母、贈られる
接続障害で心が折れました。
が、復活です。
お待たせしまして申し訳ないです。
次話もお約束はできませんが早めに上げたいと思っております。
師父、マスターアウラさまに師事して暫く。
私とヒルダの生活はとても充実している。
ああ、これが幸せと言うものか。
これまでの殺伐とした傭兵生活とは比べるまでもない。
そう、つれあいでさえ心を許せなかったのだから。
最近の私といえば日中の大半を修業に割き、朝晩と市中の警らに出ている。
そこで耳にしたのは我が娘の話し。
休暇日以外はまともにふれ合えていないヒルダを不憫に思っていたがそれは間違いだった。
師父やエリザベートさま、ソフィーリアさまが絶えず面倒を見てくれている。
読み書き、算術もある程度はこなす。
母を超えてしまった。
……私は読み書き、算術がほとんどできない。
そうだ!
ヒルダに師事しよう!うん、それがいい。
で、我が娘の事だ。
町中で拾った話しでは雑貨屋の手伝いに時々現れると言う。
しかしその雑貨屋が問題だった。
私が痛めつけた者が店主なのだ。
あれからすぐに謝罪をしにキャロル殿の所へ行ったのだが……
怖ろしいほどにあっけなく許された。
「ヒーちゃんのお母さんならしょうがないわねぇ。」
飛ばされたウィンクはとてつもない破壊力だった!
しかし。
許されたとは言え心配だ。
まさかとは思うがヒルダをこき使って私に仕返しを……
こうしてはおれん!
ヒルダを、ヒルダを護らねば!!
ここだ。『乙女の嗜み』。
ここに来るのは二度目だが……
店の前、店内には若い娘たちが溢れている。
とても姦しい。
ん?あれは……
「いらっしゃいましぇ!」
ひ、ヒルダ?
…
……
…………
か、可愛い!可愛い過ぎるではないか!!
ピンクの給仕服にヒラヒラのエプロンがとてもよく似合っている。
完璧だ!
ヒルダは一生懸命にチラシを配っているな。
受け取った娘たちがヒルダを絶賛している。
そうだろう、そうだろう。
我が娘は世界一可愛いのだ。
「ヒーちゃん、ちょっとお願い-。」
「あい、てんちょー!」
ムム!ヒルダが店内へ。
これでは様子が覗えんではないか。
キャロル殿、これが私への仕返しなのか?
すると今度はキャロル殿が店先へ現れた。
まずい!身を隠さねば!!
「イメルダさん?出てお出でなさいな。」
くっ。
バレていたか。
私は物陰からこの身を晒す。
「キャロル殿、娘が世話になる。」
「あらぁ。それはこっちの台詞よぉ?ヒーちゃんが来てくれた日は売り上げがすごいのよ!」
「そうか。役にたっているならいい。」
「んもー、相変わらずぶっきらぼうねぇ。そうだ、ヒーちゃんの仕事ぶりを見てく?」
「あ、いや…それはちょっと……」
「いいじゃない、さ。行きましょ!」
ぐっ!
強引な方だ。
私は手を掴まれ店内へ。
「いらっしゃいましぇ…おかーしゃん?」
「や、やあ。ヒルダ。お仕事ご苦労。」
「あい!」
ヒルダが満面の笑みで私に駆け寄る。
……最高だ、最高に可愛い。
「ウソ、あの人がヒーちゃんのお母さんなの?」
「え?……綺麗な人……」
「わたし見た事ある!カルナザルガードの人だよ。」
「本当?そっか、ヒーちゃんのお母さんは凄い人だったのね。」
「それを言えばヒーちゃんはちびっ子師匠の義妹だし不思議じゃないわよ?」
「そうね!そういえば最近ちびっ子師匠お店に来ないね。」
などと娘たちが話している。
そうか、ヒルダは人気者のようだ。
「おかーしゃん、きょうはなにをおもとめでしゅか?」
おっと、ヒルダがやる気だ。
ここは母として立派に対応せねば!
「う、うむ。今日は…その、髪かざりでも…なんだ、うん。」
「あい!こちらでしゅよ!」
ヒルダに手を引かれ少し離れた棚へ。
「こ、こんなにあるのか!」
目の前には色とりどり、色んな形の髪かざりが。
「おかーしゃん、どれにしゅる?」
ヒルダの瞳が輝いている!
「あ、うん。どれがいいかな…」
「あのね、おかーしゃんとわたちはおなじかみのいろでしょ?だからね、これがにやうとおもうのー。」
そういってヒルダは棚の上を指さすが私にはどれだかわからない。
「どれだ?」
「うんとね、あれ!」
「……わからん。」
「むう。しかたないでしゅね。おかーしゃん、だっこ!」
私はヒルダを抱き棚の前へ。
「ここか?」
「あい。えっと…あった!これ。」
ヒルダが手に取ったのは赤い花の付いた髪かざり。
……花は宝石を削り出しているな。
髪留めの部分は……青銀色、ミスリルか。
とてもではないが私には手が出せる代物ではない。
「うん、いいな。」
「でしょ?」
満面のヒルダの笑顔に改めて幸せを感じた。
あの日の決断は間違っていなかった。
さて、どうやってヒルダに髪かざりを断ろうか。
「ヒルダ、それは戻してくれ。」
「かわないの?」
「ああ、私には高価なものだ。」
「……わかった。」
ヒルダは少しがっかりしながら髪かざりを元の場所へ戻す。
私はヒルダを下に下ろすと長い時間、警らを中断していたことに気づいた。
「ヒルダ、母は仕事に戻らなくてはならない。」
「あい……」
俯きさみしそうな声のヒルダ。
許せ、母は行かねばならないのだ。
「あらあらヒーちゃん、どうしたの?」
キャロル殿だ。
「おかーしゃん、かえっちゃうの……」
うう、私だってずっとお前と一緒に居たいのだ、堪えてくれ。
「あらぁ。でも夜には一緒にごはんなんでしょ?」
「あい…ごはん?……ごはん!」
おや?ヒルダの機嫌が?
「あのねあのね!ハインツしゃんのごはんはとーってもおいしーの!ね、おかーしゃん!」
確かに!あの御仁の料理は絶品だ。
それより驚いたのはその料理の手ほどきを師父がしたと言う事だったが。
「そうだな。今夜も楽しみだ。」
「あい!」
ヒルダの機嫌も収まった事である。
私は仕事に戻る事にした。
「それではヒルダ、頑張れ。キャロル殿、よろしくお願いいたします。」
「お任せよん。いってらっしゃい。」
「おかーしゃん!いってらっしゃい!」
店先まで見送られる。
ヒルダは私の姿が見えなくなるまで手を振っていた。
「あのね、キャロルしゃん。」
「なあに?ヒーちゃん。」
「おみみかして?ごしょごしょ……」
「ふんふん。……なりやほどー!いいわね!」
「でもおかね、だいじょぶ?」
「今日はたくさんお客さんきたからねぇ。それにヒーちゃんには今までもいっぱいお手伝いしてもらったから。」
「じゃあ…」
「いいわよぉ。アルバイト代かわりね!」
「やったー!ありがとうキャロルしゃん、だいしゅきー!」
この日『乙女の嗜み』の店先で店主と客が大量に鼻血を吹く事件があったとかなかったとか。
その夜。
夕食時。
私はギュスターヴ家の皆様と共に食事をしている。
我ら親子は別でとお願いしたのだがソフィーリアさまにすがりつく様に懇願され、私とヒルダは毎食同席することになっていた。
いつものように質素であるがそれは美味な食事を終え、解散となるとき。
「おかーしゃん、あのね…」
「どうした?ヒルダ。」
モジモジとする我が娘。おしっこか?
「はい!これ!いちゅもありがとー。だいしゅきよ!」
そう言って差し出したのは綺麗に包装された小さな箱。
…いや、まさかな。
「あれ?ヒーちゃんからプレゼントですか?」
エリザベートさまが私達に気付く。
「はい。どうやらそのようです。」
「おかーしゃん、あけてみて!」
ヒルダはその場でぴょんぴょんと跳ねて催促する。
私は包装をあけ、箱の中をみて驚愕する。
「ヒルダ!これは……」
「わたちのおきゅうりょうでかいまちた!」
「給料だと?」
はっ!そうか。
キャロル殿、かたじけない。
「ありがとう、ヒルダ。とてもうれしいよ。」
「えへへ。」
すると突然背後から怖ろしいほどの圧力が!
「へー。ヒーちゃんからプレゼントですか。ふーん。よかったですねー。」
し、師父?
何故にご立腹?
「べ、別に羨ましくはないですよ?プレゼントとか、プレゼントとか。」
あ、羨ましんだ。
「ねぇねとエリーおねーしゃんにはまたこんどね!」
ヒルダの一言で圧力が霧散する。
助かった……
きゃいきゃいと仲の良い姉妹たちの戯れを心の底から愛しいと思いながら視線を他に向けると……
「いいですわねぇイメルダさん……」
奥方さま……あなたもですか。
そして私は娘からの初めての贈り物を胸に抱き、今日という日を終え、明日を生きるため眠りにつく。
傍らには愛しいヒルダ。
ああ、本当に幸せだ。
翌日ー
「おや、姉弟子。その髪かざりは?」
「はい、娘からの贈り物です。」
銀髪に留められた赤い花の髪かざり。
カルナザルガードの面々に羨望の眼差しを受ける。
どうやらヒルダはカルナザルガード内でも人気者のようだ。
気のいい連中である。
そしてー
改めて思う。
この幸せと皆の笑顔のためー
護る者となろう、と。




