにいた。
スライムの核は確かに単価としては低い、しかし価値あるものとして市場で取引されていることも事実だ。ちりも積もれば山となる、数を集めればそれなりの金額になる。
それを見向きもしないなんて。報酬以外は見向きもしないのか、それとも単に意識する価値もないものと思っているのか。
はたまた、単に自分が貧乏くさいだけか。
「それじゃ、遠慮なく頂いておくよ」
フィルの考えている事は分からないが、貰えるものがあるならば遠慮なく貰っておこう。スライムの核を全て拾い集めると、小物入れ用のポーチに入れる。
一段落してふとフィルの方を見ると、自分達が入って来た扉とは対角線上にある別の扉の前へと移動していた。
扉を入念に調べるかのようにしゃがみ込んでいるフィル、一体何を調べているのだろうと近づいていく。すると、彼女が調べている扉が先ほどとは異なるものであると言う事が分かった。
石造りであるのは変わりないが扉の表面にはそれまでの扉とは異なる、紋章ではなく何か記号のようなものが彫られている。
フィルの視線が手元の資料とその記号のようなものとを往復しているところを見ると、どうやらこの扉は簡単に開けられる物ではなさそうだ。




