アウラ、葛藤する④
西の森ー
昨日は楽しくみんなで来た場所。
ヒーちゃんとエリーとマルンを採りに来た森。
でも今日の西の森はなんだかどんよりしています。
~ほんの少し前~
森に到着する前、街を出る橋に差し掛かった時でした。
身体強化(改)で移動中の私を誰かが呼び止めます。
「アーちゃん、待って!」
キャロルさんです!
体中に包帯を巻いたキャロルさんが痛々しいです。
時間があればエリーに治療してもらうのですが‥‥
でも。
無事でよかった。
「キャロルさん、うう。」
「私は大丈夫よ、泣かないでアーちゃん。それよりもこれを持って行きなさい。」
キャロルさんは双振りのナイフを差し出します。
「相手は双剣使いよ。パワーは無いけどとにかくすばやい。私は何も出来ずに切り刻まれたわ‥‥」
私は息を飲むとキャロルさんからナイフを受け取ります。
相手は相当の手練。
素手で挑むのは危険でしょう。
エリーも帯剣していませんでしたので近くに居た兵士さんから拝借しています。
「キャロルさん、ありがとうございます。必ずヒーちゃんを助け出しますから!」
「‥‥アーちゃん、本当にごめんなさい。私がちゃんと守れればこんな‥‥」
キャロルさんは握りしめた手から血を流しています。
でも敵が憎い、悔しいって感じじゃないのは何故?
「アーちゃん、そろそろ行こう!」
私はエリーに向かって頷くと西の森へ駆け出しました。
「ま、待って!アーちゃん!あの女とは戦っては‥‥」
キャロルさんが何か叫んでいましたけどよく聞き取れませんでした。
今は一刻も早く西の森、あの水場に向かわなければ!
~西の森~
精霊さんに見せてもらった景色を辿ります。
おそらくもうすぐ。
会敵するでしょう。
敵は強いー
あのキャロルさんがまるで歯が立たなかったのです。
キャロルさんはその昔、冒険者としてとても有名で強かったと聞いていました。
それでも!
相打ちになろうとも、敵を倒せなくても。
必ずヒーちゃんは助け出すと改めて誓うのでした。
森が開けます。
水の気配。
‥‥ここですね。
「エリー、一気に詰めます。ヒーちゃんをお願いします!」
「分かったわ。気を付けてね、アーちゃん。」
短い打ち合わせ。
私はまだよく見えない敵に向かって一気に詰めます。
ドン-。
震脚から八極拳の歩法である活歩で敵に迫ります。
身体強化(改)で繰り出される震脚+活歩の移動はまさしく縮地、瞬間移動さながらの速度でしょう。
でも。
私は足を止めてしまいました。
エリーも急停止。
私の後方で同じように立ち止まってしまいます。
目の前に居るのは綺麗な女の人。
ダークエルフの女の人です。
その人が大切な物を守る様にヒーちゃんを抱いていました。
ヒーちゃんは古めかしいブランケットに包まれて後ろから抱きかかえられています。
ヒーちゃんはどうやら眠っているみたい。
ケガとかは‥‥ないみたい。
ひとまず安心しました。
私はゆっくりと女の人に近づき、私の間合いギリギリの所で止まります。
エリーはその場で待機です。
「何者だ?」
女の人が話し掛けてきました。
私は応えます。
「私はヒーちゃん‥‥ヒルダの義姉です。ヒルダを返してもらいにきました。」
その台詞と同時に腰を落として構えます。
まだナイフは抜いていません。
ダークエルフの女の人はピクリと眉を動かすとヒーちゃんをそっと寝かせ、立ち上がりました。
シャンー
女の人は双剣を構え、私に応えました。
「そうか。私はヒルダの母、イメルダだ。」
え?
ヒーちゃんの‥‥お母さん?




