最初の第一歩 その7
「……ん、あ?」
ランプの灯りにしてはやけに刺さるような光を感じ、いつの間にか閉じていた瞳をゆっくりと開ける。すると、窓から日の光が部屋の中へと燦々と降り注いでいた。
どうやら、ベッドで寝転がってゲームをしている内に眠気に勝てずに眠ってしまったらしい。
「ったく」
とりあえず体を起こし自称万能携帯端末の電源を切ると、いつもと異なる態勢で寝た為に変に固まってしまった筋肉を和らげるべくストレッチをしようとベッドから降りた。
そんな時だった、片足が何かに躓いた。否、足をぶつけたと言ってもいい衝撃が足指から神経を通じて全身に走る。
刹那、寝起き直後の鈍い頭の回転にまさに喝を入れられるかのごとく、眠気もなにもかも一瞬にして吹き飛んだ。
「っ! あ、痛っ」
もはやお決まりの体勢のごとく、片足で軽く跳ねながらぶつけた足を手でさする。
一方で、視線を動かして一体何に足をぶつけたのかと探る。すると、ベッドの脇には昨日までなかった木箱が存在していた。
それは昨日現れた鎧一式が入っていた木箱とは形状が異なる、縦長の形状をした木箱だった。
昨日までは確かにその場に木箱はなく、まるで寝ている間に突然現れたかのようなこの木箱。ということは、間違いないだろう。
足の痛みに耐えながらもその口元は、気が付くと不敵な笑みを浮かべていた。
程なくして足の痛みが引くと、新たに現れた木箱を開けやすいようにと部屋の中央へと移動させる。
この木箱の中身が一体何なのか詳細な予想は出来ないが、機能の一件を考慮すると大まかな予想は付く。
「さて、ご対面といきますか」
一旦深呼吸し焦る気持ちを落ち着かせると、ゆっくりと木箱に手をかけ、蓋を開ける。
「おぉ、すげぇ……」
蓋を開け木箱の中から姿を現したのは、自身の身の丈ほどはあろうかと思われる巨大な剣だった。
それは長剣とは異なる、鞘に納められていても分かる程厚さと幅のある刃の部分。まさに読んで字の如く大剣というに相応しい品物だ。
「あ? 案外軽いな」
しかも、手にしたその大剣はその見た目に反してかなり軽く。持とうと思えば片手でも持てそうな程だった。
もっともそれは持つだけならの話であり、これを短剣のように片手で振り回せるかと言われれば、現時点では無理だろう。それに、片手で不安定になるよりもやはり両手で安定した使い方の方が良いだろし。
なお、大剣に目が奪われがちではあったが、一応木箱の中には他にも投げナイフが数本収められたベルトも入っており。
こうして念願、とも言うべき武器を手に入れた喜びにひとしきり浸り尽くすと。楽しいひと時の終了を告げるかのように鳴り響く腹の虫に促され、必要最低限のものを持って部屋を後に一階へと向かう。
「何かいい事でもあったのですか、ショウイチさん?」
定位置となりそうなカウンター席でもはや定番になりつつある食後のコーヒーを堪能していると、突然マスターからそんな言葉が飛んできた。
「へ?」
一体どうしてそんな事をと思っていると、マスターは自分の顔が嬉しそうな表情を浮かべていたからと説明を加えてきた。
どうやら無意識の内に、自身の溢れんばかりの気持ちが表情に出ていたらしい。
「いや、あの。まぁ、色々。あはは……」
適当に言葉を濁してその場をやり過ごすと、残っていたコーヒーを飲み干しお勘定を手早く済ませ、部屋へと戻る。
因みに、後からマスターに聞いた事だが、どうやら気持ちが表れていたのは表情だけではなかったようだ。部屋へと戻るその足取りにも、無意識のうちに表れていたらしい。
部屋に戻ると、早速支給品である皮製の胸当てや剣等に別れを告げ、新たに手に入れた特典品の数々を身に纏っていく。
鎧一式を着込み、大剣や投げナイフベルトを装備する。そして、動かした際の着心地などを確かめると、まるで自分の体格を測って作られたのかと言うほど自分の体に違和感なく動かせる。
更に大剣を鞘から抜き両手で構えると、その力強く凶暴な大剣を数度素振りしその感覚を確かめる。
「ふ、ふふっ」
そして一通りの確認を終えると、まだ見ぬ明るい未来を勝手に想像しながら、一人不敵な笑みを浮かべた。
この装備を手にした自分にはもはや怖いものなどない、恐れる心配など何もない。今日からこそ、エルガルドにおける素晴らしい人生が始まるのだ。
そんな未来予想をしながら、ギルドへ向かおうと準備を進める。
「今日から無双が始まる。ふふふ……」
不気味な一言を残し、部屋を後に一路ギルド目指して足を進め始める。
因みに、兜が無かったのは仕方がないと諦められたが、背中が寂しいのは何とかなるだろうと考えた結果。鎧一式を包んでいた黒い布をマント代わりにしてみた。
黒一色で統一されたその姿は、部屋で見た時には心をくすぐられたのだが。ギルドに行く途中で窓に映った鮮明な姿を見た時には、少し恥ずかしいかもしれないと思ってしまった。
日が昇り、天高く上った太陽がその姿を地平線の向こうへと沈ませようとする頃。いつぞやの如く悲鳴を上げる体を引きづりながら、ギルドへの扉を潜る。
肩で息をし、額から間欠泉の如く噴き出す汗は滝のように顔を流れる。前回同様衣服には小さな傷が出来鎧の各所にも傷が目立つ、そしてすでに限界寸前であった。
朝思い描いていた未来予想図とは真逆の現実に、もはや自身の考えの甘さを痛感せずにはいられなかった。
やはり、理想と現実は違う。
意気揚々とギルドの門を潜り、前回同様の下級スライム種の討伐依頼を受領した後。前回一度行った場所であると高を括り、楽勝などを独り言を漏らしながらも出向いたのが朝の事。
前回と同じ森に足を踏み入れ、獲物を狩る狩人の如く下級スライム種を探し回り数匹を新たな相棒たる大剣で、まさに軽く仕留めたのが昼頃の事。
そして、もはや最低討伐数は達成しているにも拘らず、調子に乗って森の深くまで足を踏み入れてしまう。この選択こそまさに最大の失敗だった。
新たに手に入れた装備の性能を過信し、側だけが強くなった事に気付いていなかったのだ。
故に、その後はもう大変だった。
森の奥まで足を踏み入れ、その後下級スライム種を新たに数匹発見し仕留めたのだが。その頃になると、流石に軽いと言っても大剣を振り回すにも腕が限界に達しようとしていた。
なのでそろそろ切り上げようかと思った矢先、仲間の仇土とばかりに集まった下級スライム種の大群に遭遇する事に。
流石に大群を相手には出来ないのでその大群から逃げるように走っていると、今度は下級スライム種とは別の害獣、まるで猪のような見た目をした害獣に遭遇。
そこからはもう森の中を右へ左へ、逃げて逃げて逃げまくって。そして森を抜け気が付くと、空が暁色に染まっていた。
「では、こちらが成功報酬となります」
カウンターで証明を提示し手続きを済ませると、前回よりも幾分増した報酬を受け取りもはや用は済ませたとギルドを後にしようとした。
だが、今日はそのまま門を潜る事はしなかった。途中で踵を返すと、そのまま今まで立ち寄らなかった飲食スペースへと向かう。
今までのようにボルスの酒場で食事をとるのもいいが、やはり現在の収入状況を考えると節約できるところは節約した方がいい。そんな考えから、今後はギルドでも食事を取ろうと決めた。
同業者、とも言うべき人々が各々に宴や反省会を開いている中、一人空いているテーブルを見つけると。メニュー表の紙と睨めっこを始める。
程なくして注文の品が決まると、近くを行き来するスタッフを捕まえ注文すると、後は料理が運ばれてくるのを待つ。
「そういえば聞いたか。マレグの野郎、またとちったらしいぞ」
「またあの『足かせマレグ』の野郎が、そりゃパーティーを組んだ奴らも気の毒にな」
「まったくだ。俺ならどれだけ大金を積まれたってあいつと組むなんて御免だね」
その間にも、近くにの同業者の他愛もないであろう会話に耳を立てる。
だが、思っていたよりも早くスタッフが注文した料理をテーブルへと持ってきたので、結局少し耳を立てただけで終わる事に。
「さてと、ギルドの味。いただきます」
料理に手を付け始めてふと思う。そういえば、エルガルドに来てからボルスの酒場以外の味に触れるのはこれが始めてだなと。
安いからと言って味が悪いと言う方程式は必ずしも当てはまるものではない。そんな言葉が似合うかのような味に舌と胃を満足させる。
そして、会計を済ませると長居する事もないので道草を食う事もなくギルドを後にボルスの酒場へと足を運ぶ。
「おや、ショウイチさん今日は随分と遅いお帰りですね」
「あ、今日はギルドで済ませてきたんでちょっと……」
「そうですか。では、もうこのままお休みに?」
時間帯から言ってもまだまだ宴が終わる事のない店内、そんな忙しい中でもマスターは声を掛けてくれる。
そんなマスターの気心に、このまま部屋に帰ってベッドに直行。というのも少しばかり気が引け、空いているカウンター席に腰掛けると一杯のコーヒーを注文する。
こうして少し時間の空いた食後の一杯を堪能すると、マスターとの談笑もそこそこに自分の部屋へと足を運ぶ。
「はぁ、疲れた」
部屋に入ると共に、今日一日の疲れをため息とともに吐き出すかのように吐き出すと、装備を外し始める。
寝やすい服装になると、そのままベッドへと倒れ込むように寝転がる。
襲い掛かる眠気に身を委ねたかったが、ランプに照らされ薄暗い天井を眺めながら、少しばかり考えを巡らせる。
それは、このエルガルドの過酷な世界に対応できる体作りや剣の技術の向上などについてだ。明日からは、鍛錬なども行っていこう。
考えがまとまると、瞳を閉じ、眠気に身を委ね夢の世界へと旅立つ。
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