味噌と薬草 その5
必要最低限の家具などはさておき、肝心のベッドが三つしかないのだ。
リッチ4世さんとフェルは省エネモードなので頭数に入れなくても問題ないが、自分とレナさん、そしてカルルにレオーネと、四人で三つのベッドを分けなければならない。
一人一つのベッドとなると、必然的に誰か一人がベッド以外の場所で寝る事になる。
「よし、自分は床で寝るからレナさんにカルル、それにレオーネはベッドを使ってくれ」
ならば、ここは自分が率先して身を引くことにしよう。そうすればこの問題は解決だ。
「あ、そうっすか、なら遠慮なく使わせてもらうっす!」
「おいおい、そこは嘘でも一言遠慮するって意思表示はないのか」
「なに言ってるんっすか。折角譲ってもらうんだから遠慮なんかしてちゃ駄目っすよ!」
ま、あまりにあっさりと受け入れいられてしまうのも少し悲しくはあるが。
「でしたら、ショウイチさん。ショウイチさんこそベッドを使ってください、床で寝るなんて駄目ですよ。私が代わりに……」
「そんな! それこそ駄目だ。レナさんは女性なんだからちゃんとベッドで寝ないと」
「床で寝ることは初めてではありませんから大丈夫です。それに、ショウイチさんよりも多くの死線をくぐっているんです、女性だからと甘やかさないでください」
しかし、自分の考えに反してレナさんは上辺だけと言うことなく、本気で自分が床で寝ると言い始める。
「ならオイラが床で寝る! だからショウイチ、レナお姉ちゃん。二人はベッドを使ってよ」
しかもカルルまでベッドを譲り始める始末。
「駄目だ、カルル。カルルはまだ小さいんだからちゃんとベッドで寝ないと」
「でもオイラ、もう立派なパーティーの一員だぞ! だから皆の事考えて少しくらいの窮屈や我慢は出来る!」
カルルの精神的な面での成長ぶりに内心嬉しさを覚えつつも、だからと言ってカルルの言葉に甘えると言う訳ではない。
レナさんとカルル、二人を説得して自分の提案を飲ませようとするも、二人は頑なに首を縦に振ろうとはしない。
「えっと……、ここは俺も遠慮しますって言った方がいいっすか?」
「急に気を使わなくて良い」
そしてここにきてレオーネまで二人に触発されたのか、変に気を使い始めた。
このままでは一向に事態が進展しない。
そう考えたので、とりあえず一旦落ち着きを取り戻すために先ずは不必要な荷物を置いて夕食を食べることを提案する。
まぁ、見方によっては問題の先延ばしにしかならないのだろうが、夕食を食べている間に妙案を思いつくかも知れない。
「そうですね。先ずは夕食を済ませましょう」
当然と言うべきか、この提案にはレナさんもカルルも特に異論を唱えることもなく。不必要な荷物を部屋に置いた自分達は、一路宿屋を後に飲食可能な店を探す為町へと繰り出す。
程なくして見つけた酒場へと足を踏み入れると、地元の住人や旅人等で賑わう店内で今晩の夕食を取り始める。
折角の夕食時なので気分を害するかも知れない先ほどのベッドの話題には触れないように話を交わしながら、頭の隅では何か妙案がないものかと頭を回転させる。
が、なかなか妙案となるものが思い浮かばず。結局、夕食を取り終えて宿屋へと戻るまでベッドの問題の解決となる妙案は思い浮かばなかった。
こうして再び大部屋へと戻ってきた自分達は、いよいよベッドの問題に片を付けなければならない場面へと迫られる。
「そうだ皆様、どうでしょう。この際ですから、全員で床に寝ませんか?」
とそんな時であった。リッチ4世さんの口からとある提案が飛び出したのだ。
「全員で寝る?」
「そうです。必ずベッドで寝なければならないと言う決まりはありません。ならば、折角広い部屋ですので、このスペースを利用して全員で寝れば万事解決です」
珍しくとても良いことを言ったリッチ4世さんに少なからず見直しながら、自分はリッチ4世さんの提案を支持する。
すると他の皆もこの提案には賛成らしく、こうしてベッドの問題はこれにて解決することになった。
問題が解決すれば後は実行するのみ。全員が寝られるだけのスペースを確保すると、ベッドから掛け布団等を取り除き床に敷いていく。足りない分は自前の毛布などを使う。
こうして寝られる準備が整うと、後は寝るだけ。と言っても、自分は基本的に着ている鎧を脱ぐだけだが、レナさんは寝間着に着替える為に部屋の隅へと向かう。
「ではでは、私は少しばかりお手伝いに……」
その後に当然の如く付いて行こうとするリッチ4世さん。もはや先ほどのプラスが一気にマイナスに転じるほどの、いや、いつも通りと言えばそうなのだが。
さて、そんなリッチ4世さんをレオーネに任せると、自分は大き目の布を手に取り着替えるレナさんの為に目隠しを作る。
後ろからは「ショウイチさんだけずるい!」などとどこぞの骨の声が聞こえてくるが、視線の高さよりも高い位置に布を広げているのだから見える訳がない。
ま、本心を言えば、いやなんでもない。
「ありがとうございます」
そしてレナさんの着替えも終わったところで、布を片付けいよいよ後は寝るだけとなった。
「それじゃ、おやすみ」
全員が横になったのを見届けると、ランプの明かりを消し自分も掛け布団をかけながら体を横にする。
ベッドの枕は他の三人が使っているので自分は毛布で作ったものだが、特に文句はない。
「……あの、ショウイチさん」
だが、どうやら文句がある者が隣にいるようだ。小声で声をかけてきたのは誰であろう、リッチ4世さんだ。
「ん?」
「何故提案者である私が真ん中ではないのですか」
「そりゃ、レナさんの隣にいたら何するか分からないからな」
「そんな失礼な。私は紳士ですよ。レナさんにナニをするなどと、そんな事はありません。ふんすっす」
もはや口調からして信用できない。やはりレナさんの隣にしておかなくて正解だったな。
因みに、自分たちはカルルとフェルを真ん中にして川の字のように寝ている。カルルとフェルを真ん中に自分とレナさんが続き、外側にレオーネとリッチ4世さんが位置している。
「明日も早いんだ。もう寝るぞ」
「う、うぅ。切ないです、シクシク」
いつまでも効果音を自分で付けているリッチ4世さんの意見を聞いているわけにもいかず、適当なところで話を切り上げると意識を夢の世界へと旅立たせる。
なお、リッチ4世さんにも紳士としてのプライドがあるのか、全員が寝静まってからレナさんに忍び寄るなどと言ったことはしないようだ。




