母、我が子のために
ヒルダは弱い。
私たちの様に戦いで身を立てることは出来ないだろう。
しかしあの子は精霊に愛された。
私たちが忌まれた精霊に。
これはきっと祝福なのだ。
ダークエルフが精霊の愛し子となる。
奇跡だ。
私はそんなヒルダが愛しく、そして誇らしかった。
ある日、旦那がヒルダを連れて狩りに出た。
旦那も父親として思うところがあるのだろう。
私は何も言わず2人を見送った。
帰ってこない。
あれから10日が過ぎた。
心配だ。
ヒルダは体が丈夫ではない。
ケガをしていないだろうか?
病になってはいないか?
不安が常に頭に浮かんでくる。
その夜ー
帰ってきた。
旦那ひとりで。
ヒルダはどこ?
「捨ててきた。」
いま、なんて‥‥?
「あんな役立たず、捨ててきた。」
こ、このクソ野郎!
私は咄嗟に抜いた短剣を旦那の足に突き立てた。
「ギェッ!な、何を‥‥」
ヒルダはどこ?
「だ、だから捨てて‥‥」
どこに!
グリッと短剣をひねる。
「ぐぁあ!か、カルナザルだ!あの街には孤児院がある、死にはしない‥‥ギャアー!!」
一旦抜いた短剣はもう片方の足に突き立てた。
これで追っては来れないだろう。
「こ、こんな、事をして!お前は‥‥」
バカか、お前は。
少し前までお前にもそれなりに愛情を持っていたがヒルダへの愛情に適うはずないだろうが。
離縁だ。
「は?」
私はヒルダを追う。
追って来れば殺す。
分かったか?
分からなくても構わん。
私は行くからな?
「ま、待ってくれ!治療を‥‥」
最後までバカだな。
できることならそのまま死ね。
クソ野郎。
ヒルダ、待ってておくれ。
母が、母が今すぐ迎えにゆくからな。




