アウラ、引き受ける
その晩。
私はダカン父さまに今回のハウエルさんからのお願いについてお話ししました。
「ダカン父さま、少しいいですか?」
「うむ。練兵のことだな‥‥」
「ダカン父さま。アウラ流活殺術は護りの術だとご理解していただけていますか?」
「うむ。活かすも殺すも術者次第。それ故に使い手を選ぶ、であろう?」
「その通りです。正直に言います。このお城にいる兵士さんの中にはエリーを蔑んでいた人たちもいます。そんな人たちが力を得たらどうなるか想像してみて下さい。」
ダカン父さまは暫く目を瞑って‥‥瞑ってるのかな?
「‥‥おそらくその力を振るいたくて何らかの問題を起こす可能性は高いな。そして必ず被害者が出る。」
そうです。
手に入れた技や力は試してみたいもの。
その矛先が強者やモンスターであればいいのですが多分彼らは弱者にその力を振るうと思われます。
「私は練兵についてお引き受けするのは吝かではありません。」
「誠か?」
「はい。ですが幾つかの条件を出させていただきます。」
「ふむ、その条件とは?」
私は条件を提示します。
ひとつ、アウラ流活殺術の指導は騎士団に限定する
ふたつ、ダカン父さまとハウエルさんが推薦する50人を選出する
みっつ、私とエリーがその50人を面接する
ここまでが第一試験。
よっつ、第一試験通過者は一ヶ月の間、街の奉仕活動と犯罪の取り締まりを行う
いつつ、指導開始前に技術秘匿の誓約書にサインをする
むっつ、私利私欲の為にアウラ流活殺術を行使した場合、カルナザル領主は全責任を取ってその者の技を封じる
「以上です。」
「‥‥分かった。私も少し考えたい。今の条件を書面に認めておいてくれ。」
「分かりました。」
この夜のお話しはここまで。
勝手にいろいろ条件を出してしまいましたので明日、ちゃんとエリーにお話ししましょう。
~翌日~
「と言うわけなのですよ。」
「はぁ。アーちゃんてばホントにもう!」
「ごめんね、エリー。」
「でも条件的には問題ないわね。ただ私たちに不適合者を見極められるかな?」
「それは大丈夫だと思いますよ。」
「どうして?」
「まずエリーを残念騎士と蔑んでいた人たちは後ろ暗さがある為にまともにエリーのお顔を見れないでしょう。そして私たちを舐めている人たちもなにかしら態度に出ます。必ず。」
「その人たちは全員落第なの?」
「いえ、そのための奉仕活動と街の治安維持なのですよ。」
「ああ!なるほど。私たちの事は置いといて街の人たちを護るべき者と思っているか分かるのね。」
やはりエリーは賢いです。
「ではこの条件で引き受けて問題ないですね?」
「私はいいと思うよ。」
「はい。後はダカン父さまとハウエルさん次第‥‥ですね。」
そろそろソフィー姉さまに預けたヒーちゃんのお勉強が終わる頃ですね。
ヒーちゃんをお迎えに行きましょう!
「ねぇね!みてみてー!」
ヒーちゃんが羊皮紙を私に差し出します。
「どれどれ?『ひ・る・だ』ヒーちゃんの名前ですね!」
「あい!かけるようになったのー!」
ぴょんぴょんと嬉しそうに跳ねながらヒーちゃん。
「凄いねヒーちゃん。私にも見せて?」
「エリーおねーしゃん!いいでしゅよ、はい!」
「うふふ。ヒーちゃんは凄いのよ?後少しお勉強を続ければ読み書きは完璧になるわ。」
おお!ヒーちゃんは天才なのです!!
ご褒美に通常の3倍なでなでしてあげましょう。
「ここにいたか、アウラ、エリザベート。」
ダカン父さまです。
その後ろにはハウエルさん。
「アウラ。お前の条件を全て飲もう。」
「明日にでも50人の選抜を行っておきますので。」
「分かりました。それでは正式に練兵の件、承ります。」
「うむ。」
「あ、それと指導ですけど。」
「ふむ?」
「全て口伝で行います。よろしいですか?」
「アウラ殿、それは騎士たちに記録させるな。と?」
「可能であれば。」
「分かりました。誓約書の件もある。皆にその旨伝えましょう。」
ハウエルさん、門外不出と理解してくれた様です。
「‥‥門外不出の秘術。燃えるな!」
おっと、ハウエルさんのテンションの方向性が変な方向に。
ま、わかりますよ。
ハウエルさんもダカン父さまも男の子なのですね。
「ではアウラ、エリザベート。明日の朝食後に練兵場に来てくれ。そこに50人の騎士を集めておく。」
「ああ、アウラ殿。私と領主さまも面接を受けますのでよろしくお願いします。」
あらまあ。おふたりともですか?
おふたりなら問題なく合格なのですけどね。
「ねぇね、しぇんしぇーしゅるの?」
「うん。明日から‥‥正確には一月後だけどね。」
「わたちも!わたちもくんれんしゅる!」
「そうね。分かりましたよ。じゃ一月後にヒーちゃんがとっても元気になってたら訓練しましょう。」
「やったー!」
ヒーちゃんとっても嬉しそう。
さて、成り行きとはいえ騎士団の武術指南役になってしまいましたね。
これからどうなるのか。
私にも分かりません。




