危ないでしょまったく
突如のカーリア王国解放の成就と、恨み募る敵二個艦隊の殲滅達成に、連邦軍首脳はこれ以上に無い程の驚愕と歓喜に包まれた。四個もの艦隊を投入してまで成す事が出来なかったカーリア王国解放を、連邦軍からは一兵も投入する事無く、レジスタンスの手によって成し遂げてしまうという偉業は、連邦軍首脳の誰一人、夢にも想像すら出来なかった大金星だった。
連邦軍首脳だけでなく、新銀河連邦政府下の全ての民が、いや、帝国陣営も含めた銀河中の全ての人々が、一斉にびっくり仰天したと言って良いだろう。そしてそこから、この事件は後の世において、“カーリアの仰天”と呼ばれることになるのだ。
アックスの率いる第五艦隊は、二個艦隊撃破を成し遂げると早々に、ガンガー星系に引き返していた。そして、ヴォーラル公国軍の二個艦隊撃破の数日後には、カーリア王国軍幹部とアックス提督との会談が設定された。今後のカーリア王国国内の治安維持や、ヴォーラル公国軍からのカーリア王国の防衛、そしてカーリア王国の連邦軍への協力などについての協議に、アックスは連邦軍の代表として出席する事になったのだ。
ガンガー星系第3惑星の地上に設置された、臨時の連邦軍オフィスで、マヤは居残りを強いられていた。テラフォーミングは成されていない惑星なので、巨大なドーム型のシェルター内に都市が築かれている。その都市に林立している巨大ビル群の一室が、連邦軍オフィスだった。艦隊と、兵員のほとんどは軌道上の基地に残し、ごく少数の幕僚のみが、地上に降りて来ていた。
コンピューターと睨めっこをしながら雑務をこなすマヤは、アックス提督への同行を許されなかった憤りを募らせていた。
「軍の施設内は比較的マシだが、外で僕に同行するのは色々危険が伴うからね。護衛はちゃんと付けるけど、少尉がそんな危険を冒してわざわざ付いて来ることは無いだろう。」
などと、あのあほ提督はぬかしおった。その怒りを指先に込め、マヤはバーチャルキーボードを激しくたたいた。“ヴァーチャル”なキーボードだから、どんなに乱暴に扱っても壊れる気遣いは無い。実際にマヤが叩いたのは、頑丈な机の表面だ。
(何が危険だからだ。私は軍人だぞ。副官だぞ。危険だから残れなんて話があるか!司令官が危険な所に行くなら、副官である私も行くのが当然だろう。)
自分を後に残して、会談に向かうべく軍のオフィスを出て行ったアックスの背中を思い浮かべ、怒りと恨みを掻き立てられるマヤだった。
(私はあと何回、あの男の背中を見送らなくてはいけないんだ。隣を歩かせろ!バカたれ!・・だいたい、つい最近まで敵領だったとはいえ、既に銀河連邦に属している国の中での会談だろう。どれだけの危険があるというのだ。敵の残党が潜伏している可能性も、無くは無いのだろうが、神経質すぎるのじゃないのか?)
苛立ちと共に業務をこなしながら、マヤは考えを巡らせた。「軍の施設以外で自分と行動を共にするのは危険」という、さきほどの発言を思い返すと、
(いつまでも食事に誘わないのは、その為なのか?食事に誘ったら、基地の外で自分と行動を共にする事になって、私を危険に曝す事になるから、誘わなにようにしているのか?深い間柄になったら、危険な目に合わせるかもしれないと思って、わざと距離を置いていやがるのか?私の安全の為に、どんなに重い十字架も一人で背負って、指を震わすほどの恐怖にも一人で耐えて、基地以外の場所では、愛しの私に甘える事もせず、その弱く脆い心を支える立場を、永久に私に与えないつもりなのか?あの、あほ提督は。)
心の中でそんな悪態を付きながらも、テキパキと業務はこなされて行く。その時、マヤに通信が入った。コンタクトスクリーンに映し出された文字を読み、バーチャルキーボードで文章を入力する事で、道具を手に持つ事無く、高い機密性を伴った通信が可能となっている。
『ヴォーラル公国軍の残党を、会談の行われるビル内で捕縛。他にも数人が同ビルに入りこんでいる模様。提督の暗殺を目的としている可能性が高い。提督は退避行動に移ったようだが、敵の通信妨害により連絡が取れず、現在の居場所など、詳細は不明。』
最後まで読み終わる前に、マヤは駆け出していた。走りながら、右手中指に装着された指輪を確認する。指輪型のレーザービーム照射装置だ。護身用・・いや、アックスに手出しをする者に制裁を下す為の兵装だ。
(往生際の悪い敵軍め。あのあほ男には、指一本触れさせないわ!)
テラスに設えられた航空バイクにまたがると、マヤはバーチャルキーボードで目的のビルを指定し、軍用緊急交通を宣言させた。これで、他の民間交通を犠牲にしても、彼女が目的地に到着する事が優先され、彼女のまたがった航空バイクは、最速で当該ビルに向かってくれる事になった。
シェルター内設備との電磁的作用で浮上した航空バイクは、ウィンという電子音とフーンと風を切る音以外、大きな音を発生する事も無くテラスを飛び立たった。ある程度の高度に達したところで、ジェットエンジンに点火する。テラス付近でジェットエンジンをふかすと、テラスが滅茶苦茶になるので、高度を確保するまでは電磁的作用で持ち上げるのだが、それはマヤにとってはじれったい時間だった。
マヤの焦燥感を体現したような鋭い爆音を発すると共に、マヤの機乗した航空バイクは、目的地へと突進して行った。
下から見上げれば摩天楼と呼ぶべき、林立するビル群をひとっ飛びに超えて、会談の設定されていたビルをマヤは目指した。もっとも幾つかの“摩天楼”は、シェルターの天井に接続していて、天井の上にある、軌道上建造物との往還用のシャトルベイへのエレベーターが通されていたし、シェルターを支える柱としての機能も担って、天井に繋がっているので、飛び越える事は出来ず、横をすり抜けたのだが。
ジェットエンジンに点火してからは、1分と経たずに、目的のビルにたどり着いた。会談場所が設定されているフロアには、緑地化された開放感のあるテラスがあり、マヤの駆る航空バイクはそこに、電磁的作用によって、ふわりと着地した。
快適な着地ではあるが、マヤはじりじりした。この急ぐ局面で、“ふわりとした快適な着地”は無意味だ。少々手荒でもいいから、速く着地を終わらせろ。
忙し気に、マヤは周囲を見回す。そのビルのどこに、提督がいるのかも分からないのだ。会談場所が設定されているフロアに留まっているのかどうかも、ビル内に居るのかどうかも分からない。無論、敵国軍の残党の居場所も、人数も、判明していない。
「提督ぅーっ!」
と、マヤは叫んだ。とにかく叫びながら、手当たり次第に走り回って探すしかない。
照明の消された、薄暗く長い廊下を、マヤは靴音を響かせながら駆け抜けた。誰もいない。ひとっこ一人見つけられない。もうすでに提督も、他の人達も、退避し終えたのだろうか?しかし、安全な場所に到着したのなら、その旨の連絡が来ていてもおかしくは無い。連絡が無いという事は、提督はまだ、危険な状況の中にあるのか・・?
「提督ぅー、提督ぅー」
何度も繰り返して叫ぶマヤの声には、徐々に悲壮感が漂って来た。残党どもはどこに?こうしている間に、提督の身に危険が・・。冷たげな廊下の壁面が、不吉な未来を想起させる。
時の経過と共に、加速度的に膨らんでいく不安感と焦燥感に苛まれながら、アックスの姿を求めて走っていたマヤは、突如、ドーンという衝撃が足の下から突き上げるのを感じると、次の瞬間には、その衝撃の発生源の方向に、強く体が引っ張られるのを感じた。
見ると、頑強なはずの床がパカリと割れ、崩れ落ちて行くではないか。マヤの身体を引っ張ったのはこの惑星の重力で、先ほどの衝撃で割られた床と共に、マヤは階下へと落下し始めていたのだ。
マヤの身体は、重い頭部が下半身を追い抜き、真っ逆様になったが、身体の上下が反転する勢いで、一緒に落下している、元は床だった瓦礫に頭を強打し、その衝撃で、彼女の意識は吹き飛ばされた。
失神したまま、瓦礫と共に、奈落の底のごとき階下の暗闇の中に、マヤは飲み込まれて行った。
意識を取り戻すとともに、マヤは全身に激痛が走るのを感じた。
「うぅぅ・・」
すさまじい痛みに、うめき声を禁じ得ない。鼻をつんざくような硝煙の匂いも感じた。ビルが爆破されたのだ。爆破され崩落するビルに、マヤは巻き込まれたのだ。
マヤは、激痛によって、身体を僅かにも動かす事が出来ない現実を、突きつけられた。目の前にある瓦礫には、おびただしい量の血液が付着し、滴り落ちていた。付近に人の気配がしない事からすると、その血液は、マヤ自身が流したのだろう。体の一部がもぎ取られでもしたかのような量の血だ。五体が正常に揃っているかを、確かめることも出来ないのだが、この激痛からすると、もしかしたら、どこかの部位が切断されているのかもしれない。
(私は、死ぬのだろうか・・?)
一瞬そう思ったマヤだったが、その直後には、もっと重要な事が脳裏に浮かんできた。
(提督は?提督はどうなっただろう?このビルの爆発と崩落に巻き込まれてはいないだろうか?既に、無事に脱出していただろうか?)
動かぬ身体で、出来るだけ広い範囲をマヤは見渡してみたが、その範囲では、ビルの原型は留められていないようだ。相当大規模な爆破が行われたと、見受けられる。大量の瓦礫の陰は、ゆらゆらと揺れている。この影を造り出している光は、炎なのだろう。爆破により火災が発生し、その炎が、間近にまで迫って来ている事が、推測された。
(あの、あほ提督は、この瓦礫の下敷きになって、死んでしまってやしないだろうな・・。炎に巻かれて、くたばってはいないだろうな・・。)
そう思った瞬間、マヤの胸中には、底知れぬ暗黒のような恐怖が、湧き上がって来た。
(冗談じゃない、一度も、食事にも誘われないままに、死なれてたまるか。あの男が苦しんでる顔を見るだけで、こっちも悶絶する程の苦痛を感じるのに、死んでしまわれたりしたら、私はどうなるのだ。そんな事、絶対にあってはならない。ヴォーラル公国との戦いだって、あのあほ提督が死んだら、どうなるか、分からないのだぞ。連邦が帝国に負けたりしたら、世界中に血の粛清の嵐が吹き荒れ、何百万・何千万の罪も無い人々が、虐殺されることになるかもしれないんだぞ。私の両親だって・・。)
両親に思いが至った瞬間に、マヤは自身も死の瀬戸際にある現実と、再び対面した。そう言えば、どんどん身体から血の気が引いて行っている。体温が、みるみる奪われて行くのが分かる。目の前の血溜まりを見るにつけ、恐らく大量の出血が、今も続いているのだろうと推察される。全身が激痛に見舞われているから、どこから出血しているのかも分からないが、どこからか大量の血が、どくどくと流出し続けているように思われる。
血の気の引いて行く速さが、自身の絶望的な状況を予測させているのだ。
(このまま死んでしまったら、両親はどう思うだろう。軍人として故郷を後にしたのだから、戦死する可能性は分かっているだろうが・・、しかし・・、こんな薄暗い瓦礫の下で、たった一人で、看取る者も無く、孤独に、苦痛に呻きながら死んでいったと、両親が知らされたら・・。)
マヤは、別の意味で、血の気が引いて行くのを感じた。
(なんて親不孝な、なんて死に方を・・・。これで私が死に、提督も死んで、連邦が敗北すれば、両親も殺され・・。)
マヤは、両親の顔を思い浮かべ、故郷の惑星を思い出した。テラフォーミングが完了しているとはいえ、気候のチューニングが上手くいっておらず、寒冷で雪深い環境での苦しい生活を余儀なくされている両親の姿が、マヤの脳裏にまざまざと浮かぶ。
そして彼らは、帝国の政治的影響力の排除の為に、率先して活動して来たし、彼らの娘は連邦軍の将校なのだ。だから連邦軍が敗れれば、マヤの両親は、帝国による粛清の対象になる可能性が、極めて高いのだ。真っ先に、最も残酷な殺され方を、するかもしれないのだ。
(何もかもが終わる・・。何もかもが奪われる・・。何もかもが失われる・・。提督が死んだら・・何もかも・・何もかもが・・。)
だんだん意識の遠のきつつあったマヤの心の中には、もはや恐怖の感情しか無かった。絶望の未来を想う力しか、残っていなかった。帝国によって全てを奪われ、破壊される恐怖と絶望のみが、マヤの心を支配した。
(提督、アックス提督)
恐怖という暗闇の中に、たった一点の明かりの如く、アクセル=フォン=アルバータの笑顔が、微かに浮かんだ。それと共に、恐怖や絶望という暗闇は、ずずっと引き下がったようだ。
(信じよう。提督は生きている。提督はこんな馬鹿げた爆発なんぞには、巻き込まれていない。生きて、帝国を倒し、銀河を平和にしてくれる。両親も守ってくれる。提督なら。アックス提督なら・・。)
そう思うことで、マヤの心には安心感が広がり、それと共に、全ての力も抜けて行ったようだ。意識が遠のいて行く事に抗おうとする力も、失われて行った。
マヤは身を委ねた。その意識を、魂を、命を、暗黒の深淵に引きずり込もうとする、見えざる力に。マヤは、生存を、断念しつつあった。
「・・・・、――っぃ・・」
どこかで人の声がした・・ような気がした。だが・・。
(もう良い・・、もう疲れた・・。)
マヤはその、存在するのかどうかも分からぬ声を、無視した。が、・・。
「・・--おおいいぃっ!」
確かに人の声だ。それも、聞き覚えのある・・いや・・聞き間違う事などあり得ない人の、声だ。
「しょおおおいいいっ!」
この声は、間違いなく、まぎれも無く、アクセル=フォン=アルバータの声だ。
「少尉いいっ!マヤ少尉―!」
魂を引き込もうとしていた力の発生源から、今度は、魂を突き上げるような、命が噴出するような圧力を感じ、マヤの意識は一気に覚醒した。
「提督ぅぅぅっ!」
そんな力がどこに残っていたのかと、自身でも驚くほどの声を張り上げ、マヤはアックスの呼びかけに答えた。
「ここですぅっ、ここにいますぅ、提督!」
「マヤ少尉!」
今度はすぐ間近で、アックスの声が聞こえた。マヤは声のする方向に顔を向けた。
動かなかったはずの体が動いたことに驚きつつ、今まで見れなかった方角に視線を送り、マヤはアクセルの姿を捕えた。
瓦礫と塵と炎をかき分けるように、アクセルはこちらに近づいて来ている。
(生きていた!生きている!動いている!)
喜びが、その胸で爆発する。力が湧いてくる。力を込めてみると、両手両足が確かに胴と結合し、稼働可能であることが発見される。ぐいと力み、ぐんと踏ん張り、マヤはもっと視界の真ん中に、アックスを捕えようと試みる。瓦礫を持ち上げ、身体を引きずり出し、僅かにだが、体の角度を変える事が出来た。全身に激痛が駆け巡ったが、知ったこっちゃない。あほ男の姿を、視界の真ん中に捕える事が、最優先だ。
マヤの試みは成功した。視界のど真ん中に、はっきりと、アックスの健全な姿が、確認された。
間違いなく生きている。元気だ。だが、
(あ・・危ないだろう!何をやっているんだ、あのアホは。)
見るからに危険極まりない場所を、アックスが歩いている姿に、マヤには怒りがこみあげて来た。
(何をしているんだ。何を考えているんだ。立場をわきまえろ。あんたは艦隊司令長官だぞ。カーリア王国解放を達成した、連邦軍の英雄だぞ。こんな危険な所にいて、良い訳無いだろう。そんな危ない行動をとったら、ダメだろう!)
必死の形相で瓦礫を押しのけ、炎を躱し、アックスはどんどん近づいてくる。自分の身の安全を全く考慮していないアックスの様ほど、マヤに怒りを覚えさせるものは無い。それも、マヤを救う為の行動となれば、なおさらだ。
(バ・・バカたれ、そのでかい瓦礫の下をくぐろうとするな、落ちてきたら、あんたの空っぽの頭は、グシャッと、南瓜みたいに潰れるだろう!アホが!こ・・こら!その炎に突っ込むんじゃないボケ!タワケ!あっ・・突っ込みやがった。燃えてないのか!?あんたの身体は?何を、一心不乱にこっちを目指しているんだ。猪突猛進か!ボケ!イノシシかあんたは!タワケ!少しは自分の身体を見ろ。カス!身体に炎が移っていないかくらい、確認してから次の行動に出ろ!このクルクルパー!うわ、その土煙の中に飛び込むな!気違いヤロー!足元が見えないだろう!ドアホ!ほら、けつまずいた!マヌケ!そのまま走ろうとするな!馬鹿野郎!ちゃんと体勢を立て直してから走れ、あほぅ!みっともなく、よろめきながら走るんじゃない!アホアホ!もう来るな!こっちに来ようとするな!危ないのが分からないのか!馬鹿馬鹿馬鹿!あっちに行け!変態野郎!近づいてくるな!寄ろうとするな!タワケモノ!どっかに行っちゃえ!大馬鹿野郎のアホあほ提督!)
我が身の危険も顧みず、懸命にマヤの救出に向かおうとするアックスの勇姿に、心の中では思いつく限りの罵詈雑言をぶつけていたマヤだったが、現実のマヤ自身は、泣いていた。ぽろぽろと涙を流し「あわあわ、およおよ」と嗚咽の声を漏らし、泣きじゃくっていた。愛する者が命を賭して救いに来てくれる事に、マヤは無上の喜びを、それが溢れさせる涙を、止められずにいた。
(嬉しいに決まっているだろう。泣いてしまうに決まっているだろう!そんなことをされたら。こんな恥ずかしい様を曝させやがって!こんなに泣きじゃくっているみっともない姿を、なんであんたの前で見せなきゃいけないんだ!本当に冗談じゃない!恥ずかしいったらありゃしない!)
そんな思いが頭の中をグルグルと回っているマヤのもとに、とうとうアックスはやって来た。どこからか拾ってきた棒きれで、テコの原理で、マヤに乗っている瓦礫をどかしにかかる。
「うぉぉぉ!」
と、3年間副官をやって来た中でも、見た事も無いような形相で、信じられないような力強さで、アックスはひと息にその瓦礫を押しのけて見せた。
「少尉!大丈夫か!しっかりしろ!」
そう叫びながら、マヤを抱き起したアックスの腕の中で、マヤは精いっぱい大きな声を張り上げて号泣した。
「わぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
(みっともない・・・、恥ずかしい・・)
現実の泣き様と心のつぶやきが、まるきり裏腹だった。マヤは、泣いて、泣いて、泣き通した。
泣き続けている内に、マヤの意識は、再び遠のいて行く。しかしその意識は、魂は、命は、暗黒の深淵に落ちて行くのでは無かった。温かな光の中に、力強い愛情の中に、溶け込んで行ったのだった。




