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酒と占いと家族の絆 その4

「……その、依頼の内容と言うのは、どういったものなんですか?」


「ある物を探して欲しいんです」


「探し物?」


「はい。私の、私の父の大事な水晶玉です」


「水晶玉? ですか」


 一体どのような訳ありの話かと内心身構えていると、その内容はギルドでもごく一般的に見かける探し物の依頼。

 何だか肩透かしを喰らった様な気もするが、表には出さずに話の続きを聞いていく。


「その、ティーナさんのお父様の水晶玉と言うのは一体、どういった訳で探して欲しいんですか?」


「……存じているかどうかは判りませんが、私の父の名は、オリズと言います」


「え、オリズ」


「……ご存知だったんですね」


「あ、えぇ」


 オリズさんの同業者かと思っていたら、まさか実の娘さんだったとは。不思議な縁もあるものだ。

 にしても、あのオリズさんの娘さんとは。


 年齢的に考えて子供がいてもおかしくはないと思っていたが、しかしまさか、これ程の美しさを備えた方だとは思わなかった。

 オリズさんって、その、全体的に丸いと言うか。典型的なメタボ体系だったので、失礼ながら、ご子息の方も少なからずその傾向があるのかと思ってしまっていた。


 だが、生命の神秘と言うべきか。

 お母様に似たのだろうか、ティーナさんは外見だけで言えばオリズさんの遺伝子を受け継いだのかどうか疑いたくなるほど、似ていない。


「では、父が現在、どのような生活を送っているのかについても、ご存知で?」


「えっと……、少しだけなら」


 数時間前にリアルタイムで拝見してきたんだ、知らない筈がない。


「では、黒騎士さん! どうかお願いします! 父を、父をどうか助ける為に、父の大事な水晶玉を探し出してください!!」


「え、助ける?」


「はい。……父が、占い師オリズが、あのような自堕落な生活に陥ったのは、我々占い師にとって命よりも大事な物である水晶玉を自ら手放したのが原因なんです」


 ティーナさんの話によれば、オリズさんが富と名声を思うがままに手に入れられた頃、突如としてオリズさんが命よりも大事な商売道具である水晶玉を手放してしまったとの事。

 そして、その原因として考えられるのが、同時期に天国に旅立たれたティーナさんの母親。即ち、オリズさんの奥さんの死ではないかとの事。


 曰く、オリズさんは自ら高名な占い師であるにも関わらず、身近な最愛の人の死を見定められなかった事に対し、自らを嫌悪した。

 そして、その嫌悪の象徴である水晶玉を自ら手放したのではないか。

 そしてそれ以降、逃げ続けるように生業であった筈の占いから遠ざかり、酒におぼれるようになっていった。


 ティーナさんは、そう話してくれた。


「でも、父は間違っています。母は、母は父が占い師を辞めて欲しいだなんて想ってはいなかった!」


「だから、立ち直ってもらう為に、もう一度占い師として復帰して欲しいと?」


「……はい。父には、占い師としての職以外生業に出来るものはありませんから」


「その為に水晶玉を、ですか。……でも、水晶玉だけなら、何も手放したものを見つけ出さなくても新しい水晶玉を用意すればいいのでは?」


「駄目なんです。あの水晶玉じゃないと、他の水晶玉では駄目なんです!! 母との、私達家族との思い出が詰まった、あの『水竜の涙』でないと」


 詰め寄るかのように力説するティーナさんの気迫に、思わず軽率な考えであったと反省の弁を述べる。


「ですからどうか。お願いします」


 ティーナさんの話を聞く限り、特にやましい事情と言うものはなく、純粋にオリズさんに立ち直って欲しい。そんな気持ちを感じ取った。

 なので、ここで断りを入れては、その気持ちを踏みにじってしまう事になる。


 それに、女性が必死に頼み込んでいるのにそれに応えられずして、何が男だろうか。


「分かりました、ティーナさん。ティーナさんのご依頼、お受けいたします」


「本当ですか!?」


「はい」


「ありがとうございます! ありがとうございます!!」


 自分の手をとり、心からの感謝を述べるティーナさんの姿を見て、必ず水竜の涙と呼ばれる水晶玉を探し出そうと固く決心するのであった。


「あ、では、お受けしていただいた御礼にこれを」


「これは?」


「前金です。勿論、水竜の涙を探し出してくだされば、成功報酬をお支払いいたします」


 ティーナさんが手を離し、不意に取り出した小さな皮製の袋。

 手渡されたそれは、確かな重みを感じられ。振るうと、硬貨がぶつかり合う音が聞こえてくる。


 袋の中身を確かめると、そこには金色に輝く数枚の硬貨の姿が。


「え、前金だけでこんなに!?」


「受け取ってください。快く私の依頼を受けてくださった御礼ですので」


「……分かりました」


 こうして前金を受け取り、最後に、連絡方法等の確認となったのだが。


「水竜の涙を探し出していただけたのなら、マスターにその事を伝えていただけますか。そうすれば、私の方に伝わると思いますので」


「マスターに?」


「はい。……その、私の住居は、あまり他人に知られたくはないもので。どうか、ご理解してください」


「分かりました。では、探し出した時はマスターに伝えます」


「ありがとうございます」


 ティーナさんにも個人的な事情がおありのようで。

 ティーナさんの要望通り、連絡はマスターを介して行う事となった。


 こうして、依頼の契約を交わし終えたティーナさんは、自分と共に部屋を後にし、その足取りでボルスの酒場を後にした。



 そして、ボルスの酒場の店先までティーナさんを見送った自分は、彼女と入れ違いにボルスの酒場に戻ってきたレナさんの姿を見つける。


「あれ? ショウイチ、もしかして、お出迎えっすか!?」


「違うよ。ちょっとある人を見送ってただけだ」


「お見送り、ですか?」


「あ、そうだ。皆に話があるんだ。夕食を食べた後、自分の部屋に集まってくれるか?」


「何だ? 何の話だ?」


「ほほほ、パーティーだけの内密の話とは、何やら訳ありの予感がしますな」


「ワン!」


 各々が反応を示す中、とりあえずは先ほどから主張をしだした腹の虫を鳴り止ませるべく、揃ってボルスの酒場に入るといつものカウンター席で夕食を食べ始める。

 こうしていつも通りの楽しい夕食を終えると、店先で言った通り、全員揃って自分の部屋へと集合する。


 そして、各々の顔を一通り確認し終えると、先ほどティーナさんと交わした依頼について話し始めた。


 話を聞いた反応はまちまちであった。

 レナさんやカルルなどは前向きにやる気満々のようだし、レオーネもティーナさんの他人の目を気にする警戒心の高さを少々怪しみながら、あのオリズさんが復活するかもしれないと期待感を表していた。

 フェルは、言わずもがな。

 そしてリッチ4世さんは、案の定と言うべきか。依頼の内容よりもティーナさんの容姿の方が気になって仕方がないようだった。


 この様に、自己判断であったとは言え、概ね今回の依頼を受けた事に対してはパーティー内でもすんなり受け入れられたので。

 早速明日から、本格的に水竜の涙を探し出す為に動き回ることが決まった。

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