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仲間 その6

 頭の中で今後の予定を立てている内に、食後の一杯を飲み干している事にふと気が付く。

 区切りがついて丁度いい、そう思うと席を立ち店を後にしようかと店の出入り口に向かって足を向けようとした。


「あの、すいません!」


 刹那、誰かが自分に向かって声を掛けてくる。

 一瞬他の客に向けられているものかとも思ったが。次の瞬間、目の前に現れた人物の声が先ほどと同じだと気が付くと、やはりあの声は自分に向けられていたのだと確信する。


「すいません、突然呼び止めてしまって。でも、どうしてもお話がしたくて」


 目の前に現れた人物、それはまさに人生に潤いを与えてくれるかのような美しい女性であった。

 しかし、彼女がただの村人などではないのは彼女の装いを見れば一目瞭然であった。白銀に彩られ細かな装飾が施されているそれは、実用性と共に一種の高級感を漂わせている。

 自分が身に着けている男性用とは異なる、女性の体型を考慮して制作されたであろうそれは、正に彼女を戦女神のように仕立て上げている。

 白銀の鎧一式を身に纏い、美しい金の髪に美しい顔立ちを備えた彼女は、まさに天は二物を与えた存在と言える。


「あの、突然お声掛けしてご迷惑かと思ったんですが。でも、どうしても確かめたかったんです。……黒騎士さん、ですよね?」


 黒騎士、その言葉が彼女の口から零れた瞬間、何故かデジャブを感じずにはいられなかった。

 ただ、彼女とはこの村で紛れもなく今しがた初めて会った所だし、何処かの誰かさんのように実力を見極めようなんて素振りは今のところ見られない。

 もっともそれ以前に、黒騎士の噂ってこんな村にまで伝わってるものなのか。


 王都の外まで伝え知られている事は素直に喜べるべきなのだろうが、独り歩きしている噂の内容を鑑みるに、心から喜べないでいるのも事実だ。


「えっと、一応王都の一部じゃそんな風に自分は呼ばれてるみたいだけど……。所で、貴女は?」


「あ、すいません。私、自分ばかり質問して。私、『ソフィア』と申します。黒騎士さんと同じくギルドのメンバーとして活躍しています」


 自己紹介をしつつも、彼女は自らの身分が間違いのないものと証明する為か、彼女自身のギルドカードを提示してきた。


 偽物が横暴しているという話を聞かないので、彼女が提示したギルドカードは本物だろう。

 それを見ると、彼女が先ほど名乗った名前などが記載されている。どうやら紛れもなく彼女は同業者のようだ。


「いつもは王都を中心に活動してるんですけど、今回はちょっとした依頼で一週間ほど前からこの村に泊まってたんです」


「あ、成程ね……」


 彼女の言葉に、黒騎士の噂が村まで伝わっていない事が判別する。と同時に、心の何処かで残念がる自分と安堵する自分がいた。


 一体いつ頃から黒騎士と呼ばれ噂が流れ始めたのかは分からないが、少なくとも一週間ほど前ならば既に噂が流れていたとしても不思議ではないだろう。

 そして、自分と同じく王都を中心に活動しているならば、噂を耳にしていてもおかしくはない。そもそも、もしかすると知らず知らずの内にギルドですれ違っていたのかも知れないし。


「でもまさか、モーリー村に黒騎士さんが来ているなんて知りませんでした」


「夕方この村に着いたばかりだから。……ところで、話すなら座って話しませんか?」


「え、あ! すいません」


 先ほどから出入り口近くで二人、立ちっぱなしで話しているというのは辛いものがある。特に、背中を通して感じる客や店員の視線が特に辛い。

 店員は単に邪魔になるからと思うが、他の客からの視線は、自分が彼女と話しているという事に対する嫉妬の意思が十二分に含まれているのが感じられる。

 そんな視線から逃れるべく、とりあえず近くに空いていたテーブルに二人で腰を下ろし、再び会話を始める事に。


 因みに。迷惑料という訳ではないが、とりあえずドリンクを二人分注文した。


「どうぞ」


 程なくして注文したドリンクがテーブルに運ばれてくると、会話で渇いたのどを潤しながら会話を続ける。


「王都で黒騎士さんの噂を聞いた時は、最初はよくある与太話の類いかと思いましたけど。ですけど、王都のギルドで黒騎士さんの姿を遠目に見た時、あの噂は本物なのではと思うようになり……」


 徐々に熱を帯び始め、今では相槌の入る隙間すらないソフィアの話。

 一方的な会話となってしまってはいるが、それでも彼女は熱く熱く自分についての印象だとかイメージだとかを語る。

 やがて、話が一区切りついたのか。熱く語り渇いたのどを潤すべく残っていたドリンクを一気に飲み干すと、ここまでの熱い話を理解してくれましたかと言わんばかりにこちらを見つめてくる。


「えっと、とりあえずソフィアさんが自分の事を評価してくれてるのは分かったよ」


 そこで一旦言葉を切ると、自分も残っていたドリンクを飲み干した後、言葉を続けた。


「ただ、ソフィアさんは少し勘違いしてるというか。評価してくれるのは嬉しいんだけど、過大評価というかなんというか」


「あの、それってどういう事ですか?」


 自分で答えてはいながらも、真実を全て話す事は避ける方向で調整している。もっとも、正直に話したところで転生だとか摩訶不思議な自称万能携帯端末の事なんて真に受けるとは思えない。

 それでも、大剣や鎧は現実に存在している為、ある程度の真実と嘘を織り交ぜながら帳尻を合わせる事になる。


「……だから、この鎧や大剣なんかも譲り受けた、という訳で。つまり形だけで実力は今のところソフィアさんが思っているような程には無い訳で」


 多分違和感はないであろうと思う程度に嘘を織り交ぜてはみたが、素直に受け止めるか疑問を持つかは彼女次第。

 暫く考えるかのように黙っていた彼女だったが、暫くした後彼女は突然口を開いた。


「そう、だったんですか。……やっぱり噂には様々な尾ひれ背びれがつくものですね」


 期待を裏切ってしまったからか、少し残念そうに彼女から声が漏れる。

 少し罪悪感を感じずにもいられなかったが、とりあえず自分の嘘を信じているようだ。


「では、私はそろそろ失礼しようと思います。明日は朝一番の駅馬車で王都へ帰る予定なので」


 席を立ち言葉を添えると、彼女は店の出入り口へと足を進めるかと思った。

 しかし、何かに気付いたように途中で足を停め引き返してくると、突然自分に紙の切れ端のようなものを差し出してきた。


「これ、王都での私が借りている宿屋と部屋番号です。もしご都合などが悪くなければ、一度即席のパーティーでも組ませてください。それでは」


 軽くお辞儀をして、今度こそ彼女は店の出入り口へと足を進めるとそのまま店を後にした。

 そして、残された自分はと言えば。手にした紙の切れ端のような者に書かれている住所と番号等に目を通すと、静かに小物入れ用のポーチに入れ、次いで考えにふけ始める。


 これはいったいどういう意味があるのだろうか。ただ単に気が向いたら一緒に依頼でもこなしましょう、という単純明快なものなのか。それとも、別の含みを持たせたものがあるのか。

 そもそも、ソフィアさんは今現在自分がフィルとパーティーを組んでいる事は知らない筈。いやしかし、仮に知っていたとしてもソフィアさん的には大丈夫なのかもしれない。

 考えによっては両手に花で良い事ではないと思わなくもないが。


「はぁ……、分からん」


 男性と女性ではそもそも考え方の根本からして違う。と前世の何処かで誰かが言っていたか書いていたかを見たかした気がする。

 よって、ソフィアさんの考えなんて分かる筈もなく。結局考え疲れた頭を冷やすべく、自分も席を立つと夜風に当たるべく店を後にした。


「フィルに相談……」


 同じ女性なら。とフィルに相談する考えが頭を過ったが、色々と問題が起こる可能性もなくはないかもしれない。

 あれこれ考え、夜風に当たられながら考えた結論としては、この件に関しては保留。というものであった。急いで答えを出さなけえればならないものでもないし。


「帰ろう」


 そしてもう一つ、出した結論があった。寄り道せずに宿屋に戻って今日はもう寝よう、この後の予定である。



 寄り道などせず来た道を真っ直ぐに戻って宿屋へ、そしてそのまま部屋へと直行する。

 予定通り部屋に戻ってくると、鍵をかけ鎧や大剣等を外して身軽になる。そのままベッドに倒れ込むように寝転がると、明日に備えて早々に夢の世界へと旅立とうとする。

 フィル自身朝早くからと言っていたので、多分自分が思っているよりもかなり早くに起こされることになりそうだ。

 また今朝のような防犯機能が機能していないなんて状況にはなりたくないし、そもそも毎回そんな感じになっては自分としても情けない。


 瞳を閉じて夢の世界へと旅立つのに、それほど時間はかからなかった。

 移動の疲れや始めて来た村の緊張感等など、色々と疲れがたまっていたのですんなりと旅立てる。

 明日からは忙しくなるだろうな。完全に夢の世界へと旅立つ直前、改めてそんな事を思っていた。

読んでいただき、ありがとうございます。

よろしければ、ご意見やご感想等お待ちいたしております。

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