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銀河戦國史 (紫雲の名将アクセル ―カーリアの仰天―)  作者: 歳超 宇宙 (ときごえ そら)
9/13

なんでこうなるのよ

 タキオントンネルを使い秘密裏に移動した第五艦隊は、カーリア王国の首都であるガンガー星系に、数時間もあれば到達出来る宙域に遊弋していた。明らかに、カーリア王国解放作戦の第2弾を敢行する体勢だ。少し前に、4個艦隊で臨んで大敗を喫した作戦を、たった1個艦隊でやろうとしている形勢だ。無謀だ。無茶だ。誰もがそう思うような作戦だ。

 だが、第五艦隊の兵士全員が、(やってやる!)という意気込みで、次の命令を待っていた。誰が無謀だの無茶だのと言おうとも、我らが艦隊司令長官、アックス提督がやれと言うのだから、成功するに違いない。疑う必要も無い。やるだけだ。そう思われるだけの人望が、アックスにはあったのだった。

 マヤも思っていた。このあほ男の作戦の上でなら、ここで死のうとも本望。だが、必ず成功する。カーリア王国は解放され、ヴォーラル公国は攻略され、銀河連邦軍は勝利し、銀河には平和が訪れる。アックス提督には、そんなみんなの願いを実現する力がある。間違いない!

 そんな決意と意欲に漲る第五艦隊の強者どもが、またしても驚愕に陥れられた。そんな報告が、続々ともたらされたのだ。

「カーリア王国に駐留していた敵の、全艦隊が出撃した模様!ワナ-チウ連星系やオグサルラ星系を始めとした、カーリア王国とヴォーラル公国の間にある遊離星系に向かっていると思われます。そういったスペースコームジャンプの兆候が、検出されました。」

「敵さんは、我々が既に引き払っているのを知らずに、遊離星系奪還に向かったのですね。」

と言うマヤに、

「本領攻撃が、相当応えたんだろうね。」

と、アックスは返した。「降伏まではさせられなかったが、カーリア王国に温存されていた二個艦隊を引っ張り出す事には成功した。これ以上本領攻撃を繰り返されてはたまらないと、矢も楯もたまらず、艦隊派遣を決めたんだろう。」

「戦争継続を決めたからには、遊離星系からの本領攻撃を阻止する事が、何を差し置いても、緊急の課題になりますものね。ヴォーラル公国としては。」

 そんな会話から半日が過ぎた頃に、

「敵艦隊進発の十数時間後、呼吸を合わせるかのように、カーリア王国内の多数の星系でレジスタンスが一斉蜂起!ヴォーラル軍の守備隊は全ての星系において劣勢に立たされ、幾つかの星系においては壊滅・殲滅・投降に至っている模様!」

との報が。更に報告は続いた。

「カーリア王国の首都、ガンガー星系に残っていた敵残留部隊も、レジスタンスの猛攻に恐れをなしたか、雲の子を散らすように遁走しました!」

「カーリア王国全領域において、レジスタンスが勝利を宣言!ヴォーラル公国軍は総崩れの様相です。」

「カーリア王国国王が、独立の回復と親征の再開を宣言し、連邦軍艦隊の首都宇宙港への入港を歓迎すると伝えてきました!」

「え?え?え?・・何これ?・・何が、どうなってるの???」

 マヤは驚きの余りにオロオロの体だ。幕僚達も皆、何が何だかわからないという顔だ。彼らが何もしない間に、積年の念願だったカーリア王国解放が、成し遂げられてしまったのだから。

「我々が解放に向かう前に、カーリア王国は自力でヴォーラル公国の頸木を解き放ったようだね。ヴォーラル公国によるカーリア王国支配は、今この時をもって終焉したのだ。」

 アックス提督の座乗する第五艦隊旗艦の指令室で、居合わせた幕僚達は全員、ぽかーんと呆気にとられた顔をしていたが、それを尻目にアックスは指令を下す。

「敵影なき連邦構成国カーリア王国の首都、ガンガー星系に、戦闘配備に就く事も無く、入港を開始!」

 一個艦隊でのカーリア王国解放作戦に、艦隊の兵員達は皆、気合を漲らせていたのだが、その作戦の目的は、作戦発動の前に達成されてしまった。連邦の作戦によってではなく、カーリア王国国民が自力で独立をもぎ取り、その国に、ただ単に表敬訪問するだけの行動となった。一兵も損なうことなく、ヴォーラル公国攻略の為の兵站基地を、連邦軍が獲得した事にもなる。

「あの・・、提督、・・これはいったい、・・何がどうなって・・」

 混乱する頭を振り振りしながら、マヤはアックスに尋ねた。

「ヴォーラル公国が、カーリア王国に駐留させていた艦隊を、遊離星系奪還の為に出撃させたことに関しては、理解できているだろう?」

とアックスは、マヤを始め、混乱を露わにしている幕僚達に語り始めた。

 その間にも、ガンガー星系第3惑星の衛星軌道上に建設された宇宙港に、アックスの座乗る旗艦はその身を滑り込ませていた。艦隊中の他の艦船も、ガンガー星系内に分散して、いずれかの惑星の軌道上港湾施設にその身を預けようとしている。

「ええ。先ほども話題に上りましたが、我々の本領攻撃により、国内世論に大きな動揺が広がっているヴォーラル公国が、それでも交戦継続を決めたからには、本領攻撃を阻止する為の遊離星系の奪還は、公国にとって必須且つ緊急の課題になったはずです。」

と、マヤは答えた。

「遊離星系の奪還に踏み切るからには、敵が全ての遊離星系を一斉に奪還しようとするだろうという事も、簡単に想定できる。分かるよね?」

「・・そうですね。一つ一つ奪還していたら、ひとつの星系を攻撃している間には、近くの、攻撃を受けていない別の星系に逃げられて、他の星系に軍を振り向けたとたんに、またすぐ、再征圧に戻って来られてしまうという、イタチごっこになる可能性が高いですからね。本領攻撃を早急に阻止したい敵としては、全ての遊離星系を、一斉に抑える必要がありますね。それは分かります。」

 受け答えを繰り返す内に、マヤは徐々に落ち着きを取り戻して来た。

「一つ一つの遊離星系の防御力は低いが、一斉に奪還しようとすれば、敵は相当な大戦力を繰り出さねばならなくなる。しかし、敵本領からはそれだけの戦力は出せない。敵情収集によって、その点は確信できていた。だから敵は、カーリア王国の駐留部隊を繰り出すしかない。しかも、カーリアに駐留している敵の二個艦隊は、先の戦闘で少なからぬ損害を出していたから、カーリアの占領を維持するための、従来からの駐留部隊も、相当大規模に駆り出して来なければ、遊離星系を一斉に奪還する事は出来ない。」

 アックスは幕僚達を見回し、続けた。

「実際カーリア王国のレジスタンスからの情報や、ヴォーラル公国本領に関する情報を総合して検証した結果、敵軍がカーリア王国中の戦力をかき集めて、遊離星系奪還に打って出ようとする動きがある事が分かったので、カーリア王国が一時的にがら空きになる事が予測できたんだ。」

「で、そのタイミングで、カーリア王国のレジスタンスに、一斉蜂起してもらったんですか?」

「してもらったっていうか、彼らから伝えられた情報を総合して判明した、敵軍の遊離星系奪還作戦の時期、つまり、カーリア王国内のヴォーラル公国軍が手薄になる時期を、レジスタンスにフィードバックしたら、彼らが自主的に一斉蜂起を決行したのさ。」

「それは・・それが彼らの存在理由ですからねぇ。祖国解放を目標に、命がけで活動して来たのがレジスタンスですから、敵戦力が希薄になる時期を知れば、行動に出るのは当然です。でも・・、」

と言いながらマヤは、ようやく状況が飲み込めて来た、といった顔つきになって来た。「提督は、カーリア王国のヴォーラル公国軍戦力が遊離星系奪還に向かえば、レジスタンスが一斉蜂起してカーリア王国の解放が達成されるだろうという事は、予測していらしたわけですね。そして、敵本領攻撃を実施すれば、カーリア王国に駐留している戦力を、ヴォーラル公国が出動させざるを得なくなる事も。」

ここへきて、マヤの視線には、鋭さが見て取れるようになって来た。

「つまり提督は、連邦首脳からカーリア王国解放について考えるように要請された時には、全くその事には興味が無いような顔をしていたくせに、実はその時から、カーリア王国解放の為の計画を進めていたという事ですね。私たちには内緒で。」

「え・・?あ・・いや・・」

「考えの全てを、副官に話せない事は理解しますけどねぇ、3年間も健気に仕えて来た副官に、それだけの凄い考えがあるという事を、暗にほのめかすくらいの事さえ、してくれないなんてねぇ、ねぇ、レイア軍曹。どう思う。」

「そうですねぇ。それは冷たいですよね。連邦首脳の要請に応えない事に、私たちもやきもきしていたのですから、具体的な内容までとは言いませんが、考えはあるんだと、ひと言くらい伝えて頂いても、良かったのではないかと思いますよねぇ。」

「あ・・う・・え・・ええ?」

といった感じで、副官2人の追求に、しどろもどろの体をなして来たアックスをそのままに、マヤは続けた。

「それにしても、こんなにあっさりレジスタンスが勝利できるものなのですね。いくらヴォーラル公国軍が手薄になったとはいえ、敵だって、レジスタンスを抑えておくのに必要な戦力の見積もりくらい、出来ないはずはないでしょう?不思議に思えます。」

「・・ああ、まぁ、それは・・、彼らレジスタンスの装備が、ヴォーラル公国軍が思っていたよりはるかにレベルアップしていたからだろうね。連邦軍の最新式の兵器を、敵の知らぬ間に、レジスタンス達は手にしていたからね。」

「・・知らぬ間に手にしていた、と、おっしゃいますが、提督が連邦の兵器を、彼らに横流しされたのではありませんか?パリレオ星系第1惑星で、一緒に牛丼を食べながら、各遊離星系の住民代表達に、レジスタンスへの兵器の供給の仕方について相談していたのではありませんか?」

「えっ?何でそれを・・。」

「要するに、レジスタンスによるカーリア王国解放は、最初から最後まで提督が裏で手を引いていたという事ですよね。そしてその事を、私たち副官は何も知らせてもらえていなかったと。」

「う・・うう・・うっ・・うっ」

 マヤはそこから、しばらく考えをまとめる様に間を取った後、更に眼光を鋭くしてアックスに切り込んでいった。

「ここまでの展開は、四個艦隊でのカーリア王国解放作戦が、連邦軍首脳によって計画され始めた時から既に、計算していたのではありませんか?レジスタンス全体に、我々の兵器が行き渡るには、それなりに時間がかかるはずですから、かなり前からこうなる事を予測して、彼らへの兵器の供給を始めていたっていう事ですよね。遊離星系に関する情報収集や、住民代表者との面会等を、早くから私に要請していましたけど、それも、遊離星系を制圧して輸送経路遮断作戦を実施する為だけでなく、カーリア王国内のレジスタンスへの、兵器供給ルートを開拓する事も目的だったんじゃないですか。第五艦隊も参加する事で、解放戦の背後を突く敵に備えるという事だけを私たちには伝えて、私たちの知らない所で、カーリア王国のレジスタンスの武装強化を図っていたのですね。」

次第にマヤの声色には、呆れ返ったような感情までが込められて来た。何か、自分達には教えていない策略があるのだろうとは、常々思っていたが、そんなにも以前から、それほどまで壮大な戦略を立てていたとは。そしてそれを、自分達には僅かにも知らせなかったとは。

レイア軍曹もそれを聞くと、

「えーっ!マヤ少尉が遊離星系に付いて調べ出した頃からっていう事は、連邦軍のほとんどの人が、四個艦隊でのカーリア王国開放が成功すると確信していた時期って事ですよ!その頃から、レジスタンスへの兵器の供給ルートを考えていたって事は、四個艦隊の作戦の失敗に備えるどころじゃなくて、レジスタンスの一斉蜂起によるカーリア王国解放を、メインとして考えていたっていう事ですよね。そんなに早くから、そんなにも巧妙なカーリア王国解放策を考えていたのに、私たちには何も考えが無いように、装っていたわけですよね。」

と言い、マヤに負けず劣らずの呆れ顔を見せつけた。

「え?ええ・・?いや・・、四個艦隊でのカーリア解放は、成功して欲しいなぁと、思ってはいたよ。でも万が一、思い通りにならなかった場合の策も、一応は考えて置かない訳にはいかないよね?万が一に備えて、レジスタンスを強化しておいてもいいかなって、思っただけだよ。そこまで深い考えが、当時からあったわけじゃないんだよ。」

「どうですかねぇ。少なくとも、成功しない可能性の方が高いとは思っていたんでしょ?パリレオ星系を始め、遊離星系攻略の手際の良さから考えても、四個艦隊でのカーリア王国解放が失敗する事を予測していただけではなく、失敗を確信した上で、レジスタンスへの兵器供給を進めていたし、その後の、ひたすら輸送経路遮断ばかりやっていた時期にも、兵器分配の進捗を確認したりして、一斉蜂起のタイミングを探っていたのではないですか?」

との、マヤの推論を受け、レイア軍曹も、

「そう言う事になりますよねぇ。連邦軍首脳から、輸送経路遮断なんていう、じりじりと首を締めあげるような、時間のかかる攻め方ではダメだって何度も言われ続け、私たちが焦りを感じていた時にも、提督は自分一人だけ、その後の展開を予測出来ていてたのだとしたら、焦っていた私たちは馬鹿みたいですよね。その予測している事を、ほんの少しほのめかしてもらえれば、私たちはあんなに心配しなくて済んだのに・・!」

 レイアにも非難口調で言われ、アックスはたじたじとなっていたが、マヤはなおたたみ掛けた。

「敵本領の攻撃で、敵が降伏するかもと期待を持たされ、徹底抗戦の宣言でその期待を裏切られ、私たちが暗澹たる気持ちになっている時にも、提督1人は平気な顔をされておられましたよねぇ。それも今から考えれば、もうじきカーリア王国解放が達成されるとの計算があったからなのでしょう?皆には、あんな悲しい思いをさせておいて、自分一人安心しきって。そもそも、敵国本領への攻撃は、敵国を降伏に誘導する事よりも、カーリア王国に駐留している敵戦力をおびき出す為という意味の方が、大きかったのですよね?遊離星系確保も、輸送経路遮断作戦も、最大の目的は、カーリア王国の敵戦力を引きずり出す事だったんでしょ?」

 マヤは、すっかり詰問口調になっていた。積年の大目標を達成した将が、完全に、副官にやり込められてしまっている。

「・・い・・いやいや、敵国が降伏する可能性に関しては、僕も、是が非でも実現して欲しいと思っていたし、徹底抗戦を宣言された時にはがっかりしたよ。1人だけ安心してたなんて事は・・」

「でも、降伏が実現する可能性は低いと思っていたし、レジスタンスの一斉蜂起によるカーリア王国解放が、本命の作戦だったのでは無いですか?」

「う・・う・・うん?いや、まあ、レジスタンスの一斉蜂起に頼るのは、最後の策だと思っていたけど、そうなる可能性が一番高いとも思っていたね。」

「で、その一番高い可能性について、何も教えてくれなかったおかげで、私達はずいぶんひやひやしましたし、ハラハラしましたし、ドキドキさせられました。そんな副官にひとこと、考えがある旨をほのめかすくらい、してもらえないものですかね。」

「え、えー、えっと、ま、まあまあ・・、戦略の全貌が万が一にも敵にばれてしまったら・・・。」

「もちろん心得ております。作戦情報の漏えいを防ぐためには、副官といえどもむやみに作戦の全貌を明かせない事くらいは。」

 分かっていても、腹が立つものは腹が立つと、マヤの顔にはそうはっきりと書いてあるかのようだ。マヤの剣幕に、アックスはビビりまくりの押されまくりといった体になって来たが、そこへ助け舟が出た。

「あの、私ちょっと、別の質問もして良いですか?」

レイア軍曹がおずおずと尋ねてたのだ。

「どうぞ。」と、副官2人による尋問が終了する可能性に飛びつくように、笑顔で応じるアックス。

「遊離星系奪還に向かった敵艦隊は、なぜすぐに引き返してこなかったんですか?ガンガー星系が陥落しそうって聞いたら、すぐに戻って来てしまいそうに思えるんですけど?」

「そこだ!タイミングを上手くやらないと、せっかくレジスタンスが一斉蜂起しても、戻って来た二個艦隊にすぐ抑え込まれてしまう。だから、敵艦隊が遊離星系奪還の為に、全ての星系を球状に取り囲む形で、兵力を盛大に展開してしまった後に、レジスタンス蜂起の情報が彼らのもとに届くようなタイミングで、レジスタンスに動いてもらう必要があった。一度盛大に展開してしまった艦隊を、再び集合させ一斉行動に移るには、時間がかかるからね。」

「そこでも、カーリア王国やヴォーラル公国からの情報収集力を向上させて来た事が、役に立ったのですね。捕虜に手厚い待遇を与える事で、彼らを情報源にする事も出来ていましたし、古くからカーリア王国やヴォーラル公国とつながりのある遊離星系の住民と懇意になった事と相まって、敵軍の動くタイミングを詳細に把握できた。そして、その情報をレジスタンスにリークして一斉蜂起を促したから、敵艦隊は広く展開し切った後に一斉蜂起を知らされる事になり、すぐに戻って来ることは出来なかった。敵の二個艦隊の司令官は、さぞかし悔しがっているでしょうね。我々第五艦隊を撒餌にして、まんまとおびき出されてしまって。」

「撒餌って・・、そういう言い方すると・・ひどい奴って感じになるけど。輸送経路遮断と敵本領の直接攻撃で、敵国を降伏に追い込むって戦略も、一応本気で狙ってはいたんだよ・・。

「可能性は低いと思いながらね。本命は第五艦隊を餌に敵をおびき出し、その隙にレジスタンスに祖国を取り戻させる事。でしょ!」

「うう・・、う、うん。」

「ほーら、レイア軍曹聞いた?私達餌だって、囮だったんだって。」

「本命の作戦を知らされず、散々やきもきさせられ、心配させられ、囮にまでさせられ・・。」

「そうそう、そう言う事なのよね。酷いよね。」

 再び、副官2人からの非難合戦が始まり、アックスがとうとう、ぐうの音も出なくなった時、

「カーリア王国のレジスタンス代表が、面会を求めております。」

との連絡がもたらされた。

「おお!そうかそうか。それは直ぐに出かけなくては・・。」

 アックスはようやく解放された。

そして数時間後、ガンガー星系第3惑星の静止衛星軌道上で、アックスはレジスタンス代表と会談した。第五艦隊がガンガー星系に入港した事で、敵軍の抵抗は完全に途絶えた事が知らされた。敵も、レジスタンスだけが相手なら、まだ形勢逆転の可能性があると、微かな希望を持つ事が出来たが、連邦の艦隊をも相手にしなければならないとなれば、観念せざるを得なかったのだろう。

だがその一方で、レジスタンス代表からは、出撃して行った敵の二個艦隊に対する不安が表明された。

 独立回復に死力を尽くしたレジスタンスには、もはや新たな敵と戦う余力は残されていないし、そもそも航宙型戦闘艦などの持ち合わせの無いレジスタンス達は、二個艦隊に戻って来られれば、手も足も出ない。せっかく回復した独立も三日天下で終わってしまうかもしれない。

それに遊離星系のことも、レジスタンス代表は心配していた。レジスタンスと遊離星系の住民は古くから友好関係にあるから、連邦軍が引き払ってしまい、敵艦隊の面前に曝されている遊離星系住民達の行く末は、レジスタンスにとっては気になる所なのだ。

 そんな会談を終え、アックスが旗艦に帰着した時に、

「大船団がスペースコームジャンプを実施した痕跡を捕えました。敵二個艦隊が、こちらガンガー星系に向かっていると思われます。」

との報が入った。

「やはり、戻って来たか。」

とアックスは、ぼそりとつぶやいた。

展開し切ったタイミングを付くことで、上手く時間を稼いだとは言え、いつまでも適の二個艦隊が戻ってこないはずは無かったのだ。それは当然、アックスの想定の範囲内の事だった。

適艦隊接近の報を受け、アックスの目の色が変わる。また例の、恐怖を踏み越えた決意の眼差しだ。少し震える指をぎゅっと握り、決然と幕僚達に伝えた。

「レジスタンスが命を懸けて祖国を奪還した。それを今度は、我々が命を懸けて守る!そして、幾つもの遊離星系も、我々は何としてでも守る!今度こそ正真正銘、みんなの命を懸けてもらわねばならない。この敵二個艦隊は、ここで確実に撃破する!遊離星系もカーリア王国も、もはや二度とヴォーラル公国の手に落とすわけにはいかないからな。」

 ヴォーラル公国がカーリア王国をがら空きにしたのと同様、彼らも遊離星系をがら空きにしている。カーリア王国を兵站基地として確保した時点で、遊離星系の戦略上の存在価値は著しく低下したが、彼らも連邦の傘下に入り、ヴォーラル公国からの独立を確保したいと願っているのだ。戦争に勝つ為には必要なくなったとはいえ、銀河連邦の大切な仲間として、これらの遊離星系は第五艦隊が守り抜かなければならない。

そんなアックスの思いは、マヤにも手に取るように分かった。

「味方の援軍はいつごろ到着しそうなの?」

 マヤがレイアに聞いた。レジスタンスの一斉蜂起の報に触れるや否や、アックスは、連邦本部に援軍を要請しておいたのだ。カーリア王国解放作戦の第二段を発動するつもりだった連邦軍は、先の大敗北で壊滅した四個艦隊の残存兵力を再編成し、二個艦隊を急造していた。解放作戦を敢行するには、未だ不十分な戦力だったが、既に解放されたカーリア王国を防衛するのには十分な戦力だった。

「もうしばらくかかります。敵二個艦隊のカーリア王国への帰着には間に合いません。」との報を受け、アックスは、

「我々だけで食い止めるしかないという事だ。みんな、覚悟を決めてくれ。」

と言い、彼自身も、彼が最も恐れる、仲間の命を危険に曝す覚悟を決めたのだった。

一個艦隊で二個艦隊の撃破に挑む。一個艦隊でカーリア王国解放に挑む事に比べれば、無謀の度合いは低下するだろうが、相変わらず無謀である。が、第五艦隊に臆する者は一人も無かった。(やってやる!)との意気込みが、再び皆の心に漲った。


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