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その名は、カルナザル焼き 前編

くんくん……

いい匂いですね。

厨房からです。きっとハインツさんですね。


午後の修練は自習ですから私は暇なのです。

けっしてヒーちゃんをソフィー姉さまに取られたからではありません。

暇ったら暇なのです!


なので。

ちょっと厨房を覗いてみましょう。


「こんにちは、ハインツさん。」


「これはマスターアウラさま。こんにちは。」


ハインツさんの後ろには大きな鍋。

多分あそこにこの匂いの元があるのですね。


「いい匂いに誘われて来ちゃいました。」

「ははは。結構匂ってますね、まずいかな。」


城の中は結構閉鎖的です。空気の取り入れ口はそれなりにあるのですけど。


「大丈夫でしょう。それより……」

「気になりますか?」

「はい!」

ハインツさんは鍋に私を誘います。


「黒い……ソースですか?」

「さすがです!マスターアウラさま。」


あっ!『ライブラリー』が発動です。


うすたーソース?


「ハインツさん、このソースはもしかして野菜や果物を使ってますか?」


「おお!さすがと言うか、いやはや。調理で出したクズ野菜などが勿体ないと思ってどうにか使えないかと思案して出来た物です。」


凄い。ハインツさんは独学で地球のソースを作り出したのですね。

そう言ってハインツさんは小皿にソースを入れて私に勧めます。


「味をみてください。」


小指につけて一舐め。


うん、酸味があって初めての味ですが嫌いじゃないです。

むしろ好きです!


「ハインツさん、おいしいです!」

「なんと!ありがとうございます!!」

なんかハインツさんの目尻に涙が見えるんですけど?


「うっ。マスターアウラさまに誉められた。こんなに嬉しい事は無い!」

おおっ。と厨房の中から声がします。

料理人の人たちがハインツさんに羨望の眼差しです!


「料理長!おめでとうございます!」

「うん、うん!」

なんか感動の場面っぽいけど……


「と、ところでハインツさん。このソースはどんな料理に使うのですか?」


この時、時間が止まったかの様な静寂が訪れました。


「マスターアウラさま。問題はそこなのです。」


ハインツさんは先程とは変わってとても残念そうにしました。


「え?こないだ教えたカツレツとかお魚のフライとか合うと思いますけど?」


ガタン!

途端に厨房が慌ただしくなります。


「下拵えは?」

「肉なら!魚は……いけます!」

「よし!各員、仕事に取り掛かれ!」

「「はい!」」


見事な連携です。

カルナザルガードにも負けていません!


そうこうして暫く。


「揚がりました!」

「こちらも完了です!」

「よし、各自皿に取れ。」


試食会が始まります。


「マスターアウラさま、どのように使いましょう?」

「そうですね、好みがありますから最初は少量で。好きな人はジャブジャブかけても大丈夫だと思います。」


皆さん、私の言葉通りに少量を料理にかけます。


「いただきます!」

はむ!

お、おいちー!

いつものバターソースや酸っぱいソースもいいけどこれは別格ですね!


「うお……」

「なんと言う事だ…」

「か、革命だ!」

「やった、料理長!あんたやったよ!」

「これは世の中を変えるぞ!」


皆さん大絶賛です。

そのハインツさんはー


「みなありがとう。しかし私はまだまだだ。マスターアウラさまには敵わない。」

「そんな…」


「聞くんだ。私はソースを作ったが用途までは思い至らなかった。独りよがりなんだよ。だから……」


「あ。ハインツさん、澱粉粉あります?」

「私は……あ、はい。」


なんか感動的な所ごめんなさい。

このソースがあればきっと作れるはずなのです。


「では。このソースに……」


小さなお鍋に分けてもらったソースを温め、水で溶いた澱粉粉を入れます。

そして……

かき混ぜます!

ひたすらにかき混ぜます!


するとソースにとろみが。


「マスターアウラさま?これは一体?」


「はい。元のソースはサラサラしているので料理の上からこぼれてしまうでしょ?ソースを吸う料理なら問題ありませんけどこうしてとろみがつけば色んな料理に試せるのです。ほら、以前トマトソースで作ったケチャップと一緒ですよ。」


そう、うすたーソースの進化版、お好みソースです。

そうするとお好み焼きなる物が食べたくなるじゃないですか!


「天才だ…」

「このお方は神か!」

「いや、愛くるしい天使だ!」


とまあ色んな声が聞こえていますが。


「マスターアウラさま!このソースに無限の可能性を与えていただき感謝します。」

今度のハインツさんは号泣です。

あ、鼻水……


「そ、それでですね。さっそくこのソースに合う料理を作りたいのですが。」


「はい!我らをお使い下さい!」

「なんなりと!」

「どんな食材でも用意いたします!」


えっと。

なんかこれまでの皆さんと違う様な?


とりあえず試作して今晩のメニューにしましょう!



************


「おう!この鉄板はどこに置く?」

「ヘラ、納品に来ました!」

「特注魔導コンロ、お持ちしました!」


お城の勝手口から威勢の良い声が聞こえます。

ハインツさん、手配も鮮やかです。

早すぎませんか?

ハインツさんの謎がひとつ増えた瞬間でした。


本日の夕食はカルナザルガードの練兵場でいただきます。

カルナザルガードの皆さんにもお裾分けです。


さあ、お好みパーティーの始まりです!

長くなりそうなので一旦切ります。


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