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仲間 その5

 日が昇り始めた頃に王都を出発し、馬の休息や腹ごしらえ等、数度の休憩を挟んで到着した頃には日が沈みかけていた。

 駅馬車に長時間揺られ、臀部の感覚が麻痺しかけた頃に到着したのは、モーリー村と呼ばれる村。王都に比べると立派な城壁もギルドの様な高い建物も存在しない。

 故に、まさに村と呼ぶにふさわしいような、木製の家屋等が多く見られ。重要施設と思われる石造りの建物なども見られるが、その数は少ない。

 村のステーションから見える人々の姿も王都に比べれば少なく、また当然ながら貴族のような高貴な人々の姿も見られない。


「さて、モーリー村には到着したけど、本格的に仕事に取り組むのは明日からよ」


「それじゃ、今日は宿泊場所探しってとこ?」


「まぁ、色々と情報収集もするけど。今日の所はそうね、そんな所ね」


 駅馬車を降りステーションを後に村の中心地へと移動する道中、自分達はそんな会話を繰り広げていた。

 やがて村の中心地へとやって来ると、早速村の中にある宿などの宿泊施設を探し始める。と言っても、中心地から然程離れていない位置に一軒の宿屋を直ぐに見つけた。

 木製のその外観は村の雰囲気と会っているような気がする。またボルスの酒場と比べると、建物の大きさは一回りほど小さい。


「いらっしゃい」


 酒場等を兼用していないからか、ドアを潜ると木で統一された内部は待合用のスペースと受付用のカウンターと言うシンプルなものであった。

 カウンターには、この宿屋の主であろう初老の人物が店番をしている。


「すいません、数日間の予定で泊まりたいんですけど」


 そんな宿屋の主とフィルが宿泊の手続きを始めたのを余所に、自分はと言えば。とりあえず背負っていた荷物などを一旦置いて、待合用の椅子に腰を下ろしていた。

 移動の疲れを少しでも、或いは徐々に空になりつつある胃袋の状態を考えて身体を休めていると。カウンターで手続きをしていたフィルが自分の方へと近づいてきた。


「はいショウイチ、これが君の部屋の鍵」


 そう言いながら彼女が手渡した一つの鍵、木製のキーホルダーには部屋の番号であろう数字が彫り込まれている。


「それじゃ、とりあえず部屋に荷物を置きに行きましょ」


 彼女の先導のもと、これから数日間お世話になる部屋を目指す。

 お目当ての部屋はどうやら一階部分ではなく二階部分に在るらしく、一階奥を目指す事無くカウンター横の階段を躊躇なく上る。

 そして二階部分へと上がると、部屋数が少ないのもあり迷う事無く一直線にお目当ての部屋の前までやって来た。


「ショウイチはこっちの部屋、アタシは隣のこの部屋よ。忘れないでね」


 パーティーとして行動する為か、それぞれの宿泊部屋はお互いに隣部屋となっていた。


「それじゃ、今後の予定とか話すから。荷物を部屋に置いたらアタシの部屋に来てね」


 そう言い残すと。彼女は自分の荷物、と言ってもここまで運んだのは自分なのだが、を持って部屋へと消えていった。

 通路に残される形となったが、特に気にすることもなく残った自分の荷物を持って部屋へ入ると、彼女に言われたとおり荷物を置くと彼女の部屋へと足を運ぶ。



 ドアをノックし返事が返ってきたことを確認すると、彼女のいる部屋へと足を踏み入れる。

 部屋の内装は、当たり前だが先ほど見た自分の部屋と代わり映えはしなかった。必要最低限度の家具、机に椅子、更にはベッドが一つ。各部屋ごとに壁の塗装が変わっているなんて事もなく、これと言って特徴的なものはない。

 当然ながら来客用の椅子などもないため。とりあえず自分は椅子に座り、フィルはベッドに腰を下ろして、今後の予定についての話し合いが始まった。


「さてと。ステーションでも言ったけど、本格的に仕事に取り組むのは明日から。なので、今日はショウイチは英気を養うなり鍛錬するなり自由にしていいわよ」


「あの、それってつまり自由行動って事?」


「そうよ。あ、でも、明日はまた朝早くから現場に向かう予定だから、あまり夜更かしとかしないでね」


 始めてやって来た村、娯楽や暇つぶしの場所など当然のことながら知っている筈もない。そんな所で突然時間を潰しておいて、と言われ、悩まない筈はない。

 予想もしていなかった予定の発表にどうすべきかと悩んでいたところ、ふとフィル自身はどのような予定なのかと疑問が浮かんだ。


「ところで、フィルはどうするんだ?」


「ん、アタシ? アタシはね、事前の情報収集ってところかな」


「あの、もし手伝えることがあるなら手伝おうか? 一人よりも二人の方が効率が良かったりするしさ……」


 暇つぶし、と言う事ではないが。自分もパーティーの一員なのだし、手伝えることがあるのなら手伝いたい。そんな素直な思いから出た言葉だった。

 しかし、フィルは少し考えるようなそぶりを示すと、気持ちだけはありがたく受け取っておくとこちらの提案を断った。


 ここで自分の気持ちを押し通そうと食らいつく事も出来たのだろうが、食らいついて自体が悪化してしまっては元も子もない。なので食らいつく事なく引く事に。

 しかし、少し位は理由を知りたいと思い彼女に問いかけてみた。すると。


「ほら、異性が付いてるとさ。色々と情報を引き出しにくかったりする事もあるし……、さ」


 少し歯切れ悪く彼女は答える。

 仕事柄使える武器は何でも使う、女性のみが持つ、所謂女の武器と言うものも最大限活用するのだろう。その為には自分がいては不都合、という訳か。


 成程、それなら手伝おうと言って断られるのも無理はない。


「分かった。ならこっちは適当に夕食を済ませて時間を潰して、明日に備えておくよ」


「それじゃ、アタシは早速情報収集に向かうから。もし何かあればアタシの部屋のドアにでもメモなりなんあり挟んでおいて」


 その後細かな打ち合わせなどを経て、今後の予定についての話し合いは終わり。フィルは事前の情報収集をしに、夜の闇に包まれた村の中へとその姿を消した。

 そして自分も、部屋に戻り必要最低限の荷物を持って夕食とその後の時間潰しを求め、宿屋を後に夜の村へと足を向けた。



 夜の闇に染まった村には、月明かりの他松明などの灯りが灯されある程度の視界は確保できている。

 とは言え、やはり王都の夜と比べるとその明るさはかなり控えめと言える。更には夜出歩く人の数もさることながら、村全体が静寂に包まれているかの如く静かなのも、眠らない街とも呼べる王都とは天と地ほどの差がある。

 

 そんな夜の村を出歩く数少ない一人である自分はと言えば、食事処を探して村の中心地へと足を運んでいた。

 村でも人が集まり易いであろう中心地なら食事処の一つや二つ在るだろう、そんな考えからだ。


「お!」


 そして、その考えはどうやら間違ってはいなかったらしい。

 村の中心地に足を運んですぐ、静かな村の中でも一際賑わいと明るさに満ち溢れている建物が一つ、目に留まった。

 その建物に近づいてみると。建物の出入り口付近に建てられている木製の立て看板には『ウォーカの酒場』と言う文字が彫り込まれている。


「酒場か……」


 酒場ならお酒のみならず料理も提供しているので、夕食を済ませるには適している。値段設定や所持金等の金銭面での心配も、特には思い当たらない。

 無論、紹介されて来た訳ではないので味の保証がされている訳ではないが。店内から聞漏れ聞こえてくる客の様子から、その点も心配はなさそうだ。


 今日の夕食はここにしよう。

 店の出入り口へと更に近づくと、木製のドアに手をかけ店内へと足を踏み入れた。


 客の話し声等が一種のメロディーとして包み込んでいるその空間には、まさに一日を頑張った者を癒す至福ひとときが流れている。

 また、コンクリートジャングルに慣れ親しんだ者からすれば、そこは木の温もり溢れる空間。と呼べるのだろう。

 しかし、今のところコンクリートのコの字も存在しないこの世界の者からすれば、もはや内装が木製で統一されているなど、もはや見慣れて気にも留めないだろう。

 現に自分も。もはや他で見慣れた感のあるその店内の内装などは、特に気にすることもなく店の奥へと足を進めている。


 が、あえて気にするとするならば、ボルスの酒場よりも少し控えめな内装だな。と言ったところか。


「……ん」


 もっとも、店内の内装などは気にしてはいないが、店内に入った瞬間から気になっている事もある。それは、店内の各所から自分に向けられる幾つかの視線だ。

 店内にいる客全員という訳ではないが、何人かは酒や料理を片手に自分に気付かれるように横目などで視線を向けてきている。

 視線を向けている客の職種は様々で、同業者のように見える者もいれば村人と思しき者もいる。

 同業者なら品定めよろしく、村人なら見知らぬ新顔がやって来たといったところか。行商人なら、さしずめ自分の着ている鎧の価値の品定めといったところだろう。


 王都でもこうやって自分に視線を送っていた人物はいたのだろう。黒騎士なんてあだ名まで知らずに付けられていた程だから尚更だ。

 ただ、王都では人口の密集率が村とは桁違いであったので、視線が送られていても特に誰から送られているなんて特定する気にはならなかった。


 しかし今は、嫌でも視線を送る主を特定できる状況にある。

 とは言え、気にし過ぎていても埒が明かないので、気づいていない素振りをしつつも店内奥に在るカウンターを目指して足を進め続けた。


 店内の奥に在るカウンターへと足を運ぶと、そこで少々無愛想な雰囲気を醸し出している店員に声を掛ける。


「いらっしゃい」


「メニュー、見せてもらえますか?」


「どうぞ」


 メニュー表であろう一枚の紙が手渡される。書かれている品数は少し少ないような気もするが、同じく書かれている値段については王都の酒場と比べるとかなりとは言わないまでも安い。

 値段が安い事もさることながら長時間の移動の疲れなどもあってか、頼んだものは少しばかり贅沢傾向になった。

 こうして料理を注文し、後は注文した料理が運ばれるのを座って待つのみ。空いているテーブルに腰を下ろすと、何をするでもなく料理が運ばれてくるのを待つ。


「それでは聞いてください。赤と青のベーラッ」


 しかし、流石に何もせずにただ座って待っているのも辛いものがあり。気が付くと、いつの間にか店内の一角で始まった吟遊詩人の歌の披露に耳を傾けていた。


「あぁ、それは灼熱の炎の如く。あぁ、それは母なる海の如く。振りかざされるそれは雷鳴の如く空を切る……」


 弦楽器を手に自作か或いは伝え聞いたのか分からないが歌を披露する一人の吟遊詩人。

 声からして多分男性であろうその吟遊詩人は、まるで一人だけスポットライトを受けているかの如く雰囲気を醸し出している。


「そして放たれるは流星の如く鋭い一撃! おぉ赤と青のベーラッ! それはまさに神秘の力……」


 因みに、何故性別が曖昧なのかと言えば。それは彼、であろう吟遊詩人が自分達とは異なる種族、即ち亜人だからだ。

 人間とは異なる動物のような顔立ち、衣服から飛び出す触り心地が良さそうなふさふさの尻尾のようなもの。人間と同じように二足歩行で五本指をしてはいるが、その見た目は人間とは決定的に異なっている。


 王都においても亜人と呼ばれる人々は数多く見ている。エルガルドにやって来て間もない頃などは、前世では画面の中などでしか見た事のなかった空想の生命が、呼吸し、喋り、動き、まさに同じ生命として眼前にいるなどと言う事で視線を送り過ぎて怪しまれた事などもあったが。今となっては慣れたもので、特になんとも思っていない。

 なお、亜人と一括りに言っても細かく分ければその数はかなりのもので。彼も、おそらく何処かの種族の血を引く者の一人なのだろう。


「ありがとうございます。それでは続いては、白と黒のミ・ゼブーラッ。聞いてください」


 歌を歌い終えると幾つかの乾いた拍手が店内から響き渡る。しかし、吟遊詩人は特に気にするそぶりも見せず続いての歌を歌い始めた。

 心が強いのか、それともいつも通りの慣れた反応だったからか。心境などは分からないが、見ている限り先ほどと変わる事無く歌を歌うのに没頭している。


「お待たせしました、どうぞ」


 二曲目に入った矢先、店員が頼んだ料理を持ってきた。そうなれば、吟遊詩人に向けられていた視線は直ぐに料理へと向けられる。

 出来たての料理から発せられる湯気が食欲をそそり、美味しそうな匂いが腹の虫を刺激する。


「いただきます」


 吟遊詩人の歌と他の客の雑談などを音楽にしつつ、腹の虫を満足させるために料理に手を付け始める。

 口に入れると溢れ出てくる肉汁、程よい焼き加減に肉本来の旨味を引き立たせる味付けはまさに絶品と言っても過言ではない。

 備え付けの野菜も新鮮でみずみずしさが保たれており、これもまた美味い。


 こうして美味しい料理を堪能し終えると、食後の一杯をいただきつつこの後の事について暫く考える事にした。


 このまま宿屋に一直線に戻って明日に備えて寝てしまうという選択肢もあれば。少し村を探索して時間を潰す、という選択肢もあると言えばある。

 しかし、王都のような夜も娯楽が溢れているという状況には思えないこの村で、果たして出歩いて時間を潰せるのだろうか。


 このまま酒場で飲み続ける、と言う選択肢も考えられなくはないが。自分は豪酒でもないし、付き合いならまだしも一人では進んで酒を飲む方ではない。

 やっぱり、宿屋に戻って寝てしまおうか。それが一番賢明だと思う。

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