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酒と占いと家族の絆 その2

 翌日、特に寝過ごすこともなく。休みだと言うのにもはや日課となっているからか、いつも通りに起床すると、いつもの様に段取りを消化していく。

 装備を着込み、部屋の戸締りを終えて一階の酒場へ。マスターと朝の挨拶を交わすと、朝食を頼む。そして、出てきた朝食を食べる。


 こうして朝食を食べている内に、他のパーティーの面々が下りてきて朝食会が始まるのだが。本日は休日の為、いつも通り起きてきたのはレナさん一人であった。


 もっとも、レナさんと二人きりの朝食会と言うのも悪くない。と言うよりも、断然こちらのほうが良い。

 と、脳内でそんな優劣をつけている内に、楽しい一時はあっという間に終わってしまう。遅れて、残りの面々が下りてきたからだ。


「かっぁー! やっぱ朝はミルクっすよ、ミルク!」


「えぇー、オイラやっぱり朝はリンゴジュースだと思う?」


「ワンッ! ワンッ!!」


「ほほほ、私はやはり朝の目覚めの一杯は、マスターの淹れて下さった美味しいお紅茶だと思いますよ」


「お褒め頂、光栄です」


 白い牛乳ひげを作り出しながら朝の一杯について熱い議論を交わすレオーネ。そしてそれに付き合うカルルにフェルにリッチ4世さん。

 そして、それを見守る自分とレナさん。


 うん。やっぱりレナさんと二人だけも良いけど、皆と一緒と言うのもやはり悪くはない。

 こうしてにこやかな朝は過ぎていくのであった。



 さて、こうして朝の段取りを経て、いよいよ休日が本格的に始動する訳だが。いつもなら、レナさんと二人きりや皆と一緒に過ごす事が多いが。今回は、一人で過ごす事にした。

 こっち(エルガルド)に来た当初は一人で過ごす事が殆どだったが、今ではそれも少なくなってきていた。だが、偶には一人で過ごすのも悪くないと、今回は一人で過ごす事に決めたのだ。


 と言っても、特に目的がある訳でもないので、王都内をぶらぶらと散策している。


「やだ、死んでるの?」


「どうも酔っ払って寝てるだけみたい。いやね~、まったく」


 と、とある大通りから一歩脇の路地へと足を踏み入れた所で、何やら前方に人だかりが出来ているのに気がつく。

 近隣の方々だろうか、それとも通行人だろうか。桶やバケツ、それに麻袋などを持った人々が、路地の一角で何かを見ようとしている。


 素通りしてもよかったが、やはり気になり。外縁からつま先立ちしながら、人だかりの視線の先を覗き見ようとする。


「あ!」


 そして、覗き見た先に映った光景に、思わず声が漏れてしまう。

 それもそうだろう。そこに映ったのは、昨晩ボルスの酒場で散々飲み明かしていた有名占い師のオリズさんが、投棄されたゴミの山の上で死んだようにして寝ていたのだから。


「すいません! 通してください!」


 流石にそんな光景を見て放っておく事も出来ず。人ごみを掻き分けオリズさんのもとへと近づくと、とりあえず寝ているオリズさんの体を揺すって起こす事に。


「んあー、何だ!? わっち、が、良い気分れ寝てる、と、言うのに」


 まだ酔いが抜け切っていない、それにオリズさんの口からお酒の臭いもまだする事からして。昨晩はどうも、あの後も遅くまで飲み明かしていたようだ。


「オリズさん、ここはオリズさんのご自宅のベッドではないですよ」


「んあー、何だ? ベッドじゃにゃい?」


 だが、オリズさんは上半身を起こし辺りを見渡すと、どうやら自分の置かれている状況を理解したようで。

 自分に肩を貸すように頼むと、自分の援助の下、ゴミの山から無事に下山を果たす。


「んな、何処の誰だかしらんがぁ、助かった。が、次いでと言うとなんじゃが、わっちの家まで送ってはくれん、か?」


「えぇ、分かりました」


 人だかりの視線を受けつつ、自分はオリズさんに肩を貸したまま、オリズさんの案内にしたがってオリズさんの自宅を目指す。


「そっの、通りを、右じゃ」


「はい」


 酔いが抜け切っておらず千鳥足のオリズさんに肩を貸し続けるのは少々しんどいが、それでも何とか前へと進んでいく。


「所で、お主、わっちの名前を知っていたが、一体何者じゃ? わっちの、ファンか?」


「いえ、自分は、ボルスの酒場のマスターの知り合いで……」


「あぁ、あいつの知り合いじゃったか。で、そのお主が何でまたわっちを助けた? あいつに様子を見てきてくれと頼まれたか?」


「いえ、散策していたら偶々」


「そうかい」


 ボルスの酒場のマスターの知り合いと告げた瞬間、オリズさんの表情が少しばかり険しいものへと変わる。

 昨晩のやり取りを思い出したからか、それとも別の要因か。何れにせよ、少しばかり重苦しい空気が漂う。


「次の角を右に曲がって真っ直ぐ行けば、わっちの家はすぐそこだ」


 王都内に上流階級地区が有るのならば、その下位に当たる中流や下流と言った地区もまた存在する。

 そして、オリズさんの案内で足を運んだのは、そんな中流と下流の境目とも呼べる地区の一角だった。

 上流階級地区の様な豪華で優雅な建物も人も見られない、むしろ、覇気のない表情や薄汚れた服を着た人々よく見かける。そんな場所だ。


 絶頂期のオリズさんが如何程の場所に住んでいたかは分からないが。少なくとも、今のような治安的にも衛生的にもあまりよろしくはない、この様な場所では無いことだけは確かだ。


「ここじゃ、ここがわっちの家じゃ」


 そんな一角に建てられた、特に特徴もない一軒家。どうやらここが、オリズさんの現在の自宅のようだ。

 外観は何度も確かめるまでもなく、薄汚れ手入れが行き届いていない事は明白なほどのオンボロ一軒家ではあるが。一応、雨風はしのげそうだ。


 酔っているからか中々鍵穴に鍵が入らないことに苛立ちながらも、何とか鍵を開けたオリズさんは。家の中へと足を踏み入れると、借りていた自分の肩から手を放し、千鳥足でベッドに直行する。


 そして、倒れこむようにベッドに飛び込んだ。


「おぉ、ベッドじゃ、ベッド」


 直ぐにでも夢の中へと旅立ちそうなオリズさんを他所に。自分は、少しばかり興味が引かれ、家の中を見渡していた。

 一人暮らしだからか、あまり整理整頓が行き届いていない家の中は、占いに関する書籍や占いに使用する道具と思し物が多数散らばっていた。


 なお、外観からして隙間風が厳しいかとも思ったが、それ程家の中の気温は低いわけではなかった。


「おぉ、世話をかけたの。助かったわい」


「あ、いえ。それじゃ、自分はこれで失礼しますね」


 自宅に送り届け自分の役目を終えたので御暇しようかと思った矢先、半ば夢の中へと旅立ちかけたオリズさんから声が飛んでくる。


「おぉ、そうじゃ。お主の名前、聞いとらんかったの? お主、名は?」


「ショウイチです。自分の名はショウイチと言います」


「そうか、そうか、あいわかった……」


 ちゃんと分かってもらえたのかは分からないが、兎に角自分の名前を名乗り終えると、オリズさんの家を後にする。

 と、家を出たところで幾つかの視線が注がれている事に気がつく。

 この様な場所に自分のような格好の人間は不釣合い、とは言い切れないとは思うのだが。ここの地区の者からすれば物珍しいのだろうか。


 それとも、オリズさんの家に来客があったと言う事が珍しいのだろうか。


 もし後者なら、オリズさんは今天涯孤独の身なのだろうか。

 もしそうならば。


「……よそう」


 と悲観的な考えを払拭するように頭を振るうと、相変わらず注がれる視線を気に留めつつ、新たな厄介ごとに巻き込まれる前にこの地区から出るべく足を進めた。

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