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遺跡

 翌朝、と言っても窓の外を見ると未だに日が昇っておらず薄明りの景色が見られる。

 そんな時間帯にも拘らず、自分はと言えば前日とは異なって夢の世界から現実世界へと、即ちベッドから脱出していた。

 既に鎧も大剣も装備し、出かける準備は整っている。後はフィルから出発の合図が出ればいつでも行ける。


「ショウイチ、起きてるの?」


 なんて意気込んでいた矢先、ノックの音と共にお目当ての人物の声がドア越しに聞こえてくる。

 前日の名誉挽回と言わんばかりに、やれば出来るのだぞとドアを開けフィルの表情を窺う。しかし、彼女は特に反応を示す事もなく。


「じゃ、行こうか」


 と言うと、淡々と足早に通路を歩いていく。

 内心期待していた反応も特になく、だからと言って自分から反応を求めるもの出来ず。気持ちを切り替えると、彼女の後を追うように足を進めた。


「さてショウイチ。いよいよ今日からアタシ達の初仕事が本格的に始まる訳だけど、気持ちの準備は大丈夫?」


「あぁ、大丈夫だ」


「よし、なら現場目指してレッツゴー!」


 宿屋を出て意気込みを新たに、今回の依頼をこなす現場に向けて足を踏み出し始めた。



 モーリー村を出発し歩くこと数十分、地平線の彼方あら徐々に朝日が昇り始め、木々や山などに日の光が燦々と降り注ぎ始めた頃。

 今回の依頼の現場となる場所の近くまで、自分達は到着していた。


「ショウイチ、あそこ。あそこが今回の依頼の目的である『黄金のナイフ』が眠っているとされる遺跡だよ」


 フィルが声を挙げ指さす方に視線を向けると、そこには小高い山の麓に、見るからに長い年月が経過したのだと感じさせられる人工物の姿が見られた。

 遠目では確認しにくいが、所々劣化によるものだろうか、ひび割れや崩れている部分なども見られる。一体あの姿を、あと何年見られることやら。


「フィル。あの遺跡って、名前とか付いてるのか?」


「ん? 名前。付いてるわよ。カユーイ遺跡って名前よ」


 前世においてこの手の遺跡に関しては、研究対象や観光名所としての側面などから名称などから名前が付けられていたものだが。エルガルドにおいてもそれは変わらないようだ。

 しかし、遺跡というものが当たり前に存在していて命名基準が緩いのか、それとも深い意味があるのか。その名前に関しては、本当にそんな名前で良いものなのかと疑問を持たざる得えない。


 それから更に歩く事十数分、カユーイ遺跡の詳細な外観が見られるほどの場所まで自分達はやって来た。

 木々の間にその姿を現しているカユーイ遺跡、石造りの外観は前世テレビなどで見た事がある海外の遺跡に似ている気がする。

 しかし、やはり似て非なるもの。エルガルドに今なお残るのかそれとも古代に消滅したのか、独特の文化と思しきものの片燐が外観の各所に見られる。


「さてショウイチ。少し休憩したらいよいよカユーイ遺跡に足を踏み入れる訳だけど、その前にアタシが仕入れた情報を伝えておくわ」


 カユーイ遺跡の手前、ここまでの移動の疲れをいやすべく休憩を取りながらも、フィルが事前に集めた情報の数々を共有する。パーティーである以上、仕事に関する情報の共有は必要不可欠だ。

 彼女が集めた情報によると、目的の黄金のナイフはこのカユーイ遺跡の奥に眠っているらしい。しかし、当然の事ながらその場に辿り着くまでには幾つかの障害が存在する。


 大まかに言うと、トラップや遺跡内に住み着いた害獣だ。これらを取り除かなければ、当然ながら目的の物には手が届かない。

 そこで役割分担として、トラップの類に関してはフィルが担当し。自分は襲い掛かってくる害獣の駆除担当となった。


 妥当な割振りだと思う。そもそもパーティーの自身の役割として頭よりも体を使う害獣駆除の担当は適任であるが、しかし不安が無い訳ではなかった。


「なぁフィル。住み着いている害獣の詳細な情報とか、分かるか?」


「ん? 詳細な情報、ちょっと待ってね……」


 始めて来た土地に初めて入る遺跡、そしてそこに巣食う害獣。もしかしたら王都周辺に現れ、今まで戦ってきた害獣とは異なる種類がいるかも知れない。

 何分初めて尽くしだ。戦ったことのある相手や場所なら万が一の場合でも対策が思いつき易かったりもするが、それが初めてだろうそうはいかない。

 遺跡内部の構造などに関しては実際に足を踏み入れてからでないと把握できないだろうが、巣食っている害獣の情報に関しては聞いておけば遭遇した際の初動などの参考に出来るだろう。


 フィルは手に持ったメモ帳のようなものをめくり、あるページで手を止めると、そこに書かれている文字を読み上げ始めた。


「上級の害獣がいるって話は聞かなかったわね。遺跡内にいるのは主に下級のスライム種だけど、あ、アンデッド系の目撃情報も一応あるわね。数はそれほど多くないみたいだけど」


 スライム種は現在までに何度も戦った経験があるので、初めて見る型のものでも対処の仕様はあるだろう。

 だが、アンデッド系は初めて聞く害獣だ。所謂、ゾンビみたいなものなのだろうか。もしそうなら、初の人型と戦う事になる可能性もある。

 スライム種を含め今まで出会ってきた害獣は、基本的には四足歩行型であったが。もし自分の考えている想像通りのものが現れたら、二足歩行で手を使ってくるかもしれない。

 掴み掛られたり押さえつけたりと、今までとは次元の異なる戦いが強いられる可能性が出てくる。


「考えないとな……」


「ん? 何か言った?」


「あ、いや。何でもない」


 頭の中でのシュミュレーションに意識が行き過ぎていたからか、自然と声が漏れていたようだ。

 慌ててフィルに言葉を返した後、シュミュレーションを止める。シュミュレーションが無駄という訳ではないが、こういったことはその時になってみなければ正確な判断ができないからだ。九九回の練習より一回の実戦とはよく言ったものだ。


「さて、それじゃそろそろ行きますか」


「了解」


 程なくして、フィルの声と共にカユーイ遺跡に足を足を踏み入れる事になった。

 カユーイ遺跡の入り口とも言うべき構造物に足を踏み入れると、その先に広がっていたのはまさに神秘に満ちた光景であった。

 石造りで構成された遺跡内部は、所々の崩れた個所などから朝日が差し込み、その雰囲気をさらに神々しいものに高めている。

 石の柱に彫られた見た事のない紋章のようなものや、独特な石造等。まさに外の世界とは別世界のような空間が続いている。


「ちょっとショウイチ、観光に来たんじゃないのよ。仕事よ仕事、分かってる!」


「あ、あぁ」


 自分がこの神秘的な雰囲気に見とれていると、フィルからのお叱りの声が飛んできた。

 どうやら彼女にとってみれば、この様な雰囲気の場所などは見慣れているようだ。特に周囲に視線を配る事もなく、淡々と目的の場所を目指して奥へ奥へと足を進めていく。


 それから暫く、周囲に気を取られえる事もなく遺跡の奥へと進んでいくが特に害獣と遭遇する事もなく。順調に進んでいるように思われた。

 しかし、程なくして辿り着いた扉の前で、フィルは自身が持っていた荷物から木の棒に布を巻いた。所謂松明に火を点けるとそれを差し出しながら声を挙げた。


「ショウイチ、ここから先はショウイチが先頭で進んで」


「え?」


「ここまでは遺跡の入り口みたいなものよ、この扉の先からが本番って訳。多分、害獣もウヨウヨしてる筈よ」


 彼女の言葉に、ここまでの道のりが楽であった事や彼女が警戒する事無く淡々と進んでいた理由が、一瞬で理解できた。

 本番はこの扉の向こう側。そして、自分の役割を十分に果たすのもここからという訳だ。


 彼女から松明を受け取ると、扉に手をかけその内部へと足を踏み込む。

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