味噌と薬草 その7
「それじゃ、先ずはこの場所でキキ草を探すか。皆で手分けして探すぞ」
「はい」
「ラジャー!」
「了解っす」
松明の火を消し事前にシャガートさんから手渡されたキキ草の複写が描かれた紙を片手に、それぞれがキキ草を探すために行動を開始する。
「ほほ、皆様、頑張ってくださ……」
「君も探すんだよ」
「は、はい!」
だと言うのに、一人だけ探す気がない骨野郎がいる。なので、少しばかり黒いオーラを含んだ笑顔で優しく説くと、どうやら分かってくれた様で慌ててキキ草を探し始めてくれた。
と言っても、やはり面倒臭さが抜けきらないのか、フェルの背に跨りながら探している。ま、探してくれるだけ良しとしよう。
こうして手分けして探し出し、そう直ぐには見つからないかとも思われていたが、意外なことにキキ草は直ぐに見つかった。
これは幸先が良いかとも思ったが、やはりそう簡単に事は進まないもので。見つけたとは言っても今回必要とする量にはまだまだ足りていない。
「まだ奥にも続いてるし、奥も探すか」
なので、もっとより多くの量を確保すべく更に奥へと続く道を進むことを決め。本来は遺跡の内部へと続く為の通路であったのだろう道を進んでいく。
壁や天井が崩れ松明が不必要なのは助かるが、しかし足場が多少不安定であるのが唯一の欠点か。
出来ればこんな場所では害獣と遭遇したくはないな。と思っていると、そんな思いに応えなくてもいい時に限って害獣がその姿を現す。
カルルやフェルが声を挙げ、自分達の前に姿を現したのは、スライム種であった。
が、その姿は見慣れた半透明の半固形状のそれではなく、まるでその身を守るかのごとく兜を被っている。
「ちょっと面倒だな」
大剣を振るうにも援護してもらうのも適さない場所での遭遇、投げナイフを短剣代わりにして戦えるが兜を被っているので倒すのは容易く出来ることではない。
が、倒さなければ先に進めないので面倒でも何でも片付ける。
幸いと言うべきか姿を現したのは一体だけなので、この一体を倒せば問題は直ぐに解決だ。
「ちょ、くそ!」
なんて、少し楽観的に考えていた自分を叱りたい。
多少苦労はしたがあの兜を被ったスライム種を倒した矢先であった、おかわりの如く一匹また一匹と現れたのは。
兜を被った個体とそうでない個体、合計で十匹のスライム種を相手に投げナイフを短剣代わりに振り続け、肩で息をしながら何とか全て倒すことに成功する。
「疲れた……」
疲労感を口から零しながら、更に先を進むと、再び開けた空間へと出る。
かつてはこの場で何らかの儀式が行われていたのであろうか、奥には一部崩れてはいるが祭壇のような物が見られる。
そして、その祭壇に祭られるかのごとく、崩れた天井からピンポイントで日の光を浴び自生する大量のキキ草の姿も見られる。
本来なら祭壇の脇から更に奥へと向かうことが出来るのだろうが、残念ながら今は天井が崩れたおかげで進むことが出来なくなっている。
「どうやらここが最深部のようですね」
「そうみたいだ」
遺跡としては随分と短いが、既に人の手が入らなくなって久しい事を考えるとこれだけ残っているだけでも相当のものだと思う。
もっとも、このまま人の手が入らなければ何れはこの空間も潰れてしまうのだろうが。
「さてと、それじゃキキ草の採取の前に安全を確保するか」
などと感傷に浸るのはここまでにしよう。ここからは、本業らしく害獣駆除の時間だ。
背の鞘に手を回し大剣を抜いて構える。そしてその剣先を祭壇を守るかの如く立ち塞がる複数のアンデッド系に向ける。
相変わらず肉が爛れ骨が丸見えではあるが、今更その姿に怖気づく事もない。
「レオーネ、援護は任せるぞ」
「了解っす!」
自分と同じく既に臨戦態勢であるレナさんと共に、一気に駆け出し互いの大剣をその腐った体に振りかざしていく。
広さもあり通路とは異なり足場もしっかりと整地されているので草原などと変わらず戦うことが出来る。
とは言え数の差はあるので、油断すれば致命傷を貰うかもしれない。
「っ!」
などと思っている傍から、一体の背に隠れ死角に潜んでいたもう一体から剣を振るわれる。
何とか大剣で受け止めるも、急な体勢の変更に反撃への移行が出来ず膠着状態に陥る。
が、次の瞬間、自分を殺そうと殺気に満ちた醜いアンデッド系の顔に一本の矢が飛来する。吸い込まれる様に眉間の間を貫いた矢、その勢いに飲まれるように、アンデッド系はのけぞりながら倒れこんだ。
当然、その再び動き出すことはなかった。
「大丈夫っすか、ショウイチ」
「あぁ、助かった」
声のする方へ振り返れば、予想通り次の矢を矢筒から取り出しているレオーネの姿があった。
レオーネに援護の感謝を伝えると、再び視線を前へと戻す。と不意に、レナさんの事が気になりレナさんの方へと視線を向ける。
と、一体のアンデッド系が見事なまでに吹き飛び壁に打ち付けられていた。その犯人は当然、自身の大剣を振りかぶったレナさんである。
「あれなら大丈夫だな」
流石はレナさんと言うべきか、豪快に戦いながらもその姿はまさに戦乙女の名に相応しい美しさだ。
と、レナさんの姿に見とれてる場合じゃなかった、まだアンデッド系全てを倒していないんだ、今はアンデッド系を倒す事に集中しなければ。
「ふぅ、片付いたな」
眼前に広がるのは先ほどまでアンデッド系達の体の一部であったものだ。真っ二つ、バラバラ、原形を残しているものもあれば無残なものもある。
大剣に付いた血を布で拭き取りながら、生き残りがいないかを確認するが、特にいないようだ。カルルもフェルも何も言わないところを見るに、全て片付いたようだ。
綺麗に血を拭き取った大剣を背の鞘に収めると、遠慮なく祭壇に自生するキキ草を採取する。
「よし、これで必要な量は採取できたな」
「では、これで依頼は達成ですね」
「なら早く帰るっすよ。また害獣が現れる前に」
採取したキキ草を麻袋に入れ、それを冒険者鞄へと入れると、再び害獣に出くわす前にこの洞窟を出るためにもと来た道を引き返す。
幸いな事に帰りは害獣に遭遇することなく、あの真っ暗な一本道まで進むことが出来た。
その真っ暗な一本道にしても、あと少しで出入り口が見えてくる筈だ。




