親子、幸せへの一歩
お城に戻った私たちは早速イメルダさんの治療にあたります。
「アーちゃん、拘束は解く?」
「はい。もし暴れたらまた無力化しますから。」
(えっ!ダメよ!死んじゃうから!!)
大袈裟ですよ、精霊さん。
「じゃ解くわね。」
エリーは皮の紐を解くと治癒魔法を施します。
「ん‥‥ちょっと時間がかかりそう。足の付け根が‥‥粉々みたい。」
エリーがジト目で見ていますが気にしない事にします。
「んみゅ‥‥ねぇね、おあよー‥‥」
ヒーちゃんが目覚めましたね。
「ヒーちゃんおはよう。ねぇ、ヒーちゃん。この人知ってますか?」
私はヒーちゃんにベッドに横たわるイメルダさんの前に連れて行きます。
「おかーしゃん‥‥おかーしゃーん!!」
ヒーちゃんがイメルダさんに飛びつきそうになって慌てて阻止します。
「ヒーちゃん落ち着いて。お母さんは少しケガをしてるみたいなの。今エリーが治してくれるからちょっと待とうね?」
少しのケガではありませんが。
「うん。分かった‥‥」
ヒーちゃんは心配そうにイメルダさんの傍に立っています。
うう。ケガさせた本人としてはちょっと心が痛みます。
「足の方はこれで良し。次は肩ね。」
エリーの手に淡い光が集まり、イメルダさんのケガを癒していきます。
「うう‥‥」
「おかーしゃん!」
イメルダさん、意識が戻った様です。
「ここ‥‥は?」
「おかーしゃん、おかーしゃん‥‥」
ああ!ヒーちゃん号泣です。
イメルダさんはヒーちゃんの頭をそっと撫でています。
私とか対峙した時とはまるで別人な表情です。
‥‥母親なのですね。
「ここはカルナザルのギュスターヴ家の城よ。まだ治療中だからじっとしてなさい。」
エリーは治療を続けます。
「‥‥かたじけない。」
イメルダさんもヒーちゃんを片腕で抱き寄せ安心した表情で治療を受けています。
これなら私のお話しも聞いてくれるでしょう。
「イメルダさん、私が勝ちました。」
「そうだな。」
「お話しを聞いてくれますか?」
「約束だからな。」
「あなたのやり方では誰も幸せにはなれません。私は義姉としてヒーちゃんが不幸になる事を許容できません。」
「‥‥何故、不幸になると言い切れる?」
「あなたと同じ業界でヒーちゃんは生活できませんよね?それにイメルダさんが仕事中、ヒーちゃんはどうされるのですか?」
「‥‥」
「万が一、あなたが命を落とした場合、またヒーちゃんはひとりぼっちになるのですよ?」
「ならばどうしろと言うのだ!」
イメルダさんも薄々は気づいていたのでしょう。
どうしょうもない想いが伝わります。
「ですので。私がイメルダさんを雇います。」
「なんだと!」
「聞いてないよ、アーちゃん!」
イメルダさんとエリーからダブルで突っ込まれましたね。
「イメルダさんは私に弟子入りして貰います。これは絶対条件です。」
イメルダさんは真剣な表情。
「あ、あの苛烈なる技を私に授けると言うのか?」
「イメルダさん、あなたは攻撃的過ぎます。そして交渉事にも暴力で解決する短慮も欠点です。それはあなたの強さが中途半端だからなのですよ。」
「わ、私が中途半端?」
「ええ。おそらくですがそこであなたを癒しているエリーにも敵わないでしょう。彼女は私の一番弟子ですから。」
エリー、ドヤ顔はいけません。
「私が‥‥敵わない?」
イメルダさんはショックを受けている様ですね。
だけど事実です、受け止めて下さい。
「私の流派は守る為の力です。防御特化とは違いますよ?大切な誰かを、大切な場所を『護る』力です。」
「守る‥‥大切な誰か‥‥」
「ちなみにイメルダさんは三番弟子ですよ?2番弟子はヒーちゃんの予定ですから。」
「な、なんだと!ヒルダは戦えないだろう!」
「アウラ流活殺術は闘法だけではありません。歩法、魔力操作、練気など。それに合成魔法もありますしね。そうですね、魔闘術って所ですかね。」
「なんだそれは?知らない、聞いた事も無い!」
「それはそうですよ。だって開祖は私で使い手はまだ2人だけですから。弟子候補は50人居ますけど。」
ゴクリ。
イメルダさんが生唾を飲む音が聞こえます。
「どうしますか?」
「少し‥‥考えさせて欲しい。」
「‥‥イメルダさん。明日にでもダカン父さま、カルナザルの領主さまに会って下さい。」
「領主に!」
「ええ。エリーのお父さまです。きっと何かを感じ、進むべき道筋が見えるでしょう。」
治療は終わったみたいですね。
「そうね。父上ならあなたとヒーちゃんの力になってくれるわ。」
「‥‥何故?何故お前たちはここまで私に世話を焼くのだ?」
「「あたながヒーちゃんのお母さんだから。」」
思いがけず声が揃った私とエリーはお互いを見てクスリと笑うのでした。
ヒーちゃんは‥‥泣き疲れてまた眠っています。
今度はお母さんの傍らで。
ボロボロのブランケットを抱きしめて眠るヒーちゃんはまさに天使なのでした。




